0162:動乱
「最初に攻め込んできたのはイガヌリオだったらしい。そのため、第一、第二、第六騎士団、騎士総長や筆頭魔術士も北西部、城砦都市オリエスへ移動しているそうだ。現在も既に交戦中だという」
北西部オリエスも重要な交易都市だ。モールマリア王国、アルメニア征服国からの交易物資は全て、オリエスを経由して国内に流通する。王国側がその交戦による流通経路遮断の期間をなるべく短くしたいがために、慌てて騎士団を派遣した……という気持ちは判らないでも無い。
「我々はイガヌリオより数日後に侵攻を開始したクリスナとの戦線に向かえとのことだ」
「……ちょっと待て。イガヌリオとの戦線、そちら方面は騎士総長が率いているのだな?」
「ですね」
「では……クリスナとの戦線の総大将は……誰だ?」
確かに。
「召喚状ですと、とにかく早くセルミアに向かえ……としかありませんね」
「面倒なことになってそうだな……」
ってそんな所にイリス様を……うーん。
「今回も……ですが、ファランさんには残っていただくしかないかと思います。オーベさんも仲間になってくださったことだし、将来的にはお任せできるとは思うんですが……」
「ああ、そうだな。今はまだ、役人との交渉や面倒くさい文書作成なんていう、先生が嫌いな仕事ばかり山積みだからな。まあ、先生は……戦争=実験場として認識されている方だからな。大人しくしていろと言っても、言う事は聞いてくれんよ」
「ですね……。ならば、戦争の方はイリス様とオーベさんに任せましょう。戦場は何があるか判らないですから、本当は自分も同行したいのですが、正直、今回の紛争……なんかきな臭いのでしばらくは動けないかな……と。他のモリヤ隊の連絡もオベニスで行った方が速くて安全ですし」
「判った。モリヤ隊は何名連れてゆける?」
「連絡要員を入れて……五名でしょうか」
「そんなに連れて行って大丈夫なのか?」
「私が御一緒できない以上、小賢しい作戦は用意出来ないですし……必要ないでしょう。正面からの力比べか、横っ面への奇襲になるでしょうからね……特に強者は人数を揃えておかないと」
「そうだな」
「イリス様を足止めできる者がいた場合。こちら全体が蹂躙される可能性もありますし」
強者が多い戦場ではアクシデント次第で何が起こるか判らない。イリス様がどんなに強くても、足止めを喰らっている間に、本陣でも攻められれば、兵糧を燃やされれば、危険な状況に陥らないとは限らない。
数日後にはイリス様はみんなを連れて出立した。念のため、ロザリアに領兵三十名を率い後を追わせる。王家からの要請、命令を受けた場合、領主の戦争参加は義務だが、新興の場合、領主と側近数名なんていう場合も多いのだという。
オーベさんは……マッサージの検証の後、気まずいのか、妙に余所余所しくなった気がする。能力値が上がって強くなった自分の腕を試したいと楽しそうに言っていたそうなのだが〜俺が自分で聞いたわけじゃない。
明確に避けられている気がする。とは言っても嫌われた……のではなくて、もの凄く恥ずかしくてって感じで。まあねぇ。それくらい恥ずかしい事をしてる、させちゃってるもんね〜。
まあ、オーベさんはオーベさんで、長い年月を生きてきた的な事を言うわりには、シャイなんだな〜とも思うけど。日本でも女性は幾つになっても女性って言われてたしな。その辺は仕方ないか。
それにしても……セズヤと征服国にかまけている間に何か見落としがあったのかもしれない。今回の戦争の動きが、前兆部分は殆ど見えなかった。本拠地=オベニスを離れていると、どうしても詳細な情報は伝わって来なくなるからなぁ。
各種情報を精査していく。モリヤ隊の人たちは非常にマジメなので、情報自体は膨大に蓄積されている。
五日くらい書類とにらめっこした結果、案の定……いくつか気になる流れを発見した。
「ファランさん……この……王都から頻繁に出立している伝令……不自然じゃ無いですか?」
「通常の……いや、五倍以上か。確かに。行方はクリエス……ということだが、一つの都市に向けて何か命令を伝えるにしては多すぎるな」
「モリヤ隊はローテーションで、オベニスで休暇している者が2名。作戦などで4~5名が抜けると残りは3名。王都には2名付けてはいたんですが、さすがに追い切れませんね」
「そうだな……まあ、それでもこれだけの情報が蓄積されているだけでもスゴイのだがな……」
「みんなには苦労をかけてますね」
「まあ、そうだが……これだけ膨大な資料をあっという間に確認して、違和感を探り当てるお前も大概だとは思うのだが」
「そんなことないですよ。普通ですよ、普通」
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