0202:一致団結
「いや、それよりも。我が君。……なんとなく……なんだが。言ってもいいか」
「ああ、いいぞ」
「どことなくだが……これは私の勘に過ぎないのだが……。とにかく急ぎすぎではないか?」
「む?」
「いつも……まあ、そこまで多く、我が君の戦いっぷりを眺めたわけではないが、少なくともアルメニア征服国との戦闘に比べて、余裕が無い……ではなく、遊びが無いではなく、そうだな……楽しまず仕事に徹している? というか」
「むむ?」
「まあ、それはよい。そんなモノは微妙な差であろうしな。だが。早く目的を達成して、さっさとオベニスに戻りたい。さっさと戻りたい。そう思う気持ちが自分の中でドンドン大きく、日に日に強くなっていく状態……をよく知っておる。というか、現在の私だ。私は大好きな
「……」
「どうか」
血生臭い野営地。井戸が生きていたので、ここで小休憩を取っている。元は小さな村だったのかもしれない。この手の小娘の恋愛小話が似合う雰囲気かと言われるとそうではない気もするが、実はお似合いという気がしないでもない。いや、しない。
「……そもそもだ。モリヤは私が一番最初に見つけた。そして持って帰った。私のだ」
「えーイリス様、それはズルイですよ! モリヤ隊一同は、お館様を共有婿として考えて、お慕いしてますから! 前から! 結婚を前提です。お館様の同意は一切ありませんけど」
「その前から私のだ」
ぷーとふくれっ面をするイリス。というか、そんな顔をするとは思っていなかったオーベとアリエリが愕然とした顔をする。
「……こ、子供か!」
「モリヤに一番最初にマッサージされたのも私」
「……オーベ師がお館様を我が主って言ってたのを……気にしてましたか? ずっと……ひょっとして」
「モリヤは私の家宰だ」
「アーウィック家のじゃろ?」
「私の」
「……」
「イヤラシイ子だって言われた」
「!」
「なっ! ずるい! ……マッサージのとき……お館様は一言も話さないんですよね……何か警戒しているっていうか。まあでも、そこが冷静で見つめられるとゾクゾク来てしまうというか、たまらないというか」
「なんと!」
(というか! ここにいる者全てがこんな気持ちだということじゃな? 恐るべし! モリヤ! 恐るべし界渡り! これが世界を揺るがすとまで言われた所以か! 真骨頂か!)
チャキ……
視線は合わせていない。が。イリスが両手剣を握り直した。アリエリもそれに反応して武器を持ち上げる。オーベもいつでも術を発動できるように、思考を整え始めた。
ポキポキ……グキグキ
首を回す。ゆっくりと、普通に回しているだけなのに、イリスの周りだけ何か、衝撃破が発生しているかのような……歪みが目に見える。
オーベの頭の横。小さい魔方陣が無数に浮かび上がった。それが流れるように右下に流れ落ちていく。小さく薄いがハッキリとした図案や文字がいつまでも帯のように繋がる。
アリエリの姿が次第に……薄くなっていく。本当に次第に……誰も気付かれないうちにその場から消え去るかの様に存在が無くなる。
爆発しそうな緊張感。張り詰めた場はその場に飛んで降りた鳥系の魔物に向けられた。
ゴガ……グバババババババ!
血の臭いに誘われて酔った魔物がかつて無い暴力で一瞬にして跡形も無く消え去った。魔物名をハッキリできないのは、瞬殺されてしまったからだ。正直、直前のデガス狼王領域軍との戦いなど比べものにならないくらいの力がぶつかり合ったようだ。野営地……だった場所に大きくいくつものクレーターが穿たれている。
「そうだな、我が君。我々の目的は、速く帰ること……だな」
「ああ」
「日頃、遠征の多いモリヤ隊は順番にお館様と一緒に過ごせる様にしてます」
「! そうか、だからああいうローテーションなのだな? おかしいとおもったのだ。順番に休暇が存在するなど」
ちなみに、この世界では定期的な休みなど存在しない。週の概念、安息日という概念が無いためだろう。休みたいとき……というか、身体を壊したときが休業日だ。
「……」
「イリス様? ……ひょっとしてズルイ……とか思ってます?」
「……」
「イリス様はほとんど、お館様と一緒に行動されていたじゃないですか!」
「マッサージはあれ以来してもらってない」
「私たちだってしてもらってないですよ」
「離れてみて初めて判った……私はモリヤが傍にいないと「イヤ」だ」」
「ほら! ほら! そうなんですよ……お館様の傍にいるとそこまででも無いんですけどね~離れ始めると……なんていうか、胸の辺りがぎゅーっとなるというか、きゅーっと締め付けられるというか」
「ああ! そう、そう! それ」
「私たちがお館様から離れて仕事をこなすのがどれだけ辛いか、わかりましたか?」
「むむう。わか、わかった。えらい」
「えへん」
「やめい。我が君。じゃれ合うのはそこまでにしておけ」
風が……変わった。それまで辺り一帯に充満していた血の臭いがあっさりと消える。そして……
その向こう側から武威の重圧……一軍が向かってきていた。
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