0219:王都再び

 イリス様とファランさんは五日近く起きなかった。だが、起きてすぐに、何か確信があるのか二人揃って王都に向かうと言いだし、即決定した。様子見は……王都でするらしい。


 王都再入場は非常に密やかに行われた。


 ぶっちゃけ、この世界で、道等のインフラ整備、馬も馬車もそれ以上の乗り物が進化していないのを理解してしまった。だって、強者は「はやかけ」の術を掛けて、自分で走るのが、移動手段として一番速いんだもん。


 当然、魔力喪失の陣で魔術が使えないエリアでは「はやかけ」は使えないが、術がなくても、自力で走るのが速い。


 俺はまたも、背負子で運ばれるという足手まとい&子ども扱い感満載だ。トホホ。普通の人の何倍の速さで走ってるんだろう……この人たち。


「モリヤに荷物を全部持ってもらっているからな……それだけで非常に大きい」


「ええ。お館様はやはり、スゴイです。こんなに楽な旅は有り得ませんから」


 うん、そうだね。収納には武器防具に各種資材、食糧、野営用の小屋まで詰め込んである。自分に出来ることに集中するとするよ。人には個性があるからね。適材適所って感じで。


 王都にあっさりと乗り込んだ(結構スゴイ高さの城壁を普通にジャンプで乗り越えた)俺たちは、一気に攻めることにする。王都近郊で合流した先発隊によって、下調べは充分行われている。


 というか、案の定、ヤツラは自分たちの策によって情報が遮断されてしまい、各種連絡がイマイチ繋がらず、戦局の見極め、軍の移動など全ての行軍が迅速には行われなかった様だ。


 普通に考えて、俺たちがここに近づく前に仕留めないとだろうに、そもそも、イリス様があの包囲網を尽くぶっ潰して、無傷でオベニスに帰還しているとか、イリス様がいないのにオベニスは防衛済みとか、辺境伯の騎士団が壊滅しているとか。その辺も正確には伝わっていないっぽい。生死すらハッキリとは伝わっていない様だ。


 それもこれも、伝令が尽く魔物などに襲われて情報が届かない&複数確認が出来ていないからだ。伝令、特に軍の伝令などは別ルート、別部隊から発せられる多角的な報告を統合させて、一つの情報の真偽を確定する。

 一ルートの伝令、一面的な情報に乗ってしまって軍を動かし、それが偽情報だった場合目も当てられない。まあ、戦術的な判断であれば、迅速を尊び、それもありなのかもしれないが、戦略的な規模でそれはあり得ない。


 ということで、何をするにも情報収集は大切……なのだが。


 オベニス方面にしろ、セルミア方面にしろ、妨害工作が濃密過ぎて、味方も足止めを喰らう事態に陥っているのは確定的だ。今でこそバカだなぁと思えるが、実際にそれを仕掛けられた方としては「よくこれをどうにか凌いだな」ってレベルな気がする。


 それこそ、俺たちは、立ち塞がるモノ全て、暴力でねじ伏せて王都に急いだ。が、このスピードは、圧倒的な暴力装置に、少人数、さらに移動のみを優先させた故の速さだ。


 騎士団単位で行動しようとすれば、道中に何割か失う覚悟の強行軍で無い限り、襲いかかる敵を撃退するだけで時間がかかってしまう。


 そんな状況のため、現在、王都に引き返せているのは、白ジジイ、黒ジジイ、第一王子、第三王子といった、将として軍を率いる者と、各騎士団の精鋭数十名の様だ。それ以外は戦場に残してきたらしい。アホか。油断しずぎだ。というか、誰にケンカ売ったのか、未だに判っていない。


 まあ、失敗した……とは思って無いんだろうなぁ。国王一同。そりゃそうか。多分黒ジジイの策は「過剰」と思っていた者もいたはずだ。金もかかりすぎだしな。


「んじゃ。別れましょうか」


「ああ」


「まずは正面からイリス様とフリエリ、オルニア」


「はい」


「シエリエ、モルエア、パルメス、リアリスは、ファランさんと一緒に黒の塔へ」

 

 全員が頷いた。アリエリは俺と行くことになっているので、脇に下がる。


 そもそも、王城には何重にも対術結界の陣が張り巡らされているし、建物自体にも巨大な結界紋が描かれている。


 ファランさんによれば、建造物の配置で紋様を描き、発生するタイプの結界もあるらしい。つまりは、この場所の支配者以外は術が使えない様になっているのだ。それはピンチというか、マズいんじゃないか? と思ったのだが。

 

 元々、イリス様はメールミア王国の「貴族」なのだ。我々はその配下。つまりは、この城で敵と判別される側ではない。味方であれば問題無く魔術が使用可能なのだ。


 当然、その辺は黒ジジイが対策済みらしいが、ファランさんはそれを難なく打ち消せるらしい。なんでこの人、通り名無いんだろう。元々、結界術に関しては、父親よりも格上だったそうだ。



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