0235:ミスハル

 元々、ミスハルは俺に対して、非常に頑なな態度を崩さなかった。憧れのイリス様の側、一番近くに居たいと思っていたのだろう。妙にイリス様に馴れ馴れしい俺を嫌うのも無理は無い。にも関わらず、マッサージをしてもらわなければ強くなれない……っていう屈辱。


 うん、この娘に俺を好きになる要素とか、時間とかそういうモロモロは一切無かったもんな。まあ、俺も判り合おうと思う部分が皆無だった。


「モリヤ、ミスハルを頼む」


「え?」


「え? ではない。お前がなんとかしろ」


「えぇーーー! なぜ……自分が。ちょっと、話が良くわかんないんですが」


「男女の話は、当人同士でなければ解決できん」


「そんなーイリス様、我が君ではありますけど、我が妻でもありますよね?」


「うん、そう」


「なら……」


「他の妻、妾、なんでも良いが、それは夫が自分の裁量で解決するもの」


「えぇ……どちらかと言えば、ここまでの人数は自分の意志ではなかったんですけど……」


「うん、まあ、なんであれ、既にマッサージはしているのだ。この先どうするのかを決める必要がある」


「え、お、俺はもう、あの、これ以上……」


「ミスハルと話せ」


「そうだな」


 がーん。いやさ。うん。戦力的にミスハルの様な優れた人材は、オベニス領に必要なのは確かなわけですよ。なので、マッサージしたのは間違っていないと思っている。それもイリス様からしてやれって言われたしね。なんなら。


 あ。へ、部屋から出ていか……ない……で……って二人きりかよ! なんだよ! どうすればいいんだよ!もう!


 そういえばマッサージをした時点で、モリヤ隊のみんなは既に、俺を伴侶として考えていたって言ってたな。うーん。モリヤ隊のメンバーは、別に悪口じゃ無くて長年引きこもりに近い生活をしていて、させられていて。鬱憤が溜まっていて。その世界から連れ出し、自分の能力を跳ね上げ、さらに、新しい可能性に気付かせてくれたというのが俺に付いていこうと思った主な理由だと言っていた。


 うん、判る。それはなんとなく判る。彼女たちとは時間の概念自体が違う気がするけど、貴方の能力が必要だと言われれば、それに人生において非常に大きい。特に自分は必要とされていないと思っていた場合は。


 それこそ、俺自身……魔獣に襲われているのを助けてもらった、何も知らない時に公平に親切にしてもらった……というだけで、我が君、イリス様に命を捧げることにしてしまった。向こうの世界で長年生きて来たにも関わらず、そんなイベント一切発生しなかった。そこまで……俺個人を求められることもなかったし。


 きっと結婚でもして子供がいれば、違っていたのだろう。だが……そんな機会も無かったし、親からもそれほど熱い言葉を掛けられたことが無かった。


 そうか……ミスハルも確か、イリス様に村を救われて、命を救われている……俺と一緒か。というか、ほぼ同じ理由で命賭けてんじゃん。どちらかといえば被害者じゃん、二人とも。


フフ……


 いきなり笑った俺にミスハルがいぶかしげな顔を向ける。


「あのさ、ミスハルはイリス様が一番好きなんだよね?」


「あ、ああ」


「聞いてるとは思うけど、俺も……この世界に落ちてきた時、本当に何も判らない状態で森にいてさ。イリス様が「親切」に助けてくれなかったら、ここにはいない。確実に死んでいた。あの時、助けられなかったら確実にここにはいない」


「……」


「イリス様の「親切」はそれは、この世界では普通なのか? と思ったりもした。けど。オベニスの別の人、王都や他の勢力の話や、歴史書なんかを紐解いてみても、やはり、そうそうあんな人はいない」


 コクン、とミスハルが頷く。


「その部分までは……俺たちは一緒だ。違うか?」


「違わない……」


「ああ。イリス様を助ける、イリス様はあまり積極的に自分からナニカしようとする人では無いが……彼女を殺そうとしてきたり、行動を邪魔をしてくるならそれを排除しないと」


「ああ」


「よし。でだ。ミスハルは……どうしたい? イリス様のために何をしたい?」


「……役に立ちたい」


「今回の使節としての行動は、君しか出来なかった。ミスハルがいなければ、ノルドの女性がこの地に来ることはなかった。そのノルドの女性がどういう役目をこなすかはまだよくわからないけど、絶対にイリス様の役に立ってくれる」


「もっともっと、役に立ちたい、交渉だけでなくて、戦闘でも、政治でも、近衛、専属小間使いとしても!」


「んーそれはさ、無理じゃ無いか?」


「なぜ!」


「人に出来ることは限られている。そこまで万能に役に立つのはどう考えても無理じゃ無いか?」


「……なら、イリス様の警護では負けたくない」


「それは……戦闘能力ってことかぁ……」


 ミスハルが頷く。


「ちらっと説明したけど、ミアリアたちと同等になるためには俺と親密になるしかないんだけど……いいのか?」


「なんとなくイヤだけど、それしか無いなら仕方ない」


「うーん。そんな気持ちでさ、結婚っていうのは無いだろ。この世界の結婚よりも親密になる、側に寄る、一番近くに入るのだから」


「……」


「な? だから、とりあえず、戦闘力じゃない部分で……」


「子供の頃から……狩人として、大人の中で獲物を勝ち取ってきた。それは私自身の源でもある。狙ったモノを狩ることで負けるのは許せない」


「な、仲間に負けるのは別にいいんじゃ?」


「仲間に負けるのが一番嫌だ。彼女達は……そういうつもりではないだろうが、憐れみの眼で見られるのがいやだ」


「……」


「あと、自分ではイヤなんだけど、帰ってきて、モリヤがみんなと結婚したと聞いて凄く悲しかった。外されたってだけじゃなくて、リーインセンチネルとか、イーズの森域とか……ここから離れているほど、なんか、もやもやしてて、帰ってきたら、なんかホッとした。したのに、結婚したって言われたら、一番落ち込んだ」


「そ、そうです……か」


 それは多分、マッサージの効果……でもある気がするんだけどなぁ。うーん。比較材料がないもんなぁ。この世界じゃ。


「イリス様が一番で、イリス様が大事だけど、モリヤがいないのもイヤ」


 ……こういうとき、イケメンは何て答えるのさ。教えてよ!


「私も結婚する」


「……」


「する!」


 涙が。ミスハルの頬を伝って落ちる。あーなんていうか、意地っ張りで自分の気持ちもちゃんと表現できているワケでは無いけど……。恋愛に関して、考え方が完全に……子供なのは判ってるけど。


 この状態の女の子を抱きしめないままでいられるほど、俺は自分の中の男子が枯れたいとは思わない。ギュッとして……頭を撫でてやる。


 ミスハルは俺の胸に顔を押しつけ……大きな声で泣き始めた。







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