0168:迷宮改め遺跡とする

 地下水路を輸送に使用すると決定してから、地下迷宮の発見、魔物の危険性調査を名目に地下へ降りることを禁じてきたため、ここの存在を初めて知ったという者も多かった。というか、ここまで情報漏えいしていないことにちょっとびっくりしていた。ぶっちゃけ隠したところで……と思っていたのだ。


 なので、とりあえず、「迷宮と思ってたけど実は遺跡」? かも? とかそんな説明で納得してもらった。発見した遺跡を魔道具で掃除していたと。強引だが、まあ、迷宮改造よりは納得しやすいだろ。


「街の地下にこんな大きな遺跡が……」


「遺跡にしては綺麗すぎる……」


「なんだこれは」


 階段に着いた時点で、ザワザワと声が上がる。第一階層をあっという間に通過して、入り口から直接第二階層に繋いだため、長い階段になっている。さらに、大量の人員が通過するだろうことを想定して横幅も広くしてある。確かに大きい駅の地下街への入り口の様にも見える。灯りの魔道具で明るいし。


 まあ、本当に驚くのはここから……。


「な、なんだ! これは!」


「おお、おおおおお!」


「うぉっ、すげーな、これは」


 ぶっちゃけ、声は出さなかったが、みんなより先に、俺自身が驚いていた。


 ザワザワと……誰とは無しに驚愕の声が途絶えない。目の前に広がるのは格子状に配置した大通り。これ……馬車とか普通に走るな。広いな。というか、広すぎないか? これ。


 というか、この巨大な広間……の元になったのは草原なのかな。草原にもの凄く綺麗な道(アスファルトで出来ているみたいな?)が敷設されている。


 入った場所が後で役場とかを建設しようと思って空けて置いた最後の1区画のせいか、道で区切られている向こう側に簡易住宅がびっしり並んでいるのが見える。


 あ。そういえば。それよりも……空がある。あれ? 前は天井まで20mくらいだった気がするんだけど……あ。外の時間とリンクさせて、昼夜を生み出したからか?


 元の第二階層って……確か、石畳の圧迫感のもの凄い強い迷路だったよな……更地にしたらこんなに広かったんだ……。


「こ、これは……」


「ここが地下?」


「モリヤ、これは」


 広間にいた者たちは全員、ここに来ている。他領にツテがあるとはいっても、多くは行き場がなくオベニスに辿着いた者が多い。とりあえず、状況を確認しようかということになったようだ。というか、ファランさんの目が怖い。


 階段下に関所……というか、城門的なチェック機能を配置する建造物が必要だよな。税関というか。まあ、それは後で、だ。


 一番近い第二区画に辿着く。うーん。これ、広いなぁ。生活するなら馬車がいるなぁ。食糧は配給か。水は……出るんだよな?


「モリヤ様、こ、この建物は……」


「えー、みなさん、いいですかー? この建物は避難用の簡易住宅です。領主であるイリス様がいざというときのために整備していたものです」


 貴族口調は無理があったので、あの広間を出てからは「特別」ということで語り口調を変更した。


「こ、この建物が避難用の小屋……ですか?」


 確かに。明らかに石膏ボードっぽい壁。白くて非常に綺麗だ。新しいからね。そりゃそうなんだが……うーんと。この世界だと白とか透明とか……クリアな物質は作るのが難しく価値も高いし、維持するにもお金がかかる。それこそ、白亜の豪邸なんて毎年塗り替えが必要だ。


 まあ、そもそも屋根が必要かっていうのはある。この階層の天候が常に快晴を選択したので問題無い。さらに寒くない。壁も必要か……と言われれば、そうでもない。でもプライバシー的には重要だしな。


 天候固定なんだから……多分、比較的快適な気温。若干だが、風も吹いている。というか、空調が動いてる気がする。


 ドアを開けて中に入る。当然、住宅内は暗い。無意識のうちに脇にあるスイッチを押していた。灯りの魔道具がONになる。


「ま、まぶしい」


 お、思ったよりもマジで、震災などで使われていた簡易住宅だった。というか、記憶そのままでコピーとかしたんじゃないか? ってくらい。外見だけでなく中も似てる。ガス台が魔道具? になってるのと……こちらも魔石で動く冷蔵庫。冷凍庫はないみたいだ。


 というか……水道、金属性の蛇口がちゃんと付いている。これも……日本で生活していた者としてはごくごく当たり前の仕草で、レバーを上げる。


ジャー


 シンクに、水が流れた。


「み、水が!」


「それも魔道具なのですか」


「井戸では無く?」


 奥側にユニットバス……からバスを削除した……って、あ。そうか、ここ、元湯船の部分、下に水が溜まるようになってる……下に蛇口も付いているから、ここで洗濯できるのか。洗濯板があれば。


「トイレも使える……ハズ」


 ジャー


 水が勢いよく流れる。というか、このタイプのトイレってこの世界に……無いから、基本的な使い方のレクチャーをしないとなのか。トイレットペーパーも付いている。これの補充は……支給するしかないか。


 奥には六畳くらいの部屋が二つ。二段ベッドがあるので若干狭い。


 お、よかった。マットとシーツが付いてる。支給するとなったら、面倒くさいことになってたからな。カーテンも付いてる。至れり尽くせりだ。


「手前が台所兼トイレ兼洗濯場。奥が居住スペースですね」


「こ、この家を借りるのに、家賃の方は……」


「傭兵団を何とかするまでですから、避難期間は長くて30日程度でしょうか? 無料でいいですよ? なんといっても古代の遺跡ですからね。それ以降はイリス様が帰還なかれてからの話となります」


「……」


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