0195:連合軍

「そもそも……今回のクリスナの黒ゴマ共……どう考えても展開に無理がある」


「はい。気になりますな。確かに」


「何がここまでヤツラを急ぎ出陣させた? 我が国は確かに第四騎士団は失っている様だ。が。王国騎士団のうちの一つでしかない。王国騎士団は基本は遊兵であり、他国へ攻める際の槍でもあるからな。確かに自国以外の方が悪名は轟いておろう。だが、たった一個騎士団いないだけで……それでどうにかなると思っているのか?」


「現実に、ほら、姫様、我が軍は追い詰められておるではないですか」


「ああ、だからこそよ」


「は。さすが。姫様。西南地方での戦力をここまで巧みに減らす技。かなり気を使い、さらに、手練手管を駆使して行っておりますな。でなければ、さすがにここまで自然に戦力が限られることはありますまい」


 数日前には王国騎士団のうちのいくつか。さらに、周辺の領軍が援軍として到着していなければおかしい状況であった。当然、各種早馬、伝令は四方に配しているが、何一つ反応が返ってきていない。さすがにここまで敵が目の前に迫ってきていれば、それらも潰されているのでは無いかと気付く。


 それこそ、例え周辺貴族同士がやり合っている因縁の仲だとしても、明確な敵が現れ、それを討つまでは。どんな歪んだ事情が存在しても、最前線から後方の味方との連絡、やり取りが存在する。必要な連携は確実に行う。自国内での補給線、伝令線を寸断するなんてあり得ない。


 つまり。後方が自分の国で、そこに味方が存在するのであれば、ここまで孤立することはないということだ。


「クリスナ公国軍、半包囲位置で接近中です。さらに。正体不明の敵……小隊規模がいくつか」


「も、申し上げます! クザンがっ」


「なに?」


「クザン連立君主国の旗を掲げた一軍が、騎士団規模で! いきなり、出現しました!」


「ひ、姫様! 東より、ベネルビア沿海州の旗が!」


「くくく、ここまで来ると笑えてくるな」


「失礼致します! 新手です! 不明の一軍が、東南に現れました!」


「……バール、どういうことだ?」


「いやいや、姫様、まさにこれが魔物の尾を踏んだということなのでしょうな」


「それにしても踏みすぎだ」


「ははははは! 確かに」


「はははははは」


 上等指揮官である二人が揃って笑う。正直、この第三騎士団に勝ち目などあるわけがない。にしてもこの余裕は、頼もしかった。


 今この場に駆け込んできていた伝令たちは軒並み重く暗い顔をしている。が、笑い声、顔に次第に人間の顔に戻っていく。


「この期に及んで逃げる……こともできぬか」


「できませぬな。ここまでの包囲は……尋常ではありませぬゆえ」


「旗を背負いここに到っているということは……」


「ええ。間違いなく強者でしょうな。我々が名も知らぬ様な者がそれだけいるということで」


 さすがにあまりに予想できない状況が展開されると、感情が薄れていくと言うが、まさに現状のこの二人がそれだった。いや、バールはさすがに歴戦の強者であるだけあって、地でこの逆境を楽しんでいる風でもあるが、クリアーディは……正直、既に、自分でどうにか出来るような状況ではないと悟っていた。


「我が戦力はこの砦に約五十名の騎士と百名の従士。セルミアの街に騎士は……第六騎士団の騎士を含めて二十と従騎士が八十か」


「その他、非戦闘員もおりますが……戦力とは見なさない方がよろしいでしょう」


「クリスナ公国の戦力は報告時より変わらぬか?」


「はっ。総大将は「閃光姫」ミルビネット。「炎舞楽」ガストン率いる炎装騎士団、「双暴風」オビオーヌ率いる魔風騎士団、重装騎士団の合わせて約二百。さらに傭兵団「暁の海」団長の「斬り込みの刃」ボラン。「外さず」グンドリオス。「重なる風牙」オルトスニール。「穴開け」ボンダ。「なぎ倒し」ゴーラン。の五名となります」


「壮観だな」


「それにしても。「貫く矢」のクラウデアがいないのは……どういうことなのでしょうな?」


「バールが「暁の海」で一番警戒していた強者か。怪我や病とかそういうことではないのか?」


「まあ、そういうことも有り得るとは思いますが……ヤツの長弓は防御結界を容易く貫きます。気配を隠す術を使う者がいれば、いつの間にか敵本陣に近づいて、指揮官を貫くことができます」


「実際にやられたか」


「はい、以前」


「警戒を密にさせてくれ」


「はっ」


「とはいえ。まあ、狙撃されるよりも先に首を取られそうだがな」


 が。


 それ以降戦局は……二人が思っていたよりも……硬直する。


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