0163:喪失
(よかった……届いた……御館様……黒ジジイに策在り。不覚を取りました。オベニスに強者が)
いきなり、ギリギリで圧迫される思いが伝わってきた。一瞬にしてそのヤバさが理解できる。く。この能力の無駄に高性能な所が……腹立たしい。
遠隔地に居るモリヤ隊員には定時(朝、昼、晩、夜中)に「繋がろう」とするようにしている。大抵は任務によって距離が離れているため繋がらない。が。今回はその癖が功を奏した。
今のはフリアラ……。王都の裏を探っていた2名のうちの1人だ。
(緊急という事は……傷は? 身体は? 大丈夫なの?)
(私は……大丈夫です。ですが、シラビスは……既に)
どくん
……その時、いきなり胸が軋んだ。既に?
(既に?)
(いきなり強者を含めた8名に囲まれました。彼女は私を逃がすために……)
「くそっ!」
「どうした?」
尋常じゃ無い顔をしていたのだろう。ファランさんが心配げにこちらを見た。ちょうど、ファランさんと定時連絡で、彼女の仕事場を訪れた直後の……ほんの確認だったのだ。
「やられました。シラビスが……」
「なんだと?」
「ああ、ファランさん、あと、現状オベニスにいるミアリアとシエリエも繋ぎます」
イリス様とオーベさん、同行した5名の足は早い。当然繋がったままで旅立ったのだが、既に会話が届かない距離を移動している。後詰め的に移動しているロザリアと領兵であれば、まだそれほど遠くへ行っていないのに。
(フリアラ、現状は?)
(王都からかなり東の森に逃げ落ちた所です。後、一日程でオベニスに入れるかと。が。離れたので今は見えませんが……追っ手は確実にこちらへ向かっています)
(シラビス!)
限界を超えて……ムチャをしてでも距離を伸ばして……呼びかけてみる……。伝わってくるのは悲しさ、寂しさ。焦り。というか……下っ腹からゾワゾワと伝わってくる、誰も居ない感じだ。日の沈む直前。誰も居ない公園。自分以外の一切が消えてしまった様な……そんな感覚。
(……)
(くそう! この感覚、この喪失感が死んだって事なのか)
(シラビス……)
喪失感、寂寥感で胸が一杯になる。くそう。やられた。情報を整理しろ。急げ。冷静に。冷静に。こういうときは焦った方が負ける。とにかく……これ以上犠牲を出すな。慌てるな。でも考えろ。今は冷徹で良い。泣くのは全部終わってからだ。
(フリアラ、お前たちを襲った8名、どんなヤツラか情報は?)
(確定ではないですが……「漆黒の刃」かもしれません)
「「漆黒の刃」?」
「「漆黒」? 有名傭兵団だ。「暁の海」よりも規模が大きい。最近だとクザン連邦の内戦で荒稼ぎしているという噂は聞いたが。ちっその辺はイリスが詳しいのだが」
(規模は?)
(強者……が十数名所属していますが、有名なのは三名くらいでしょうか。ですが、一般兵が五百名以上所属しています)
「ああそういえば、「漆黒の刃」の団内勝ち抜き戦は有名だな。一般兵同士が戦って勝ち残った者が指揮官となるだったか。確か」
(一般兵っていうのは……騎士と比べて?)
(騎兵が生きる戦場であれば騎士が。純粋な白兵戦であれば互角と思っていいでしょう)
(不味いな……)
強者が十数名。兵が五百。これを機にオベニスを……そうか。潰すつもりか。というか、そもそも、今回の召集、いや……西の二国との戦いも仕込みの可能性もあるのか……その場合。
(シエリエ、伝令を頼む。イリス様に現状の報告と、周囲は全て敵の可能性ありと)
(はい)
(途中でロザリアにあったら、こちらに急ぎ戻り、様子を探る様に伝えて)
(了解しました)
シエリエが伝令に駆けたので、現状、ここオベニスの強者はファランさんだけだ。ミアリアは魔剣士との戦いのダメージが抜けず、倦怠感がある様で、ベッドから離れないように命令してある。
(フリアラ、本当に怪我は無い?)
(はい)
(やつらの情報が欲しい。帰還しつつ、進軍の様子を探れる?)
(かしこまりました。命に替えましても)
(くっ……いや、命に替えなくて良い。危なくなったら逃げろ。でなければシラビスの死が無駄になる)
(……はい)
「こうなると……ミスハルをリーインセンチネルへ向かわせなければ良かった」
「たらればはどうにもならんだろう」
「ええ、ええ、そうですね……」
いや、傭兵団だけではないな。もし俺が黒ジジイなら。確実に保険をかける。……辺境伯軍か。この後、辺境伯の軍からも西の戦争へ援軍が向かうという話は聞いている。それが行きがけの駄賃にちょろっとオベニスに寄ってもおかしくは無い。
ちぃ。完全に後手に回った。というか、何もしてこないはずがなかったのに。覚えてろよ。まずは現状で出来ることをやらなければ。
当然……イリス様、オーベさんの派遣部隊への連絡は既に届かない。
(整理します。こちらの戦力は、ファランさん、回復中のミアリア、偵察帰還予定のフリアラ。ミリア。それに領軍が約百名)
全員に伝える。ちい。分断されると自分たちの弱小加減がさらに際立った気がする。
(敵は「漆黒の刃」。強者が十数名。一般兵が五百名。さらに……多分、辺境伯軍が援軍と称して略奪&占領に現れるハズです)
「な……いや、有り得る話か」
(「漆黒の刃」の強者の詳細がわかっていないのが一番ヤバイですね)
(あ。その辺はミリアに聞くと早いかもしれません。以前、傭兵団調査のクエストを受けたことがあると言ってましたから)
ああ、そうか。イリス様に連なる
(なんと。了解した)
まずは……オベニスの「民」を守らなければ。イリス様は……この地に攻め込まれるのは別にどうとも思わないだろうが、オベニスに住む人々を守るのは最重要項目とするハズだ。
以前集計したときの大雑把な人口は一万人ちょい。彼らを戦火に巻き込まれない様にしなければならない。
どうする。
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