0212:全属性

 うーん。いっそ、居住区は地下に移して、地上は要塞化……という考え方も無くは無い。が、その場合、現時点でも続々と辿着いている移民、棄民はどうするのか? 弱者救済はイリス様の根底思考だ。


 面倒くさい。為政って本当に面倒くさい。関わりたくない。どっぷりだけど。


 実はオベニス領は最近やっとイロイロと捗るようになって来ていて、税収が跳ね上がり始めていた。


 魔石による収入は当然として、住民票の登録や土地登記簿の確認、所持財産の明確化、収入の調査、商人などの帳簿の精査。俺の知ってる納税システムの何百分の一くらいの精度ではあるが、それなりに納得のいくシステムが完成しつつ或る。


 そもそも全ての機関、タイミングで、賄賂と搾取が何度も何度も繰り返されていたら、そりゃ「人間が生活していけるシステム」の実体など掴めるはずもない。今後はそれを突き詰めて、奪うだけでなく、キチンと与えられる、福祉や保健などのシステムも構築しないとだろうけど。


 で。さらに。自然に二重帳簿になっているのだが、セズヤ王国との水路を使った取引も軌道に乗り始めた。これは向こうが復興中の上に、軍を強化してアルメニア征服国に攻め込みたい……なんていう有力貴族たちの思惑なんかもあって、非常にこちらに有利な条件で契約を結べている。まあ同様の理由で、魔石が異様に高騰してるしね。


 その上……この地下迷宮のさらに地下四階以下には先輩のいじっていない、「いにしえ」の迷宮が存在している。迷宮は産出する魔物の素材や宝箱からのレアアイテム等で、都市や国家に様々な恩恵を与えることになる。公表してキチンと施設を作れば、何百という冒険者……さらに常時千人以上の雇用が発生そうだ。その上、超高額の迷宮産アイテムが発見され、競売にでも掛けられれば。その取引額の数割が「何もしなくても」領地に還元される。


 まあ、つまり。表向きには出来ない裏も含めて、オベニス領はかなり財政豊かと言っていいだろう。


「まあ、その前に……王国に今回の借りを返してもらわないとですけどね」


「ああ、そうだな。あ。そういえば! あまりにもイロイロあって失念していたが。モリヤ、お前、私の傷を治したな、アレは……なんだ?」


「何だって……癒しの術だと思いますけど」


「我が主はそんなことまでしていたのか」


「べ、別にそんな大したことじゃ……」


「……攻撃を受けた直後に気を失い、意識を取り戻したときには既に傷口は完治していたからあやふやではあるのだが……通常、癒しの術であの様な大きな傷……穴は治らない」


「そうなんですか? セタシュアなら……」


「無理だな。セタシュアは確かに、オベニス関係者の中では最も優れた癒しの術者だ。が。アレを治すことは絶対に出来なかったハズだ」


 そういえば……確かに、必死で頑張ってたけど、血が止まらないって焦ってた気がするな。


「私の予想が確かなら、あの時私の肩を貫いたのは迷宮産の魔術付与された矢だ。さらに、射手の能力によって強化されていた。心臓付近はなんとか結界術と「風纏」の魔道具を組み合わせたモノを常時発動させていたからどうにかなったが、弾かれて肩を貫いたのだ」


「ええ、確かに……これくらいの(両手の指で輪を作ってみせた。大体……直径15センチくらいか)穴が空いてましたね」


「かなり強力な矢だったのだな……オーベ師……いかがですか?」


「……それは……どう聞いても、その大きさで胸から肩が抉られていたのだとしたら、撃ち抜かれた衝撃で意識を失い、そのまま死ぬのが普通じゃろ。というか、何も無かった様にそこに立っているファランが少々信じられん」


 オーベさんとファランさん。個人的魔術二大巨頭に揃って責められると少々、やってしまった感がスゴイ……。


「……」


「血を失いすぎても、ダメなハズじゃ」


「そう……ですね。ええ。そんな感じでした。セタシュアが必死で癒してくれてましたけど、術が間に合ってなかったし。そうかもしれません」


「欠損した肉体を複製再生しながら治療する……という癒しの術を使える術者……聞いた事が無いな」


「腕を失った者の腕が戻るということでしょうか?」


「そう簡単では無いと思うがな。が、もしかしたら……モリヤなら有り得るやも知れぬ」


「出会った頃……界渡りしてきた頃。魔力など一切無い状態であったのは……もしかしたら、無垢の状態だったのかもしれん。そうなると、あらゆる属性に適性がある可能性があるな……お前の力……ますます他言できなくなったな」


「はい」


 アレか、少なくとも人体の仕組みをこの世界の人よりも詳細に知っているからか。魔術はイメージ力だ。術者の想像力次第で様々な効果や力を形作る。人の仕組み……基礎基本だけだが、保健体育レベルの知識だが、図解でなんとなく判ってるもんな。


 さらに全属性の術が使える……かもしれない。うん、まあ、特に接続して術者と繋がったとき、それこそ、オーベさんと繋がっている時に、彼女が術を使用すると、自分にそれが染みこんでくる気がするのだ。そうなるとそれは自分で使える気がする。


 特訓時にまた、吐き気を催す頭痛を感じるかもしれないけど。嬉しいのかそうでもないのか、微妙な感じだけど。


 異世界チート的な……全属性魔術行使者オールレンジエレメントマジックマスターへの道が開けた! かもしれない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る