0242:正しい行い

「ドガルさん、それでどうしましょうか」


「ドガルと呼び捨てでお呼び下さい」


「……いやーなんというか」


(ガギルは強情ですから、譲らないですよ? 言う事を聞いた方が早いかと)


「判ったよ……ドガル、今後はどうする?」


「はっ、モリヤ様のご命令の通りに」


「……馴れない……ごめん、できればお館様で統一してくれない? それの呼び方もあまり嬉しくは無いんだけどさ」


「は、ではお館様で。ミアリア様、よろしいのですかな?」


「ええ、お館様がそれをお望みなら」


「は。ではお館様と」


「うん、でさ、今後なんだけど、元の鉱山……えーと。モボファイ鉱山だっけ? で何が起こったか調査するのが先決なんじゃない? 故郷なんだから取り戻さないとでしょう?」


「それはそうなのですが……実は、数年前から、モボファイは廃鉱の方向で動いていたのです。あそこに我々が定住して400年は経過しております。鉱物を掘り尽くしてもおかしく無い時間です。まあ、それでもと思い、深層部を掘り続けてはいたのですが、どうにも芳しくなく」


「取り返してもうまみがない?」


「はあ」


「そういう場合、廃鉱してどうするの?」


「廃鉱しながら、違う鉱山を探して調査団をいくつか送り出します。残った者たちはそれを待つというやり方でしょうか」


「じゃあ、現状当てがあるわけでもないんだ」


「はい。廃鉱は……まあ、あと二~三十年のうちにという話でしたので」


「これからだったのか。となると。なぜ、君たちの同胞が殺され、襲われたのかの調査は後回しで、まずは、生き残ってここにいるガギルの生活をどうにかしないとだね」


「は」


「ガギルが移住で求めるのは最大の要素は? 鉱山? 鉱石? 何?」


「鉱石……でしょうか。鉱山仕事は命がけですからな。どちらかと言えば、我らは鍛冶仕事、細工仕事が好きで得意なのです。当然、鉱山での鉱石掘りも嫌いでは無いですが、そっちはなんというか……賭け、運不運が大きいですから」


「そういうスキルとかは無いの?」


「鉱石を発見するスキルですか? 聞いたことがありませんな……鍛冶のスキルはあると思います。鍛錬していくと確実に上達していきますから」


「非常に効果は小さいですが、採掘の得意な者がいるのは確かですので、多分、鉱石や稀少な宝石などを見つけるのが得意な者もいるかと思われます」


「ああ~そういえば、昔そういう伝説のガギルがいたとか聞いたことはありますな」


「じゃあ、最終的には鉱山の側で生活したいけれど、まずは鉱石があればどうにかなる?」


「はあ、そうですな。鉱石と炉があれば、鍛冶仕事ができます。そうすれば、武器でも防具でも日用品でも、金属の道具が作れます。我々はそれを売ったり交換することで、必要なモノを手に入れてきましたから」


「うんうん。とりあえず、安全と思われて、鉱石もある場所ならいいってことだね?」


「はっ、元よりお館様に命じられれば如何様な場所でも」


「いいよ。なんか、思考停止してるみたいだからさ、ちゃんと意見を言って? 嫌なものは嫌といってくれないと、困る」


「はっ」


「じゃあ、俺が仕えてるオベニス領に移動しよう。ヒームの国、メールミア王国の一領ではあるけど、そこそこ融通は効くし、嫌な思いもさせないと思う。丁度君たちを匿って生活させることが出来る場所もある。って領主様、我が君は女だけどいい?」


「はっ、お館様がお仕えしているのですよね?」


「うん。妻だしね」


「奥方様ですか。ならば如何様でも是非も無し」


「明日になれば、今日癒した人たち全員が歩けるようにはなると思うんだよね。なので、移動を開始しよう」


「で、ですが、まださすがに歩いての旅は……」


「その辺も馬車とかどうにかするから。何よりも、このノルドの集落からは離れないと、そちらもヤバイと思うからね」


「……そんなにですか」


「ああ。バガローンたちは古の盟約があるとはいえ、君たちにとても良くしてくれたよ。この集落の備蓄……自分たちの蓄えや来年の種籾も使い切ってしまったんじゃないかな」


「そんな……」


「ああ。だから、いきなり現れて癒しただけの俺よりも、君たちガギルが本当に感謝しなければいけないのは、長期に渡って迷惑をかけた、まずはこっちだと思うよ」


「は、はい……」


「って、まあでも、土の盟約を捧げちゃったからね~君たちは俺の部下でもあるわけだ。なので、お世話になった御礼はしないとだけどね」


「?」


 実は既にこの村の実情はミアリアが調査済みだった。まあ、そりゃね。簡単だよね。敵地の調査に比べれば。それによれば、食糧事情はカツカツもカツカツ。この集落の狩人たちが毎日必死で獲物を追い求めている様が痛々しいレベルだという。


 ということで。次の日の朝。集落の広場に、こっそり収納から出した麦や魔物の肉、野菜などを積み上げて置いた。これで他の集落に連絡を取る間、食べるに困らないはずだ。


「こ、これは……」


「ああ、ガギルのみんながお世話になりました。貴方たちこの集落のノルドの善意が無ければ、彼らはとっくの昔にまずは怪我と病で。そして次に飢え死んでいた。癒者は当然として。さらに、既に食糧が尽きているにも関わらず、ガギルを追い出そうと言い出す人もいなかったようだ。いや、いたかもしれないけれど、ガギルたちには伝わっていなかった。これは生きる者として、とんでもなく正しい行為だ。だが、この世界では出来ないことが多すぎる。北アビンの誇り高きノルドに私からも感謝を。この物資はオベニスよりお持ちしました。昨日はちょっとドタバタしてしまって、出す間がなかったので」


「ど、どこにこんな……いや、魔道具……申し訳ない……外交官殿にも感謝を」


「ええ、そうですね、言っておきます。彼女が、ノルドは見栄っ張りで意地っ張りなので……非常に困っていると言うという事は、死ぬギリギリまで追い詰められている可能性がある……と言っていましたので」


「そうです……か」


「私たちとガギルの人たちは、今日オベニスに向かいます」


「え、もうですか」


「全員が歩けるようにはなっていますから。ゆっくりでも」


「は、はあ」


「彼らをオベニスで暮らせるように手配していますので、そちらの件、何かありましたら使者を立てていただければ。できる限りの事はさせていただきます」


「ああ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」


 安心したのかホッとした表情のバガローンたちに、ガギルの面々が泣きながら礼を言って回っていた。もう少し。こういう善人たちが安定して暮らしていけるくらいには豊かな経済状況を実現できればいいんだけど。




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