0187:討伐
(ミアリア! どこに!)
(位置、確認致しました。アレが悪魔ですか。討ち取ってまいります)
(何を……戻れ! 危険すぎる)
といいつつ移動しているミアリアはこの地下の屋敷を飛び出し、既にオベニスを出て野営地へ向かって……いや、速い。これまでの、俺が知っている移動術とは速さの桁がちがう。
(モリヤ、我々も行くぞ。これはミアリアが……いや、無理か、止められん。だがっ!)
(ええ)
「かぜはや」を自分にかけ、部屋を出る。魔力はまあ、そこそこ回復している。ファランさんは……そこまででもないかもしれない。アレだけ強大な術を使ったのだ。というか……どういう……。
ミアリアの視界は一直線に高速で流れている。まるで行く先がハッキリと判っているように、下見してきたかの様に。
(ミアリア、何を!)
シッ!
歯と歯の合わせ目から息吹が漏れる。それだけで物量を感じるような濃密な力。既に剣は大きく振りかぶられている。って、片手剣ってそういう風に使うんだっけか? 動きで翻弄して斬り刻むとか、急所目掛けて突くとか……そんな大ぶりで、そんな見せ技で戦う様な武器じゃ……。
次の瞬間。目に入ってきたのは昼寝中のアルバカイト。剣が食い込む。ジュッという熱せられた鉄板に水滴を垂らした様な音が聞こえた。あっさりと右肩から下の草原に大きく刃が食い込んでいく。何も無かったかのように、豆腐を切るかのように。
「今の一撃は痛かった……。失ってしまった。多くの友を」
喋った? やはり、人語を理解する? 燕尾服……と見えたのは、貴族っぽい衣装。アルバカイトの衣装はこの世界のモノよりは若干、俺の元いた世界よりとでもいうのか。衿の大きめなジャケット、若干膨らんだシャツ。ズボンの裾は黒い脚絆に足先を蒔かれて、ブーツを履いている。
軍服とスーツと燕尾服と……まあ、いろんな要素が混ざっている感じか。
「纏っているのは、自分で食した者たちでしたか。悪趣味な。選択は消し去るのみ。ですね」
「へーへーへーあの忌々しいソロモンが居なくなったのは確認したけど。今はこんな面白いのがいたのかー」
「……」
ミアリアの剣が紫の光を纏う。なんだ? 雷か? というか、あの剣、ナマクラなんじゃ?
「おうおう、懐かしい痛みだと思ったら……マグダラの鍛冶技か、こいつをよくぞ用意したな……女」
「うるさい。消えろ」
縦に浮かび上がったアルバカイトの手が、そのまま、腕が、伸びた! 針のように鋭い先端が、ミアリアの髪を……数本、切る。
両手、そして、肩、いや、既に前面から、どこからでも針が彼女を襲う……のだが。高速で狙われているにも関わらず何一つ当たらない。
ゆっくり。激しい攻撃のなか、ゆっくりとミアリアが近づいていく。
「なっ! 貴様は……なんだ!」
「お前を消し去る者だと言っている」
言いながら、既に剣は黒い何かを幾つかに小分けにしている。斬り分けられたアルバカイトのパーツは中空で何ごとも無かったかのように、そのままくっついてしまう。何をしても無駄かのように、復帰してくるのが腹立たしい。
「無駄だ……」
「そうでもない」
再度。ミアリアの剣線がデクの様に立ち尽くしている貴族を斬り刻んでいく。
「このまま……これを繰り返せば消せる」
「くっ……」
さすがにその通りなのか、嫌がったのか、アルバカイトは距離を取ろうと後ろに下がる。それを逃がさないとばかりに追随するミアリア。
いや、この動きは……どういうことなのか。おいおい。イリス様の普通じゃ無い戦闘を何度も観てきた俺から見て、尋常じゃ無いレベルで対戦が行われてる。
ミアリアは……こんなだったけか? いやいや、俺は魔法剣士との激しい戦いを良く覚えている。だって、ついこないだだし。こんな……あの戦いが、単純に見えてしまうようなものでは無かったはずだ。
「くくく、すごいな。私がこの地に呼ばれなくなってから幾星霜経過したか判らないが、この地の戦士はここまで精強に育ったという事なのか」
「うるさい」
ミアリアの剣がアルバカイトの首を落とし……た瞬間にさらに一歩踏み込み、その首に対してさらに刃が振るわれる。
「ぐおおおお!」
アルバカイトの右手が光る! 針千本のように、身体全体から飛び出る黒い針! 近距離にいたミアリアは堪らない……と思ったが、きちんその部分を避けている。
逃げないんだ……と思った。
「ああ……こんな感じにすればもっとイヤか」
今度はミアリアの左手人差指が右手で持った剣の刃の部分を撫でる。ぼうっと……紫の上に白の力が乗る。
「聖別……」
ス……
何も抵抗のない、羊羹を切るかのように、アルバカイトの右肩から先が地に落ち、その先が沸騰するかのように泡を立てて、グツグツと煮立つ。今度は元に戻らない。
「き、きっさま……そ、そんなことがっ! だが、もう遅い、もう、門は、次元は繋がったのだ。あちらより! あちらより!」
その瞬間、復活しつつあった口に突っ込まれる短剣。そして、真下に切り捨てられる「暴食の王」。いくつにも斬り裂かれて、落ちていくその黒い欠片は、グツグツと煮え立ち、地面に落ちて、次第に蒸発していく。
「まがだー!」
既に存在が薄くなっているアルバカイトが必死の抵抗をするかのように、広がった。膜の様に視界一面が黒で覆われる。
そこに突き立つ剣。
「ハッ!」
息吹と共に、紫と白の光が大きく強くなり、刃が輝きだした。その輝きに触れるかの用に黒が消されていく。
ぶわっ……
燃え尽きる花火の様に、最後の火が瞬間強くなるかのように、一瞬で全てが燃え尽きた。視界に黒い何かは存在しない。
「ミアリア!」
俺たちが到着したときには……黒い煮え立ち終わった何かの残滓が……まばらに影を残しているだけだった。
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