0200:ベネルビア沿海州連合

 ベネルビア沿海州連合……メールミア王国の南に広がるイーズの森域、それを越えた丁度真南に位置するのがフェノナム連邦国。さらにその南の沿岸部に近接する周辺諸島の島に点在する都市や街。それらが合議制で統括しているのが、ベネルビア沿海州連合である。


 沿海州連合。まあ、聞こえはいいが……実際の所、海賊の国とでも言えばいいのか。周辺海域での領海税の強制徴収や強襲強奪、海賊王に俺はなる! の方ではなくて、本気のバイキング、本気の強盗集団、犯罪集団なのは間違いない。違いは、この世界のルール上、強姦とか女をさらって云々が無いくらいだろうか? 逆に足手まといは即殺すみたいだけど。


 そんな国の旗を掲げた集団は、この辺では知られていないだけで、当然の如く、海賊衆の中で強い者から選りすぐられた、強者たちだった。


「しっかし、やっぱ、北の女は色白でいいな。剥製にして飾っとくのもアリかもな。でけぇ獲物を仕留めた時の様に」


「ぎゃはは、サンゲーン、だからってダメだろ、すぐに首絞めちまうの」


「だってお前、女なんて、殺すときの断末魔を上げるくらいにしか役にしか立たねぇからな」


 犯罪者集団の中には、何かと倫理から外れる者もいる。そんな中には、荒くれ者で乱暴というか既にキチ●イの領域に足を踏み込んでいる者も多い。


「それにしても楽な仕事だぜ、村を襲うだけでスゲー金が手に入るらしいからな」


「しかも何か手柄を立てりゃ、連合長に挑戦できるらしいしな」


「ああ、次の連合長は俺だぜ?」


「いや、俺だろ」


 全員が似たような装備、半袖のシャツに半ズボン。靴は編み上げのサンダル。腰に佩いているのは偃月刀の様な形の幅広いサーベル。革製の鞘に挟まっている。全員が全員、異様に首が太く、足が短いのはこの国の特徴、遺伝なのか。


「ここで様子見も飽きてきたな。もうちょっと違う場所で村や街を襲うか」


「そうだな。それもいいかもしれん」


 ここにいるのは一族の中から選抜されてきた強者。16名。誰もが腕に自信のある者ばかりで或る。


「これは清々しいな。ここまで悪党だと非常に殺しやすい」


「なん、だ、女!」

 

シャラン!


 そう言った瞬間にはサーベルを抜き、斬りかかろうとしているのは見事であった。そこまで一挙一動、即反応。怪しい=敵なのだ。正統な理由で現れたのでなければ斬り殺す。その瞬間の判断は正しい。が。それは相手が普通であったなら、だ。


 脇から伸びた両手剣が見えた瞬間。あっさりと太い首を胴体から切り離した。どんな強者でも首を切り離されて生きていける者はそういない。


「あ。あお」


 血飛沫が舞う。辺り一帯に臭いが広がる。


 慌てふためいた隣りにいた男が周囲を見渡した。ゆっくりと倒れていく仲間たち。


 よく見れば、首から上が数秒で崩れていく。明らかに……何かの術で倒れているのだ。倒れる、意識を無くすということは、殺されるということになる。周囲を見て慌てた顔の奴らも次々と墜とされている。

 いつ、奇襲を受けた? いつからこいつらは近づいて来ていた? と思いを巡らせた瞬間、白刃が煌めいた。


ズグン……。


 鈍い音と共に男も倒れ込む。こちらも煌めきと共に首が飛んでいた。


「この勢力は……こう言った集団が? いくつあるって?」


「十はあるかと……」


「面倒だな」


 モリヤ隊のメンバーは連絡要員を砦に一人、イリス、オーベと同行が一人。残りは全員情報収集に動いている。砦にはオルニア、ここにいるのはアリエリである。クリシア、モルエア、パルメスの三名は散っている。


「私が囮になってまとめて連れて来るっていうのはどうだろう?」


「我が君。我が主に言われた事を忘れては困る。安全に、だ。戦争に赴く者に「安全に」、だからな」


「それだけ信頼されているのです。お二人を」


「安全に。でも急いで殲滅しろだからな」


「お二人がいればそれが出来ると思われているのでしょう」


 アリエリが念のために癒しの術をかけた。


「まあ、そうだろうな。信頼されていると、ありがたがることにしよう」


「モリヤ隊のツラさ。お解りになりましたね?」


「ああ、確かに。これは体験してみねば判らんよ。長い年月を経てきたが、こんな感情は初めてじゃ」


 珍しく困った顔をするオーベに、イリスが激しく首を縦に振って同意した。



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