0218:城砦都市オベニス住民談話記録③
城砦都市オベニス住民談話記録
■クーザ食料品店店主 ビルベニア・クーザ (下)
そんなことを考えながら、領役場のお偉いさん、商人ギルドのお偉いさんなんかと、言われるままに一緒に地下へ降りてみれば。
「なんだいこれは?」
ついつい、声が外へ漏れちまった。いや、でも、あたしだけじゃ無くて、他のみんなも同様だったみたいだ。この領はあたしらから税金を取ってないんだ。貧乏なんじゃなかったのかい? どういうことなんだい? こんな場所、いつ工事したんだい? 疑問だらけさ。
まあ、それは本当にあたしだけじゃなくて、かなり上の、お偉いさんまで知らされてなかったらしいからね。
えーと、イリス様の、御領主家の家宰さんか。なんかちょっと頼りなさげなひょろっとした人が言ってたけど。
「建物は壊れたり燃やされたりしても、また作れば良い。ただ、民は死んだら戻らない。それだけを優先するように」
ってことをイリス様に言われているそうだ。なんだかねぇ。あたしらの様なもんまで気に掛けてくださるってのはねぇ。甘いねぇ。本当に、この領は大丈夫なのかねぇ。ああ、ごめんごめん、歳取ると涙もろくなってね。
で。その地下さ。なんだろうね、この広い空間は。昼と夜があって、風も吹いてる。雨は降らないみたいだね。地下に水路があるって話は聞いてたけどね。こんな大きな土地? があるなんて一度も聞いたことがないよ?
で、その土地っていうか広い区画に、沢山の小屋が並んでる。避難ってことで、簡易住宅って家を割り当てられた。
うちは店ってことで、見習いも多い。二人~三人でひとつの簡易住宅っていうのが普通らしく、数軒立ち並ぶ一角を自由にしていいらしい。商人ギルドのお偉いさんが店毎に振り分けて行った。
で。この簡易住宅ってのがもう、とんでもない代物だった。ボタン押すと魔道具で灯りが付く。もの凄く明るい。夜でも昼の様に明るい。
さらにレバー回すとお湯と水が出て、その水は自然に外に排水されて。シャワーも温水が出て。トイレまでその部屋の中にある。いや、小さいけど、ちゃんとした部屋で分けられてる……こいつは貴族様かい? ってなもんだ。
それだけでもビックリなのに、このトイレ、レバーを倒すと自動で水が流れて汚物が流れて行く。一瞬で綺麗になる。さらに尻を拭くのも特別なのさ。トイレ用の魔道具で「トイレットペーパー」ってのもあって、それが柔らかい水に溶ける紙なんだそうだが、これは、トイレに流して良いんだってさ。というか、これ以外流すと詰まって大変なことになるそうだ。これまで柔らかい葉っぱ……オモラの葉とかシグラの葉なんかで尻を拭いてたのにねぇ。それはダメと。
当然だけど非常に高価な物なので、この紙以外は流しちゃ駄目だ。これは絶対に守らなきゃいけない。ちなみに、トイレットペーパーは無くなると「芯」っていう茶色い筒が出てくるんだが、それを持って配給所へ行くと、新品のトイレットペーパーと交換してくれる。誰が何回交換したかなんていうのもチェックされてるので、高価なモノだとしても余分にもらうとかそういうズルは出来ないようになってるね。
その他にも、冷蔵庫っていう箱。モノを冷やして保管する魔道具に、ああ、よく眠れる術がかかってるとしか思えない、二段ベッドってヤツも置かれていた。
この施設がもう、尽く、生活するのに便利なモノばっかり揃ってて、何が起こってるんだかよくわからないくらい動揺している。
というか、それはもう、あたしだけじゃない。あたしらなんかよりも上級の……それこそ、元貴族の商人仲間とか、公爵家と取引したことの或る仲間に話を聞いても、こんな魔道具はお目にかかったことがないそうだ。当然、これらを商売させてもらえないか? と尋ねた仲間もいたらしいが、なんでも特別な魔道具で、この地下から持ち出すことが出来ないらしい。
それにしても、昔に比べて税金も大して収めていないにも関わらず大丈夫なのかねぇ……。避難は大体三十日くらい……ということでここに住む家賃なんかは無料だそうだ。さらに、避難中の食事は全て、各区画にある役所の出張所で炊き出し、配給が行われる。なんだね、それは。至れり尽くせりじゃ無いか。
これだけ魅力的な場所を提供されちまうと……元に戻るのが嫌になってくるヤツも出てくるだろうねぇ。特に貧民窟の人間はあそこには戻りたくないハズさ。
何よりもあたしがここを気に入っちまってる。どうせならずっと暮らせないかね? 商売はどこでするのか? とか話し合わないとなんだろうけど。
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