0167:迫害
「は、発言をお許しください、総務長様」
「許す。ああ、今後は許可は必要ない。手を上げて指名されたら普通に発言するように」
総務長である自分は基本、表に出ていない。今回は緊急事態、立場的に上位で或るということを示すためにも、口調などは貴族仕様にしろと指示されている。
「そ、それは……傭兵団に狙われてはいるものの、援軍が来る……という理解でよろしいでしょうか?」
「うむ。援軍では無いがその様なものだな。そなた、名前は?」
見かけない顔だ。多分、俺がセズヤにいるうちに雇われた系だろう。
「あ、は、あ、いえ、も、申し訳ありません。商業ギルドのバールネットと申します。以降の発言もお許しいただけますか?」
「ああ」
「現在ここオベニスにいる者たちの多くは、皆、どこかに傷を持っています。他の領で迫害を受けたり、追われたり、複雑な事情でここに到るしか無かったり。率直にお聞きします。逃げる場の無い者が生き残る可能性はどれくらいあるのでしょうか?」
「先ほど……自分は守ると言った。であれば、この街の者全てを守る。ということだ」
視線がファランさんに向く。まあ、そうだね。普段見たことの無い得体の知れない男よりも、見慣れている上に、肩書きもハッキリしている領主代行の意見だよね。
「モリヤは私ではなく、イリス閣下直属の部下にして代行だ。イリス閣下がいない今、彼が言ったことはそのまま、領主発言と思ってもらって良い」
「はっ」
「あ、あの、鍛冶ギルドの長、アーデリアと、も、申します」
うん、君たち……か。うん、それはそうだね。大変だったろう。顔を見て頷く。鍛冶や職人の世界は実力で評価される。だが、それが適応されないのが女性の職人だ。職人の娘など、当然、女性でも職人として自立したいと考えている者は少なくない。が。女性というだけで何もかも受けいれられない。稀に腕が認められても、その功績は所属する工房やギルドの手柄、さらには、男の代表の名前で売りに出されるのだ。
任命したのはこちらだけれど、女だてらにギルドの長は、イロイロと大変だったはずだ。オベニスでは女性に対してそうした差別は無くすように徹底させ、何かもめた場合は領主が介入することになっている。当然、その判断を不服に思い出て行った者(全て男だが)も多い。
さらにここ以外では……どんなに技術があっても、女性というだけで……ギルドの長どころか、鍛冶の仕事すら触らせてもらえないことが多いという。
アーデリアは鍛冶一家に生まれ、手先が器用だったことから父親にその技術を叩き込まれた。跡取りとして息子が生まれるまでの繋ぎのつもりだった様だが、結局子どもはアーデリアしか為せなかった。なので、父親は当然、既に技術は一流となっていた娘に跡を継がせようとしたが……鍛冶ギルドからOKが出なかった。そんな折、父が事故で急死。仕事を続けるためにも許可を求めてギルドに日参したが、良く判らないが時間がかかると言われ続けて既に二十年以上が経過したという。当然、その間、鍛冶屋としての収入は無い。ギルドに登録しなくても問題にならない修繕系の仕事や、その高い技術を活かして他の鍛冶屋に助っ人などで働き日銭を稼いでいたが、それも限界があった。
数年後、母も亡くなり、結婚適齢期(この世界の)も過ぎ、既に家族は自分しかいなかった。絶望を感じていたところに、女だからと差別を受けない領があるという噂を聞いた。その瞬間。何かが閃き、聞いたその日のうちに旅立っていたのだそうだ。
その後はうちの領の人材募集面接で採用され、しかもちょうど成り手の居なかった鍛冶ギルドの長に納まってもらったのだ。
「私たちも……戦い……ます」
「はい」
周りにいた、女性たちが声を上げた。うん、君たちに後が無いのは判ってる。それこそ、死兵として闘ってくれる事だろう。
が。イリス様はそれを利用したいと思わないだろうし、俺もそれは無いなと思っている。当然、ファランさんもだ。
「アーデリア。鍛冶ギルドにはいくつか極秘プロジェクトを任せていたと思う。それは?」
「い、未だ実用化は……」
実はシエンティアを経由して、鍛冶ギルドには魔術を使用した銃の開発を任せている。これが完成すれば、弾どころか魔術すら避ける強者はともかく、一般的な兵、騎士であれば、一般市民でも戦えるようになるのでは無いかと考えている。
「では避難を。戦う者は我々が選ぶ」
「……」
「一体……ど、どこに避難すれば……」
「ああ……それを言い忘れる所だった。このオベニスに地下があるのは知っている者も多いだろう」
頷く者は多い。地下に水路があって、それを利用した下水が完備されたため、この街の衛生状況はかなり良い。その工事や修繕をイリス様の指示の元、公共事業として行っている。
水路の事は口止めしておいたが、迷宮は違う。もっと漏えいするかと思っていたのだが……さっぱり話題になっていない。部下達がこちらからの命令をキチンと聞いてくれたという事なのだろうか?
「そこに避難してもらう」
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