0234:外交官

「ミスハル、腹が立つ、ムカムカする気持ちは判る。が。とりあえず報告をお願いできないだろうか?」


 こういうときはイリス様からのお願いだ。ミスハルはそれだけは、どんなに調子が悪くてもちゃんと反応してくれる。さすが一人近衛。


「は、はい。えーと。イーズの森のノルドの集落、三つと話をしてきました」


「三つもか。さすがミスハルだな」


 上手い、イリス様。ここは褒めるところだ。我が君は天然で人心掌握に長けている。ミスハルの表情が若干明るくなる。


「三つの村、共に我々の様な立場の女がそこそこ存在しました。その人たちと直接話をすることが出来た結果、各村から3~4名ほど、オベニスに向かってくれることになりました」


「おお」


「多分、あと十日ほどで十数名がこちらに到着するハズです」


「それはありがたい」


 これはスゴイ。それだけ周ってこの時間で帰還しているということは、かなり大変だったはずだ。丁度、帰り道は、ほぼ、魔力喪失の魔道具で術が使えない状態で駆ける事になったハズだし。


「……ですがひとつ頼み事をされてしまいました」


「ん?」


「何?」


「今回巡ったのはイーズの森域の西側の集落なのですが。東……中央北側の集落でかなり、面倒な事態が発生しているらしく」


「森の中央北側……ということは、オベニスから南へ真っ直ぐ行った辺りの地域か?」


「はい。その辺りだと思います」


 イーズの森域はメールミア王国の南側全般に広がっている。


「その辺りの集落にガギル族が避難してきてるらしいのです」


「ガギル族?」


「その辺にガギルの集落はあったか?」


 ガギル族は……ノルド族がエルフなら、多分、ドワーフにあたる種族だ。山間部、主に鉱山を好み、鍛冶や細工物の製作を得意とする。ノルド族以上に他の種族と関わることをせず、この辺の国や都市では見たこともないと言われた覚えがある。


「イーズの森域にはそれほど高くは無いですが山脈も走っています。その山には鉱山があり、幾つかのガギルの集落あるそうです。そのうちの一つから……だと思うのですが」


「避難してきている……ということは何かに襲われて?」


「そうではないか……と」


「我々になんとかしろと?」


「「外交官」として協力をして欲しいと言われました。遠回しですが、今回協力したのだから、ノルドの「外交官」としての役割を果たせ……ということでしょう」


「お荷物で燻ってた人材に手を差し伸べただけなのに」


「まあ、それは仕方ない、モリヤ。向こうにしてみれば、交渉をしたという形になればいいのだ」


「そうですかね」


 どちらにせよ、話に聞くガギル族の技術力には関心がある。ちなみに現在オベニスに、ガギル族は一人もいない。ノルド族は~モリヤ隊の存在もあってか、ちらほらと、冒険者として活躍している者がいるとは聞いているが。


「ガギル族の技術……なんとかして教えを乞いたいですねぇ」


「ああ、そうだな。オベニスの鍛冶は修復をお願いするには申し分ないが、新規発注するには若干弱い」


 ヒーム族にも鍛冶師はいるし、技術はあるのだが、イリス様に見合うだけの武器をオーダーメイドで作成する……となると厳しいそうだ。さらに、鉄以外の、魔力を媒介にした魔導金属と呼べる様な特殊な金属は、ガギル族の独壇場だそうだ。


 まあ、そりゃ……というか、鉱山周辺に拠点を作成してそこで生活してしまうような種族には適わないよな。生活置いてけぼりってムチャクチャだもの。


 鍛冶や細工物、さらに魔道具等に関してはノルド族も全く適わないそうだ。リーインセンチネルの大賢者、八人のうち、四人がノルド。二人がガギル。残り二人がヒームらしい。

 

「判った。どうする? モリヤ」


「自分が行きましょう。難民がいるということは、食糧の支援や怪我人の看護も必要でしょうし。とりあえず、避難するということであれば移動手段も用意しないと。何よりも……自分なら大量の物資を運べますし、戻るだけなら一瞬で戻って来れますから」


「ああ、そうだな。もう転移が普通に使えるのだな」


「そこまで自由自在じゃ無いですが」


 現状既に、かなりの距離を転移することが可能になっている。なんとなくだけど、リーインセンチネルの向こう側……という位置からなら、一発で戻って来れそうな感覚が伝わってきた。


「だが……そのガギルの集落が「何か」に襲われて逃げてきたとしたら。それを奪還することになるのだが」


「ええ。なので念のため、ミアリアに付いてきてもらいましょう」


「判った。では任せる」


「その代わりでは無いですが、イーズの森のノルド族の方々の受け容れ、よろしくお願いします」


「ああ、判った」


 あ。ミアリアが話題になったことでまたミスハルが……沈んだ。そうだ。もうひとつあったや……蚊帳の外案件。みんなね。この領の主要メンバー全員ね……俺の妻になっちゃったからね。うん。ごめん。さらに既にそういう関係になって、能力アップしている人も多いからね……。


 疎外感を感じるんだろうなぁ。……そりゃそうか。うん。




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