0240:奇跡

「事の始まりは、鉱山奥で発掘作業していた何人かが戻らなかったらしい。ああ、すまん、俺も現場にいたわけではないのだ。交易の為にこの集落を訪れて、帰る途中で、逃げてくる彼女たちと出くわしたからだ。で。鉱山から、鉱夫が戻らなかった」


 治療の合間にガギル族のドガルが説明してくれる。


「事故などで怪我をすることはあるが、戻らないなんていう事故はそうそう起こらない。大規模落盤なんて起こったら一族の名折れだし、そんな音も振動も無かったそうだ。当然、警備していた者たちと一緒に、探索が行われた。が。そいつらも戻ってこなかった。これは困った……と思っていたところで、鉱山から、得体の知れない黒い魔物の様なモノが溢れ出てきて、我々を襲い始めたそうだ。男は……子供以外全部盾になったらしい」


 とりあえず、倒れていた二十二名は重症で即治療しなければマズい状態だった。多分。きっと。時間が経過したために発熱などを拗らしている人も多かったし。


 だが、重症度で言えば最初のモミアさん以上にヤバイ人はいなかった。なので、俺の癒しの術数回で順当に快方へ向かってくれた。良かった。


 問題は俺の魔力が保つかだったが、あれからもずっと訓練を続けていたのが功を奏したのか、なんとか保ったようだ。ちゅーか、既に、どれくらいあるか良く判らないくらいに増えている……と思う。最近使い切れていないからハッキリしないが。


 次、オベニスに戻って時間が取れ次第、それこそ鑑定や転移を何回使えるか? とかで最大魔力量の再計測しないとだなぁ。現状、魔力切れが起こるのが怖いので確認できないが。何も無いときにやっておかないとなんだよなぁ。その手の事は。でも他にやることがあると、すぐ忘れてしまう。


 魔力切れにならず、魔力回復待ちが必要なかったので、癒し始めて数時間後には全員を癒し終えた。


 別に待って無くても良いと思ったのだが、その作業を多くの人に見つめられていた。最初のうちはその場にいなかったノルドも観に来ていた様だ。みんな、余計なおしゃべりもせず見物している。別に珍しいものでもなんでも……。


(お館様は……伝説の奇跡以上の癒しを行ったのですが)


 え? そうなの?


(最初の一人、重傷の彼女をあの短時間で救っただけでも異常です。それを一気に全員とは。さすがです)


「これで、魔道具の力は切れました。少し疲れました。休んでいいでしょうか?」


(全部魔道具のおかげに出来ないかな?)


(無理でしょう。ですが、お館様は元々優秀な癒しの術士で、迷宮産の珍しい魔道具を駆使して、今回の施術を行ったというのならなんとか。それでもギリギリです)


(信憑性はあるか。では、その線で。説明は任せて良い? 本当は魔力はもう少しあるんだけど、正直、ちょっと疲れたのでしばらく横になるよ)


(はい)


「しばらく横になる。患者の状態が急変したり、何かあったら、遠慮なく起こして」


「はい」


 ワザと口に出し、ミアリアに伝える。呆然としたままのノルド族の一人がハッと気づいた様に我に返り、客人用らしい小屋に案内してくれた。


 備え付けでベッドの用な布団セットが敷いてあったので、上着等を脱いで横になる。自分ではそれほど疲れていると思ってなかったが、長距離移動や長時間の癒しの連続のせいか、ぐっすり寝てしまった。


 ……起きて見ると景色が違った。


 俺の寝ていた小屋の前に並んでいる一面の背中。よく見れば半分はかなり小さい。ガギルの人たちか。残りは、ここのノルドの人たちかな?


(はい、そうですね)


(ミアリア……何をした?)


(いえ、何も。事実を述べさせていただきました。お館様は希有な癒しの術使いで、今回は魔道具を使用して限界を遙かに超える施術を行い、最終的に魔力を自分の命ギリギリまで使用して、全員を診終えることが出来た、と。多少脚色は致しましたが嘘は申しておりません)


(嘘?)


(本当は外交官が赴くところを彼女も必死に走ったため倒れてしまい、自分が行くしか無いと急ぎお館様自らここに向かったとか、ガギルが避難しているということは怪我人がいるかもということで、オベニス領でも一つしかない迷宮産の癒しの術増幅効果のある稀少魔道具を持参してきたとか、先ほど歩いて行ったのも実はギリギリで、内臓から出血し血を吐くところだったのを、自分自身に癒しの術をかけて押さえていた……とか)


(嘘じゃ)


(お館様は気持ち悪くなって横になったわけですから。嘘ではありません)


(そうなの?)


(ええ、そうです)





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