0244:バガローン②

 到着したガギルの者たちは……酷い状態だった。今はまだ、亡くなってはいなかったが、このままでは確実に命を落とす。さらに、今の状況を維持しようとしたら、更なる負担がのしかかる。


 バガローンは即イーズの森域全体へ使者を立てることにした。イーズの森域は広大だ。ノルドの集落も全体で考えれば北に四、東に五、西に三、南に四。そして中央に四とさらにノルドの秘事として隠されているが、森都も存在する。


 森都は大きな森、森域と呼ばれる大森林には必ずあったと言われているその森域の中心地で、森全体に影響を与える神樹を守るように作られている。神樹の枝などは、魔力制御、増幅効果をアップさせる凄まじい性能の両手杖に加工できるため、多くの者に狙われた過去が存在する。なので今ではその森域に住む者にしか明かにされていない。そしてこのイーズ森域の森都には……。


「外交官が……メールミア王国の……臣下でもあるだと?」


 西の集落から援助物資が届けられた。それと共に、現在のここの窮状を外交官に伝えたらしい。 


 外交官とは、各自が森に引きこもり傾向にあるノルドの集落や森同士の交渉を司り、さらにノルドだけでなく、全ての種族との交渉を司る役割を与えられた者のことだ。外交官の証があればそれだけでまずは話を聞かねばならぬし、よほど存外でない限り、協力的に行動しなければならない。それはノルドだけでなく、ハイノルドにまで到る。


 ヒームが外交官についてどこまで知っている、覚えているかは判らないが、ノルドやガギルでは現在でも共通認識のハズだ。


「外交官が……昏き森の長の娘、ミスハルと申しておりました。その彼女が西の集落に交渉に訪れたのです。単純にリーインセンチネルから一番近かったという理由らしいですが。彼女はそこで、ノルドの各集落には、燻っている者が確実に数名づつ存在するという話をされまして。ノルドの将来、未来を考えると森だけにこだわるのもあまり良くは無い。だが、他に目を向ける余裕もない。しかし、燻らせている者が自分の意志で外に出て、様々な局面に向かい合うことで、将来何か変化が訪れるかもしれない。さらに、もしも。もしも森に何かあったりした場合、一時的に身を寄せる場所が用意できるかもしれない。なので、燻っている者と直接話す機会が欲しい……とのことで」


 言ってることはバガローンにも良く判る。燻っている者……というのは、主に出戻りの女の事だ。子をもうけられなかったり、夫が亡くなってしまったなんていうノルドの女は、大抵、元の集落へ戻されてしまう。女は狩人として働くには非力なため、雑用……皮の鞣しなどが主な仕事になるのだが、大抵それ専門でやっている者がいるので、邪魔者扱いされることも多い。可哀想だが、穀潰し、無駄飯食いなどと悪態をつかれてしまうこともあるのだ。


「外交官は燻っていた者たちと話をし……西の各集落から三名ほど、オベニス領へ向かうことになりました。その代わり……ではないですが、うちの集落の長が現状、この集落が少々問題を抱えているという話をされまして。外交官も善処すると答えられていました」


「王国のオベニス領……昏き森に近い、か。名前は薄らと聞いたことがあるが、古より格段ノルドと関係があった訳では無いな。しかし、外交官がそんな場所に同胞を斡旋するのか? どういうことなのか」


「その辺の詳細はわかりかねます。人族にそそのかされて、ノルドを攫う……ということはあり得ないかと。正統に外交官でしたので。ですが、なので、もしやすると、その外交官か、その使者がこちらへ訪れるやもしれません」


 外交官は、基本、全ノルドに対して意見を言える代わりに、ノルドのためになることしか言えなくなるし、行動できなくなる。これは森によって判断される。まあ、簡単に言うと、ノルドとの会話、交渉で嘘がつけなくなるのだ。


 なので、正統に外交官と認められていることさえ確認出来れば、疑う必要が無くなる。


「判った。済まなかったと長に伝えてくれないか。感謝していたと」


「はい」


 その話を聞いている最中に、森に異変が認められた。侵入者……だが、非常に少数の反応を感じる。一人……もう一人居るような反応だが……同胞の様だ。


「……今話していた使者……ではないよな?」

 

 既に異変に気づき、装備を整えた主席狩人のモダラーンが歩いてきた。長として、警戒しながらだが、念のため、慎重に接触することを命ずる。




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