0169:安全確保

(モリヤ……ここが、あの迷宮なのか?)


(ええ。正直、自分も驚いてますよ? 急ですが、迷宮では無く遺跡という事にします)


(ああ、その方が良いだろうな。説明するにしても)


「モリヤ様、この件、何一つ私の方に下りて来ていないのは……」


「ああ、パトリシア、すいません、ここは未確認区域だったのですよ。今回強引に階段を繋ぎました。確認が取れたのは昨日です。私もこんなにちゃんとした遺跡だとは思っていなかったので」


 パトリシアは理解出来ないという顔のままだ。


「明るいし……。モリヤ様、避難のあとは! ここはどの様に使われる予定なんですか?」


 シエンティアは好奇心丸出しな顔で、この施設の行く末を考えている。まあ、そうだなぁ。正直、こんなになるとは思わなかったしなぁ。本当に。


「イリス様次第ですよ。領主様の判断によっては、街の主要機能をこの地下に移動させるという可能性もあるかもしれません。とはいえ、まずは盗賊団をどうにかしてからです。守り切れなければ……ここも燃やされ、略奪されるでしょうから」


 またも一団がザワつく。うんうん、気持ちはわかる。いきなりこんな迷宮……いや遺跡……いや巨大な地下都市をあくまで「避難施設」として紹介されてもね。うん。俺もビックリしてるんだから許して。


 一区画は、大体150m×150mくらいの正方形。その中に300の仮設住宅。その隙間が道。そんな区画が4×4で16……ってことは端から端までで600mくらいだからゆっくり歩くと10分はかかる。地下施設としてはかなりの大きさだ。


 そもそも、オベニスの地上部分は大体……真四角じゃ無いから計りにくいが……東西南北に1.5~2㎞程度。だろうか? 端から端まで、ゆっくり歩いて30分程度だったからな。適当に見積もって大体、200ヘクタールくらいの大きさだろう。


 それに比べて……えっと一辺が約半分として、面積だから……オベニスの四分の一の地下スペースとなると、なかなかね。広いよね。少なくとも防空壕的な穴蔵じゃないよね。


 あーもうちょっと丁寧に設定すればよかったなーこんなにキチンとしたモノが作られるとは思わなかった。もしも後日も使用する、避難場所じゃなくするということなら、かなりいじらないとだな……。


 変に道が広いところと狭いところができちゃっててスゴイ違和感がある。特に仮設住宅が長屋みたいになってるんだけど、もっと途中に通り路を入れないと不便すぎるだろう。緑化もちゃんとしないと。公園とか。ああ、商店や厩、乗合馬車なんかも重要か。

 

「イロイロと疑問はあると思う。が。ここに避難するしかないと思う。決断をお願いしたい。数日後には地上は戦場となる可能性が高い。街はある程度破壊されたり……向こうに火の術を得意とする魔術士がいる以上、十中八九、火を放たれることになると思う。正直、こちらの戦力は劣勢であり、まずはイリス様帰還まで耐える戦いとなる。キミたちが地上にいては守り切れず、犠牲も多くなるだろう。何より……戦える者の人数は少ないのだ」


 ここにいるのはギルドや団体を率いている者たちだ。戦争のため、うちの領の一番の戦力が不在、その隙を狙ってきた傭兵団ということを理解していると思う。さらにそういう状況で、他の領や王国騎士団の援軍が来る可能性は低いというのも理解出来ている。王都関係者だけでなく、未だにイリス様は「女」というだけで相手にされていない状況なのだ。


 まあ、王国中枢の狙いはこの領を壊滅状態に陥らせることだっていうのは判らないだろうけど。そもそも、領主が嵌められそうになったから、仕返しに腕二本ぶった切って、消し去った件も知らないしね。あ、一個騎士団も全滅させたか……。


 あーあー迂闊に仕返しさせないために、そのために騎士団ぶっ潰したのになぁ。


 結局、もっと徹底的にやらないとダメだったのかなぁ。この世界の人たちは、直情的というか、短絡的というか、長期的にモノを考えられないというか。いや、あの策を考えた黒ジジイだからこそ、騎士団を消された事実を知ってるからこそ、イリス様頼みだっていう部分を重く考えた結果か。


 確かにそうだよなぁ。イリス様がいないことでこの領の戦力は大きく削られる。黒ジジイはイリス様さえいなければ、この領の戦力など……と思っているハズだ。にも関わらず、一流の、しかも大規模傭兵団を使い、辺境伯騎士団という押さえまで用意している。


 ここまでやるとは……正直、規模的に予想が出来ていなかった。


 しかもシラビスを……くそっ。くそっ。シラビスは口数の少ない、内向的だけど素敵なお姉さんというか。いや、違う。家族だ。うちの家族を……。俺が迂闊だっただけか。ちくしょう。モリヤ隊の報告がもの凄くレベルが高かったから、それを信じて、それ以上を警戒しなかった。裏をかかれている可能性なんていくらでもあったのに。


 その辺の裏での闘争を隊のみんなに任せっきりにしてしまったのもまずかった。かなり前から……極秘で動かれていたのだろう……。


 今回の件だって、ある程度対策が出来てるのも、シラビスが命を賭してくれたからこそ……。ああ、ちくしょう。冷静に。いつも通りに。苛立ちに流されてしまったら、無駄な時間が過ぎてしまう。


 はぁはぁ……落ち着け……それは後でと……泣いたはずだろう? 今は、今はとにかく策を、手数を増やすことを考えろ。後手に回ってるのは判ってる。




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