0165:避難所

 とりあえず4×4=16の区画を作り、格子状に道を配置して、区画毎に仮設住宅を並べていく。全部コピペで問題無い。上水、下水も……これで本当に繋がったのか? と疑問に思えるくらい簡単に設定出来た。


 で。設定……うん? 出来たのかな? 出来たんだよな? 実際に確認しないと自分でも信じられないな。


 ひとつの仮設住宅が大体30㎡程度だろうか? 2DK。5メートル×6メートルの物件。えーと。九坪位かな? 狭いさ。そりゃ。でも、日本の仮設住宅だってこれくらいだったハズだ。一時避難用と考えれば生きていくに十分足りる。


 広めの通路、動線を確保して、みっちり詰めると一区画に……300入る。えーとえーと。領主命令でひとつの仮設住宅に二段ベッド二つ、4人として。一区画で1200人か。それが16在るわけで。


 一区画は領主館、官公庁などの出張所や、兵舎なんかの公共施設を作る。なので残りの区画数は15。1200×16で……最大で19200人。オベニスの人口は最大でも1万。残り2つの街は合わせて6千程度だったハズだ。十分収まる。


 というか迷宮自体の広さ、階層の面積ってどれ位が限界何だろう? しまった。何もない状態でその辺を確認すれば良かった。詳しく検証してみたいが、今はその時間も惜しい。


 最初にイロイロリセットして出来上がったフロアにそのまま、勢いで仮設住宅を並べてしまった後だ。


 ぶっちゃけ……スラムに住んでる人とかもまだまだ多いし、俺のイメージする(タブレットに表示されてる)仮設住宅よりも良い環境で暮らしている人の方が少ないのが現状だ。ここは楽園……とまではいかなくても、そこそこイイ感じに思ってもらえるはずだ。


 それにこの世界には水浴び、湯で身体を拭くはあれど、お風呂はない。贅の限りを尽くした領主館にすら存在しない。にも拘らず、この仮設住宅は小さいながらもお風呂付き。ある意味地上よりも住みやすい……なんてことにも成りかねないというか、成るな、こりゃ。うーん。残念だが風呂は削除するか。新規創造はコスト高だけど、削除は簡単なのだ。シャワーのみに変更する。


 あーでもいいんだよなぁ。お風呂。リラックスできるし、何よりも温まる。実際、俺はこのモギ部屋に来るたびに、ユニットバスの狭いお風呂に入っている。


 この地下迷宮避難所の領主館は当然として、今度、地上の館の空きスペースにも大きいお風呂を作ろう。そうしよう。


 さらに、階層の昼夜設定、天候変更設定も発見したので、外界とリンクを設定する。あ。でもそうすると雨の時は雨が降っちゃうのか……。排水が面倒そうだな……。天候は常時快晴で。いいや。面倒だし。ってあれ? 空?


 まあ、ちょっとした疑問点は……いいや。ああ、やっと。なんとなく落ち着いた。


 うん。やっと……やっと、シラビスを失った事実が胸を衝き上げる。慟哭ってやつだ。ここには誰も居ない。意識して自分の感情が誰かに「繋がらない」様にコントロールする。


 泣いた。恥ずかしげも無く。5分だ。今は5分だ。ある程度片が付いたら、引き籠もってしばらく泣いて暮らすのもいいだろう。だが、今は5分。思い切り泣いた。


 自分がこの世界で御館様と「必要」とされる事がどれほど、自分の心を満たしていたか。


 一人失うまで気付かなかった間抜けな自分に腹が立って仕方ない。彼女達は俺にとって、特別な存在、部下、同志、友達、なのだ。


 この仕返しは必ずする。絶対だ。


 泣き叫びながら、涙と鼻水を撒き散らかしながら、誓え、誓え、誓え。ろくな才能も無い俺を信じて、俺の命令に従って、死んでしまった彼女に誓え。人一人の命の重さは心を抉り、穴を穿ち、そこに誓いをぐりぐりとねじ込むくらいじゃ釣り合わない。


 歯を食いしばり、口から血が溢れても、誓え。気を狂わせろ。これ以上の生贄を捧げる前に、気が狂うほど敵を討て。情け容赦なく、禍根を断て。


 あの時。国の混乱を考えなければ。混乱によって何万もの弱き者達が被害を被る等と「日和らなければ」。


 白ジジイ、黒ジジイ、国王とそれに列なる、民を率いる資格無き者を、物言わぬ肉塊に変えていれば。


 誓え!


 自分の様な愚物に融和など大それた考えだと。誓え。喰える時に食えと。ソレが出来なければ、大切なモノを失い続ける事になるのだ。誓え。誓え、誓え!


 誓ええええええぇぇぇぇぇぇッ!


 予定の時間を5分過ぎた10分後に、再起動した。脳味噌がリフレッシュされた気がする。シャワーも浴びる。さらにリフレッシュした。気がした。


 タブレット上では、ある程度形にはなった……ので、とりあえず良しとする。正直どうなっているか、実際に確かめないことには自分でも理解できない部分が多すぎる。


 あ。でも地下水路経由で迷宮への入り口までが遠いんだよな……。階段まで複雑だし。


 とはいえ、もしも攻め込まれれば、地下水路内が最終防衛ラインになるのか。ここは仕方ないか。魔物が出没するわけでも無いんだから……。


 って! そうか! 第二階層にこの仮設住宅層を設置しておけば、いざという時、第一階層に魔物を放てば……! オリジナル魔物でなければ、消費ポイントはとんでもなく少ないもんな。


 元々この層に配置されていたオリジナルの黒き羽人マダンシュリエスは203920ダンジョンポイントを消費していたが、元になっていた羽人シュリエスは300ポイントだ。性能も当然、オリジナルの方が高いが、20万と300の差ではない。数を増やせば性能差なんてどうとでもなる。


 正直、伝わってくる性能的に、黒き羽人マダンシュリエス1体が対応出来る羽人シュリエスは25体といった程度だろうか? 1体に50体で襲いかかれば、確実に羽人シュリエスが勝つ。えっと、1体分で666体作れるのか。うん、そっち一択でいいや。ゴメン、先輩。


 まあ、魔物をどうこうは後でいいか。とりあえず、第一階層に設置した仮設住宅群は層ごとコピーで第二階層に設定する。第一階層はサンプルっぽく用意されている迷路型のヤツを使うにしても、その前に、第一階層への階段を延長して、第二階層に直接繋ぐ。避難が完了したら、階段を消しちゃえばいいんじゃ……って出来ないのか。あ。


「##エラー## 迷宮は入り口から出口、脱出陣まで繋がっていなければいけません。転移紋による魔術陣で代用も可能です」

 

 エラーメッセージか~すげーな、この迷宮編集システム。本気で迷宮ツクールとかそういう感じだよな。GUIも判りやすいし。

 

 とりあえず、一万人の避難民に迷宮になった第一階層を抜けて、第二階層の階段まで歩くというのは現実的ではないので、第一階層迷宮化作戦の可能性を残しつつ、縮小。すぐに第二階層へ繋がる様に大型の直通階段を付け加えた。




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