0153:一人暮らし
実際……魔力で空調みたいな機械も稼働しているこの部屋は凄まじく快適だった。収納のある俺には食事の用意も難しいことではない。いえ、だって、この指輪の収納、時間停止機能付きなんですから。
この世界、冬とか、寒い地方では天然氷を氷室で……っていうのが当たり前なのだが、冷却用の氷など、普段使いしたい場合は、氷魔術でも生成している。
当然、氷魔術は戦闘等での使用がメインではあるのだが、魔力が小さい者は、氷屋として活躍する道が残されているそうだ。冒険者のパーティで重宝される水の魔術の使い手の様なものだろう。
で、氷屋から買ったモノに加えて、氷魔術をシエンティアさんが使えたので、それなりの大きさの氷を生成してもらい、それぞれを収納にぶち込んでおいた。比較して調査するためだ。
毎日1回、確認するために外に出す際に若干解けている気もするが、征服国へ行く直前に入れた氷が未だにその形のままで維持されている。
つまり、俺の収納は時間停止タイプか、限りなく時間の経過を遅くするタイプのどちらかということだ。これが何が便利ってもう、生ものとか腐らないし、冷たい食べ物が冷たいまま、暖かい食べ物が温かいまま保存できる。
特に氷やアイスなどの氷菓。そして熱々の麺類。鍋物。熱冷混合でも何の影響もないのである。アイス入れて、その横? に熱々のシチューの入った鍋を入れても、アイスが溶けちゃってる……なんてことはない。すげぇ。
そう。鍋物は大きな鍋でグツグツ煮込んだヤツを蓋をしてそのまま収納できる。これだけで、いつでも温かい食べ物が食べられるという事実! ぶっちゃけ、最近気付いた。征服国での野営とかで生かせば良かった! くそう! 不自然か。そうだよな。バレて大騒ぎになっていたかもしれない。周りにセズヤの人がいたし。
実は、蓋を閉めなくても収納できるし、取り出すときに横になってるイメージとかしない限り、こぼれたりはしない。まあでも、なんとなく、埃がね。入っちゃったらイヤかな? とか思って、基本、蓋をしている。鉄の鍋には鉄の蓋が付いて売ってるいるので、それをそのまま。
最近は、定食屋なんかで美味しいスープや煮込みとかあると、明日取りに来るのでこの鍋いっぱいくださいと注文。なので俺の収納には……現在、三百以上の熱々の鍋が。さらに常に百以上は空の鍋も入っている!
多分、この収納の本来の使い方ではない。絶対。だって、オーベさんが、召喚術の次元収納に比べて容量が多い上に自由度が高すぎて、ずるい! 許せないって怒ってたから。
ということで、漫画を持ち出す計画にはちょっと未練はあるが、やめておいた。保存という意味でここは最高だし、紙もボロボロになっていない。空調の他に何かしら保存の魔術が付与されているんだと思う。
転移の術で跳べるようになった今、いつ来てもいいのだ。夜、寝れなかったら、部屋から飛べば良い。素晴らしい。
魔力はバッチリ回復しているので、転移陣の上に移動して、転移……と願う。
本当に一瞬。何一つ違和感もなく、あっという間に違う場所に……いた。
ここは……おお。領主館の中庭の東屋か! ファランさんは聖堂っぽいとか言ってた気もするけど。これ……当時の遺跡だったのか。見覚えがあると思った。すげーな。さすが神級のレア魔道具。
これほどの指輪を……茂木先輩は、エロ漫画という理由だけで、同邦の男子に限定したのか。ある意味酷いな……。笑。本当に、もしも俺が女子だったら……あの部屋の扉を開けられないわけで。それ悔しいよ? すげー。文字は読めるのに、中には入れないって。悲しいというか。どう考えても、どう見てもお宝だもんな……。
日本社会だったら絶対に、男女差別云々とかで怒られてる気がする。
なんて考えながら。そのまま正面のテラスの入り口から食堂に入る。
(あの転移陣での地下からの脱出先は、この領主館の中庭の東屋のようです)
(ほお……)
(ここは昔からオベニスの領主の館だったという記録が残っているしな。国が違っても、支配者の館だったということなのだろう)
(転移の術は転移先に何か障害物があったら、それを避ける様になっているから安心っていうのを言い忘れていた……か?)
(あ。オーベさん、忘れています。そうなんですね!)
(ああ、すまん、だから実験に反対しなかったのじゃ。あまりに昔に研究したモノですっかり当たり前のことになってしまって、法則なのを忘れていた)
イリス様、ファランさん、オーベさんに報告はしておく。忘れないうちに。
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