0245:バガローン③

 モダラーンが連れて帰ってきたのは、ヒーム族の男とノルドの女……だった。


 厳格な主席狩人が長に確認を取らずに、ヒーム族をこの集落へ案内したのに一同は驚いたが、一緒に連れてきたノルドの女にも驚いていた。どこか……何か、内包する魔力の輝きが大きいのだ。


 これはもしや……ここ百年以上接点が無い、ハイノルドの方ではないのか? と皆が考える中、二人を集落の集会所へ案内する。


 なんと、男はヒームだが、ノルド、しかも外交官の夫だという。外交官になる力=森への大きな忠心を持つにも関わらず、他種族の者と? とも思われたが、何か理由があるのかもしれない。


 しかし、彼ら二人で……まあ、状況の確認に来たということなのだろう。とりあえず、急いで駆けつけたということか。


 が。メールミア王国オベニス領総務部長のモリヤ……そして外交官の夫と名乗った男は、状況を聞くと、すぐに、避難してきていたガギルの、いや、怪我を負った者のいる場所へ案内を求めてきた。


 今、ガギルが使用している場所は集落の貯蔵庫であり、重要な隠し施設でもあった。長である自分としては一瞬、外部の者をその場所に案内するということは……などと考えたが、もはやそういう状況でも無いことを思いだし、案内することに決める。


 洞窟に着くと、モリヤは横たわるガギル、特に重傷というか、既にいつ死んでもおかしく無いレベルの重傷者……一番酷かったドガルの妹、モミアに手をかざした。


 それなりに長い年月を生きて来たが……その日、初めて、本物の奇跡を目の当たりにしたと感じていた。


 まず、自分の目の前で……どう考えてもあと数日保てば良い方だと思われたモミアが明確に回復した。何よりも失った腕、朽ち落ちて変色して腐り始めていた右腕をほぼ一瞬で治療してしまった。さすがに失った部位を回復することはできない様だが、それは当たり前だ。


 さらに、その腕が原因でおかしくなっていた身体もみるみるうちに良くなり……しまいには目を開き、意志を取り戻したのだ。


「ギリギリ間に合って良かった」


 ヒームの男、モリヤはこともなげにそう言うと、早々にモミアの元を離れ、他の怪我人の治療を開始していた。側にいた者が、バガローンを含めて、呆然としながら後に付いていく。


 その後。モリヤは倒れていた者全員を癒し終えた。


(何人いた? さっきまで、床に伏せって起き上がれなかったガギルが何人いたのだ? 二十は下らないハズだ。身動きできないレベルの病人二十人を癒しの術で治療した? 術を掛けて治りを早くした……のではなく、治療し終えた……と言ったぞ? どういうことだ? さらに全員を、か? ほ、本当にアレだけの数の者を治してしまったのか? ヒームが? どういうことだ?)


 バガローンだけでは無く、途中から噂が噂を呼び、集落の者ほぼ全員が、その術を見に集まっている。誰もが何も言えない。


(さっき、魔道具の力……と言ったが……何十名もの怪我人を癒やせる魔道具など聞いたこともない。もし、そんな魔道具があったとしても、それをなぜ、見ず知らずの他種族、しかも盟約も無いヒームが使うのか。どんなメリットがあるのか? いや……私たちもそうだが、ガギルも経済的に、余裕があるわけではない。そこまで得られるモノがあるとは思えないのだが……)


「バガローン様……これは……奇跡というモノでしょうか?」


「あ。ああ。そうでなければ説明はつかない」


「とりあえず、モリヤ……殿、いや、モリヤ様は休んだのだな?」


「はい、客人の宿泊所へ案内させました」


 バガローンの頭には先ほどの奇跡がハッキリと刻み込まれていた。


「これはもしやすると……神が遣わせた使者なのでは?」


「森都の件……お願いしてみるしかないのでは?」


 バガローンの意見も、他の集落の者と同じだった。自分たちがどうということは別にいい。昨日まですっかり諦めていたことが……最後の希望が繋がったのだ。





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