0198:本当?
全体的に何を言っているのか良く判らない状態の、指揮官と、副官。いや第三騎士団関係者(姫様と副団長バール、そしてその側近)。やはり、一番最初に自分を取り戻したのはバールだった。
「戦鎚でと、いう事ですか?」
「ああ」
先ほど、最初目通りした時にイリスが持っていた巨大な武器を思い出したのだ。
「え? 戦鎚? 片手鎚では……なく?」
「ああ、柄からハンマーまで、全部が黒ミガン鋼だな。アレは」
「え?」
「え?」
さすがのバールでも、取り戻すまでにしばらく時間がかかった。
「つまりは。北西から南下してきたイガヌリオの一軍を……オベニス軍……とは言ってもイリス様とオーベ殿と部下のノルド数名で瓦解させた……ということでよろしいですかな?」
「ああ、そう言ってる」
「嘘は……まあ、つきませぬな。御両者共に」
嘘をついたところでなんの利益もない。さらに、こんな戦況では報奨金を倍増してもらえるワケでもないのだから、功績を上乗せする意味もない。
「い、イリス様のその、お力を疑うわけではないのですが……」
「はっ。すぐに調査に出します」
「んー無駄じゃないか? 現状……死体が転がってるだけだ。あんなものはどうでもいいだろう」
「え?」
「大事なのは、今、囲まれているという事実ではないか?」
「あ、は、はい」
王女側は、もしもそれが本当だった場合、報奨、恩賞の関係で武功をハッキリさせておかなければいけないという、常識に従っただけだった。戦場では各人の戦働きの評価は非常に重要で、専用の評価官やそれ専門を行う騎士が存在する。当然、この砦にもその役割を与えられた者はいる。
それをどうでもいいなどと、投げ捨てる存在に出会ったことがなかったのだ。
(相変わらず……カッコイイ……)
元々、王女は、イリスが三つ首竜討伐の勇者になる前、冒険者だった頃に護衛されて以来のファンなのだ。身分を隠していたため、ある程度砕けた口調で会話を交わした。イリスにとってはいつもの調子でしかないのだが、それも、王女に取っては非常に新鮮で頼りがいの或る憧れの大人、先輩……的に映ったようだ。
ちなみに、イリスがオベニス領領主になった際に、唯一反対勢力でなかったのが彼女の派閥で或る。まあ、当然の様に、彼女も王女、女なので継承位は高くとも、実権はほとんど無く、オベニス領の実務的にどうにも役に立ったわけではないのだが。
「でな、姫様、現在のこの状況、一番の狙いは私とオベニス領の様だ。姫様は……うーん、なんと言ってたっけか……」
「とりあえず、丁度良い餌と言っていたの。喰われても問題の無い」
オーベの口調もかなり存外ではある。
「そうそう。それだ。同時に消せれば一石二鳥という感じらしい」
「私が……ですか?」
「ああ」
「え?」
「オーベ師、詳細説明は頼む、モリヤが言ってたと思うのだが、かなり忘れてしまった」
「……領主殿。我が主はかなり細かく、砕いた感じで説明しておったぞ?」
「……すまん」
「途中から聞いておらなんだな? ……まあ、多分、そうだろうと思って我がこの地に向かうのを止めなかったのだろうな」
イリスはもうすでに、ここから先の話に興味の無い顔になりつつあった。
「ワシも合流する前の話でな。実際にその場にいたわけではない。が。概要は聞いておる。説明が必要じゃろう?」
無言で頷く王女と、バール。それはそうというか、当たり前である。
「……つまり……「聖騎士」「できぬことなし」両者の片腕を奪った……さらに悪魔に憑かれた事になっている兄上の命と第四騎士団壊滅は……イリス様の所業であったと?」
「ああ、そういうことらしいな。全ては「できぬことなし」の策に対抗するためということだ」
「……王が。我が父が。い、いくら三つ首竜を討ったとはいえ、冒険者、しかも女に、爵位、そして領地を与えるのはおかしいと思ったのだ……。女が上に立つ等、頭に一切無い人だからな……その苦労は私が一番知っている。なので、叙爵の誓文に何か危険な条項が混ざっているのではないか? と念入りに調べたりはしたのだが……何も無く。しかし……そんな遠大な……謀略が仕組まれていたとは」
「国としてはそれほど珍しい策略ではないしな。逆に、既存の貴族にあまり被害の出ない上手い手であったのだろう。テーブルをひっくり返されなければな」
「ええ……」
「でだ。今回の件だが、我が主は絶対に仕掛けてくると予測しておった。ここまでの規模で……とはさすがに予想しておらんかったようだがな」
「あの……オーベ殿。先ほどからちょいちょい登場する……その、「我が主」というのは? 領主で或るオベニス伯に仕えているのなら、主人はイリス卿ということになるのではないのですか?」
「バールは初恋の人の主人が気になる様だ」
「姫様……」
「ああ、くくく。初恋など……鼻たれ。趣味が良いのは認めよう。イリス殿は「我が君」じゃな。我が君主様じゃ。で、我が主は……まあ、私が自分が言っているだけなんだが……」
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