0213:結婚

 前略……母さん。


 現代社会では社会不適合者、田舎で普通免許を持っていないと何かヤバイ人間じゃ無いか? と疑われるのと同じくらい、三十歳過ぎて結婚していないのは恥ずかしい……と何度も言われましたが。いきなりですが結婚することになりました。


 但し異世界で。


 現代日本社会で一切女性にもてる要素の無かった自分が、こちらの世界では……妻が……12名であります。しかも徐々にではありません。一気にです……。重婚です。自分でも良く判っていませんが、財産目当てとかではありません。だって財産なんて何一つ無いし。


「やーいやーい、オマエら、こんな美人と×××したことねーだろー? しかも12人だぞ! やーいやーい!」


 と母さん、父さん、親戚、友だち一同の前で煽ってみたいところですが、そちらへは簡単には帰れないようです。というか、茂木先輩の手紙を読む限り、多分帰れません。つまり、自慢も出来ません。ちぇっ。


 ということで。式とか無いから実感ないけど……結婚した。俺。


 そもそも、働き者の外国人の嫁さん……と言えば、アジア系飲み屋のお姉ちゃんをゲットした……感じ満載。オヤジがそこそこ若いお姉ちゃんをというあのパターンしか思い浮かばない。妻は毎月家族に送金っていうアレだ。


 俺の場合、断じてそういうことではない。そもそも。イリス様を除いて全員が「年上」さらにオーベさんなんて……年上とかそういうレベルの問題ではないからな。


 あのさ。よく考えなくても、自分の種族よりも長寿な知的生命体が存在する世界に転移してきた場合。自分よりも年上と結婚するのは当たり前という状況になりやすいのは確率的に仕方ないよね。


 よくハーレムモノは読んだけど、尽く相手の女性は10代、20代前半な年齢だったけどさ。うん。それはねーよ。アレか、転生なら……自分も子どもから育っていくわけだから、あるのかな? そうなのかな?


俺:31歳

イリス様:29歳

ファランさん:30歳後半(らしい)

モリヤ隊:40~60歳

オーベさん:900歳越え


 へ、平均年齢……高ぇ……。というか、一人のためにグーンと上がっている気がする。言わないけど。絶対に。うん。


 気にしちゃ負け案件なのかな。うん。そうかもね。外見は尽く20代半ばなのだから、問題無かろう。というか、ファランさんは「多分ノルドが混じってる」らしい。ああ、そういうのもあるか。


 うん。大事なのは精神年齢だしね! みんなその辺は若いし……あ。でも、あの愚痴連打は……おばちゃんそのものだったというか……。


 細かいコトは、き、気にしない、気にしない。うん。


 ……と。現実からの逃避ということで、元の世界に思いを馳せてみましたが。現実には大問題として立ち塞がっております。


 イリス様はね。いいんだ。領主だし、我が君だし、俺的な女王だし。優先するのは当然というか、当たり前というか。特別扱いしても、イリス様だから。でどうにかなる。


 でも。ファランさん、オーベさん、そしてモリヤ隊の九名は、どういう順列、順番でかまっていけばいいのか、良く判らない。どうすればいいんだろう? 


 そもそも、この世界、ちゃんとした戸籍制度が無かった事からも判る通り、婚姻関係の考え方や、届け出もいい加減だ。


 さすがに王族や貴族レベルになると、神の前で結婚すると宣誓した証が、婚姻を結んだ両家で保存される。


 が、貴族でも正妻以外は何もないようだし、市民など、事実婚が普通だ。そもそも、財産の継承などは身内で処理される。


 刑事罰は大まかだが法制度も存在する。が、民事罰に関してはよほど大きな規模の問題でない限り、家庭内、一族内、ギルド等の自分が所属する組織内で処理されるのだ。


 そもそも、男尊女卑のひどいこの世界では離婚という言葉はあれど、考え方はきちんと浸透していない。旦那の気分で奥さんが追い出されるケースも多いようだ。


 ということで。俺の所属する組織はオベニス領役場。トップは当然、領主であるイリス様。今回の婚姻に、何か問題など或る訳がない。


 一応、ケジメとして、教会、神前で署名した証をお互いが所持する事になった。指輪とか……余計な事は言わんとこう。なんせ通常の十倍だ。あ。でもそのうちなんかプレゼントしよう。防護系の魔道具の指輪とか探そう。

 

 さらに説明しておくと、この世界での宗教は非常に地域限定的で、広範囲に布教された大宗教は存在しない。カリスマ性を持つ大詐欺師がいなかったのか、魔物という強大な天敵のせいで大航海時代が存在しなかったのか。何が原因か判らない。


 オベニスにあるのも癒しの女神を祀ってある小さな教会だ(オベニスに教会はひとつしかない。外見も良く見なければ普通の民家っぽい)。経典などハッキリしたモノも無く、教義は口伝であり、そもそも、教会単位で独立している。


 大体、弱き者を助けよっていう互助会的な教えであるのはどこも変わらないらしい。なので、孤児院も運営している。運営費は、尽く喜捨と寄付とのことだ。常に経営は苦しく、教会にいる修行者(と言うらしい。まあ、神父とか修道女とかは、キリスト教辺りから発生した名称か)の人たちを含めて清貧生活を送っているそうだ。まあ、その辺の細かいコトは地下へ避難する際に初めて聞いた。


 それこそ、癒しの魔術があるのだ。ソレを上手く使えば新興宗教なんて簡単に立ち上がりそうなものだけど。何かおかしい気もする。癒しの魔術が存在して、それを信奉する狂信者がいないっての。


 神聖国とか、その手の宗教系の国家も過去にあったって聞いたし、今も探せばあるんじゃないかと思うんだけど。近所にないだけか?


 まあ、判っているのは。強者崇拝の方がリアルで強大なんだよなぁ。


 強者が作った国。現存する全ての国がそうだ。あり得ない力を持ち、傷を癒し、人々を導く。目の前に現人神がいるのだ。これでは宗教に傾倒する隙間が無いのも判るけど。


 ただ、神はハッキリしていなくても、癒しの女神は崇拝されている。その伝承は非接触文化の説明時のみ不自然なほど明確に登場する。これはどういうことなのか。何かあるような気もするが。取りあえず、今は保留としておこう。


 

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