0232:二大名物

 そして鉄道に続いて、二つ目が、英霊の泉……だ。


 この小さな泉から流れ出る少量の水が川、水路へも流れ込んでいる。


 英霊の泉から湧き出る水。ダンジョンポイントがバカ高かった理由が良く判った。これ、汲んで少々加工すれば(魔力を加えた水などで薄めれば)、低級のエクスポーション=体力&魔力回復薬になるのだ。


 まあ、普通に飲んでも、体力や魔力、傷も回復する癒しの水っていう、迷宮奥に存在する隠し泉。ぶっちゃけこれはちょっとマズい。放置して置けばここが迷宮だってバレるし、持ち出せないのが判っていても、どうにかして……っていう犯罪系の人たちが狙ってくる可能性も高い。


 現状、とんでもなく美味しい水……として認知されつつあるようだ。さすがに、各家に水道が或る手前、川や水路の水を飲む物好きはそれほど居なかったようだが、散歩で泉に行って、そこで休憩しながら飲んでみた、旨い! ……という人が結構多かったらしい。


 ということで、泉自体はこのシリーズの最小効果の泉、妖精の泉にさりげなく差し替えた。大きな噂になる前で良かった。が、美味しい水伝説はまだ続いている。既にちょびっとしか回復はしないんだけどね。プラシーボ効果ならそれはそれでOKだ。


 そんなわけで大人気の地下居住区が完成した。よかった、よかった。


 だが、地上部の復興はなかなか難しい。まあね、判りますよ。地下が楽しいのは。報告してくれる役人の方々の熱意というか、熱さも違うしね。最新の設備というか、都市の御仕事って感じで楽しいのでしょう。


 でもな~俺一人でたった一晩でどうにかなってしまう地下と違って、本格的に復興が必要なのは地上のわけで。


 役人たちの意識、方向性を地上に向ける様に指示を出していく。城壁は既にあるのだから、それを活用して、折角開発していた新市街も含めて、様々な施設を建設していく予定だ。それこそ、重要な場所に軍の練兵場、防衛施設を建設して、それ以外は公園とか森とかにしてもいいかもしれない。


 実は最終的には悩んだんだけど、予定通り地下に移すのは居住区と職人街のみとした。イロイロと面倒なのはわかるんだけど、地下に大きな商店は作らない。都市としての機能は地上に残しておかなければ意味はないというか……元々地下は避難用のスペースなわけで。


 地上倉庫は、特に領役場の資材倉庫は大きいのを用意した。まあ本当の貯蔵庫は地下にあるんだけど。

 信用のおける商店には地下の倉庫スペース(小)を格安で提供している。金庫とか銀行とかそういう意味合いになるのかな。まあ、ぶっちゃけ、何かあったときに、籠もれる様にしておきたいし。


 そして当然。


 誰でもいつでも無制限に地下の居住区へ入ってこれる状況って言うのは歓迎できない。


 なので、城門で行う様なチェックを、地下への階段手前の出入街管理所で行う。関所だ。


 これはもう、領民カードを首から提げる様なカードストラップを提供した。……ビジネス街のお昼時によく見かけるような情景……みんなが首からカードっていうのがオベニススタイルになっている。というか、それが憧れになっている所もあるみたいで、地下に居住するために定住を決意、領民カードをゲットする冒険者も多いという。


 領民カードは冒険者カードの派生品で、機能的にはほぼ、同じモノだ。魔力登録がされているので本人以外は使えない。セキュリティチェック用の魔導具もそこそこ使われているので、改良が簡単だったのも素敵だった。このカードにオベニスの住人である市民権の情報を付与されている。


 本来、城砦都市の市民となるためには「市民権」を購入する必要がある。その街毎に違うが、非常に高額で高ランク冒険者が長年苦労して貯金してやっと……っていうレベルだ。


 オベニスの「市民権」もそこそこ高い。これは安くしてしまうと、それだけで希望者が殺到する可能性があるという事実からだ。

 が。実は抜け穴を用意してある。対象者の履歴、縁故、紹介、面接などから、様々な契約、公共機関への就職なんていう各種手続きを行うと……大体九割引になるようになっているのだ。


 それこそ……他領や貴族の依頼で調査の為に潜入してきた様なヤツラには、超高額で購入してもらう。で、ちょっとでも怪しい素振りをみせたら、即BANだ。


 逆に切実な理由で移住してきた善良な人たちには、例え才能などが無くとも長期ローン(給与から天引き)で対応する。


 各種調査のための時間がかかってしまうが、元々市民権の取得には数年かかるので、季節ひとつ分で結果の出るうちの査定システムは歓迎されこそすれ、非難されることはなかった。


 とりあえず……オベニスの主要施設(居住区含む)が地下に移動でき、地上は出島、門前町として宿場、市場、商業区、農耕、放牧、畜産といった隠す必要の無い要素を固めて動き始めていた。


 職人街を地下に移動させたのは、今後極秘で作りたいモノが沢山あるからだ。


 現状一番最初に産業化しないといけないのが各種の「紙」だ。まあ、何でもなんだけど、必要なモノがDPと交換する状態って、俺が居なくなれば、いや、病気にでもなって動けなくなったら、スゲー面倒になっちゃうからね。


 トイレットペーパーもそのうち、職人の作ったモノに替えていく方向かな。ゴワゴワしそうだけど仕方ない。


 列車……は鍛冶ギルドの人たちにがんばってもらうしかないよなぁ~っていう。実際、もの凄く興味津々で、分解したパーツを検証してるらしい。


 それ以外の住居に設置されている便利な道具類は、魔導具なので、魔方陣の描かれた基盤? を複製したり、修復したりは現時点でも可能らしい。なので、魔石を補充できさえすれば永続して使用していく事が出来ちゃうという。


 まあ、とりあえず、長期的には俺がいないと困るだろうけど、短期的には独自運営が可能になったかな。よかった。


 そんな復興のための事務仕事、さらに純粋に地上施設再開発のための打ち合わせ等で謀殺される毎日だったが……長期間オベニスを離れていた、自称イリス様近衛のミスハルの帰還と共に、イロイロと面倒な事案が舞い込んでくることになる。



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