0161:戦乱

 さて。


 メールミア王国は西側では三つの国と接している。モールマリア王国、イガヌリオ連邦、クリスナ公国である。


 現状、交戦中の国は存在しないが、どの国も周辺諸国に対して常に手を出せることは無いかと探り合っている。前に地理を尋ねたときに忘れられていた連邦と公国であるが、位置関係の把握が若干怪しいらしい。というか、地図が曖昧で、大雑把なものしか存在しないので、ファランさんの脳内でも曖昧な存在であるらしい。……ちゅーか、ファランさん、女性によくいるタイプの方向音痴の様だ……。方位や位置の説明が曖昧なのだ。


 どの国も征服国ほどでは無いモノの、全てが領土拡大の野心は常にちらつかせている。戦争に対して旺盛なのだという。まあ、さらに言えば基本、仲が悪い。


 征服国がウチの国に攻め込もうとすると、モールマリア王国の領地を横切らなければならない。


 モールマリアは現在、東端に位置するウチの国との国境に構っている余裕が無い。横長な国土の西端で、海賊との戦いが激化しているからだ。


 ソレが判っていたから、征服国はウチへの侵攻を画策していたのだと思う。それはまあ、夢物語になってしまったが。


 あの騎士団壊滅、勝者削減状態から……復活して、他国へ侵攻しようと思えるようになるには、最低でも数年かかるだろう。


 そんな周辺国のうち、イガヌリオ連邦とクリスナ公国がほぼ同時にメールミア王国へと攻め込んだ。イガヌリオとクリスナは仇敵と言っていいくらい、常に小競り合いを続けている状況なので、同盟は有り得ず、状況分析的に、メールミア汲み易しとみて偶然、ほぼ同時に攻め込んだ結果ということだ。


 イガヌリオ連邦北方騎士団第一隊、第二隊の合わせて約五百。強者は北方騎士団長"頑強"マルビーオ。第一隊隊長の"鎧砕き"ボランシオーズ。第二隊長の"神速"クラシオン。その他にも"鬼殺"グラナ。"爆炎"モドレリール。"氷原"ブリオン。有名所はこの六人の様だ。


 クリスナ公国は炎装騎士団、魔風騎士団、重装騎士団。合わせて約二百。加えて傭兵団「暁の海」を雇ったことが判明している。総大将は"閃光姫"ミルビネット。他に強者は"炎舞"ガストン。"双竜巻"オビオーヌ。


 傭兵団「暁の海」は兵数ではなく、隊長格である強者が雇われている。団長の"斬り刻みの刃"ボラン。"外さず"グンドリオス。"重なる風牙"オルトスニール。"穴開け"ボンダ。"なぎ倒し"ゴーラン。


 つまり、公国に三人、傭兵団に五人。八人もの強者が戦場に投入されることになる。特に傭兵団の五人は歴戦で有名で、今回この「暁の海」を雇った時点で、クリスナ公国の本気度が伝わってくるのだという。


「「暁の海」か……公国は本気でセルミア一帯を盗りに来たということだな」


「本気ですか」


 セルミアは王国西南部一番の交易都市だ。


「傭兵団……特に「暁の海」レベルの一流の強者は、一人雇うだけでも契約金、報酬を含めてとんでもない金額になってしまうからな。それを傭兵団のほぼ全員だ。小国であれば国家予算に相当する金が動いているハズだ」


「クリスナ公国は目立った産業が発展しているわけでもないからな……ある程度財政に余裕が出来るとイガヌリオかメールミアに攻め込む事が多いのだ」


「で。王都からはなんと?」


「出兵要請ですね。貴族の義務に従い馳せ参ぜよと。どれくらい兵を出すかはこちらで決めていいんですよね?」


「ああ、貴族のプライドを保つために大概が無理をするが……」


「それで苦しむのは最下層の民たちだな。臨時の徴税で干上がる」


 ウチは元々馬鹿にされている。平民出身の成り上がり、しかも女領主。なので少数精鋭で遊軍として動くつもりらしい。変な見栄は張らないそうだ。


 とりあえず、大前提として。領主であるイリス様は絶対に行かなければならないそうだ。この世界、偉ければ偉いほど前戦で剣を振るう、魔法を使う。実戦に参加しなければ、何一つ認められないという。それは王族でも一緒で、継承資格のある王族が王国騎士団の団長になることが多いのはそういう理由らしい。


 逆に、ここで参加するのは少数の兵だとしても、イリス様が武威を振るい、他の領主よりも活躍すれば、女だからという常識が少しは崩れる可能性もあるらしい。というか、女の指揮官で、戦場働きで直接活躍した例はほぼ皆無だという。


 女の領主や、それこそ、セズヤ王国の様な女王など、女性がトップに立つことは無いわけでは無いのだ。が。全てが暫定的な捉え方をされ、戦場で槍働き、首獲りで競い合うというのは珍しい。まあ、イリス様であれば、それも可能……ということなのだろう。

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