0166:一蓮托生

 これで無事、避難場所の基礎が用意が終了した。良かった。無事という事だけならこれでなんとかなる……ハズだ。最初は巨大な体育館に全員雑魚寝予定だったのだから、超絶進歩したと思って間違いない。


 最悪地上が破壊されたり燃やされたりしても、人が生き残っていれば問題無い。資材や財力さえあれば、街の復興はそれほど難しいことではないのだ。


 その資材や財力は……今回の敵をぶっ潰して、その後、分捕ってくることに決めている。黒ジジイ……いや、国王め。邪魔なのは分かるし、怖いから絶対に潰すモードなのも分かるけどな。というか、もうダメだ。全員潰す。シラビスの仇を取ってやる。


 若干の休息の後、転移可能まで魔力が回復したのでモギ部屋の転移陣で地上に戻る。一度も意思疎通が無かったので、問題は起こっていないのだろう。正確な数値は確認出来てないが、魔力総量は確実に増加している。転移で一度跳んで、少し休めば戻ってこれる様になっているということは、多分現在は1000弱ってことだと思う。転移一回が魔力500 って感じだったと思うから。


(ファランさん、戻りました。迷宮に避難場所を確保しました)


(め、迷宮に? だと?)


(ダメですかね? 敵は出ないようにしてます)


(……それなら……タダの地下の広間か……ダメではないが……)


(代表者たちは?)


(広間に集まってもらっている。既に揃っているハズだ)


 領主館の広間。置いてあった装飾品や美術品なんかは元領主が持ち出してそのままなので、見事なまでに何もない。


 が、そこに百名弱のオベニスの権力者、代表者が集まっていた。こういう場には相応しくないと言われたが、スラムの顔役も強引に引っ張り出している。オベニスということもあって、若干だが女性の姿も見える。


 この広間は昔、謁見の間的な使われ方もしていたらしい。パイプ椅子とか無いから座らせることが出来ない。ガヤガヤと立ちっぱだ。


 演台の様に若干高くなっている部分があるのでそこに椅子を置き、ファランさんが腰掛ける。自分は脇に立った。現在この領で内政の頭であるパトリシア、ギルドの取りまとめを行っているシエンティアはその脇だ。


「短い時間でよく集まってくれた。領主代行のファラン・ネスだ。領主であるイリス閣下は現在、西方の戦線に向かっているため不在だ。そのため、私がこの場の責任者となる。西方での侵略戦争はここオベニスには大した影響を与えないと考えていた者達が多いと思うが、そうも言っていられないらしい。詳細はオベニス領総務長にして、アーウィック家家宰より説明させる」


 ファランさんがこちらを見る。ファランさんが領主用の椅子に腰掛ける。代わりに自分が一歩踏み出した。


「オベニス領総務長、アーウィック家家宰のモリヤだ。用件だけを述べる。現在。このオベニスは傭兵団に狙われている。傭兵団の名は「漆黒の刃」。目立つ強者は"倒れず"のカミラ。”双頭槍”ホムリア、”見えぬ剣”ネレチック、”火の原”アーチャールの四名だが、それに準ずる者が五~十名近く存在する上に……その下に一般傭兵が五百名弱存在する。そいつらが何故か、この地を目指して進軍しているらしい」


 漆黒の……という声。さらに五百……という呟きがそこかしこで上がる。この世界で五百の兵といえば、一国を挙げて用意するレベルなのだ。当然だが、この領都オベニスの衛兵が百人程度しかいないことは、ここにいる者であれば全員知っているハズだ。


「「漆黒の刃」は、領主不在の今、このオベニスの襲撃、略奪、簒奪が狙いと思われる。今すぐにこの地を離れられる者、キャラバンや他の地方に本店を持つ商人などは早急にこの地を離れるが良かろう。そうで無い者は」


 場が静まる。


「そうで無い者は、逃げる場の無い者は、イリス・アーウィック・オベニスの名において、出来る限りその命を守ることを約束しよう。すなわち。自らの意思でこの領と共にあろうと、我らと共に抗おうと思わん者はここに残るが良い。その者達だけに語るべき話があるからな」


 お偉いさんたちが、一瞬何を言われたのか良く判らない顔を浮かべる。


 慌ただしく席を立ったのは王都に本店を持つ様な大店の支店長、そして、そもそもこの地に定住しているわけではない行商人(まあ、それでもここに呼ばれる位なので、大隊商ではある)。その数は思ったよりも遙かに少なく、僅か数名だった。


 素早く退出させる。


「残った者は……オベニスと共に生きると思って良いのかな?」


 その場にいた者達が小さく頷いた。納得している……顔では無い。当然だ。一方的に告げられて未だ混乱している者も多いだろう。だが、一番大事な部分はクリア出来ている。この場から逃げ出さないという覚悟だ。


 そもそもここは女性領主が納める領地。そして、勇者の治める領地。


 それに対して何らかの異議がある者は先ほど退出して行ったのだろう。きっと。



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