0147:ハイノルドの事情

 とりあえず、うつ伏せで横になってもらう。顔の当たる部分にはタオルがおいてあるので嫌な感じも無いはずだ。


 シャワーを浴びて身体が暖まっている。全身を軽く揉みほぐしてから各部位っていうのが当たり前だが、直でもいけるかな。これは。


 まずは足。やはり、比較的入りやすい、足の裏からがいいだろう。うん。固い筋肉とか無さそうだしな~オーベさん。


 足の裏は正直、自分でやれば判るんだけど、適度にやる分にはどこを押しても気持ちが良い。裏側全体がツボと思っても間違いない。なので、まずは、足首を中心にグルグルと回して、踵の筋や、ふくらはぎを含めてストレッチしてゆっくり伸ばしていく。そもそも触られるコト自体が無いわけだから……。


「嫌悪感とかどうですか?」


「お、おかしいくらい……無いな……というか、こんなに気持ち良いモノなのか。他人に揉まれるということが」


「気持ち良いですか」


「ああ……あうっ」


 まずは足の中央をちょっと強めに押し込む。土踏まずとその境、そして、周辺を丁寧に押し込んでいく。これによって痛くないレベルというか、その人のマッサージ耐性が判る。うわ。なんだこれ。もの凄く柔らかい……。筋肉とか筋はどうなんだろうか? ハイノルドは、ヒームとかノルドと動物的な作りが根本的な何かが違うのだろうか?


 押し込み具合が判らない。どれくらいの力で押せばやばいのだろうか?


「むぐぅ」


 変な声出た。


「続けても?」


「あ、ああ」


 足の裏をあまり強く無い感じで押して行く。黄金の筋肉……というアスリート伝説があって。超一流の運動選手の筋肉は異常に柔らかいというヤツなんだけど、イリス様が結構それに近いんじゃ無いか? と思い始めていた。実際、イリス様は筋肉を一切感じられない身体にも関わらず、そこそこ「ついてる」。多分筋肉が異常に柔らかい。


 いやしかし……このオーベさんの筋肉は……というか、筋肉なのか? かといって、ぷよぷよな、運動不足、運動をしていない女子の肉……ともちょっと違う。ハリはあるのだ。正直、押しやすい。揉みやすい、ほぐしやすい。


 足の指の間も丁寧に押してゆく。綺麗な……足だ。これまでこの世界でマッサージしたうちの女子、尽く綺麗な肌ではあったものの、当然、ちょっと荒れていたり、堅くなった部分なんかもあった。ノルドでも。当然。


 そもそも、この世界の狩人、戦士、まあ、俺の周りにいる女子は日常的に革製のブーツを着用している場合が多い。日本でだって、一日中皮のブーツを履いていれば、どんな人でも足臭になるし、その靴に合わせて足の一部が変形したりしている。


 この世界の革製のブーツ、足を包んでいる部分はまあ、前の世界と変わらない気もするのだが~中敷きや底の性能は防御力重視であって、健康重視にはなっていない。どんなに美女でもそこはどうしょうもないだろう。


 ……あ、でも魚の目とかイボとかは無かったな。そういえば。なんでだろう。

 

 とにかくハイノルドはその辺もハイ=上流ってことで強引に自分を納得させながら、かかと部分などをじっくりと押し込んでいく。


 足を揉み終わった時点で、オーベさんは軽く汗ばんできている。うーん。反応はモリヤ隊のみんなと変わらない……か。いや、ちょい鈍い? かな?


 足裏から徐々に上に。ふくらはぎを揉み込んでいく。ふくらはぎは実はもの凄く大切だ。いや、ご存じかもしれないけど。マッサージ的には、じっくり、ゆっくりしかも丁寧に揉む。


 この部分は攣りやすい。鍛えているプロスポーツマンでも、疲れてくるとここが攣っているシーンを見たことがあるハズだ。攣りやすい=疲れやすいにも関わらず、あまり気にされることが少ないのだ。


 特に女子は全体の筋肉量が少なめの人も多い。その場合、真っ先に疲れがくるのはこの部分なのだ。あと、痩せている、モデル系の人は特に、ここに肉が付いていない。血の巡りをよくするだけで、体調自体も変わってくるのだ。


 えーと、こっちに来る前……いや、かなり前にネットで調べた限りだと、むくみ、冷え、生理不順、肩こり、腰痛、便秘に肌荒れなんていう、ちょっとした体調不良の原因になる全ての問題が解消したりするという素晴らしさ。

 ぶっちゃけ、彼女がいたときは、ハードワークで休暇は家でデートなんて場合は毎回揉んでいた気がする……。


 まあ、付き合っていた時には大して評価されなかったが、「もっと好きな人が出来た」と振られた数カ月後に、「マッサージだけしてくれないか、お金を払ってもいい」とメッセージが来たのには、本業じゃねぇ! と腹が立った記憶がある。

 まあ、丁度そのころ傷心旅行で日本にいなかったのもあってキッパリ断ったけど。……自分の方が未練たらたらだったので、良かった……のだろう。


 足指を一本一本、アコーディオンのようにバラバラと分割して、ふくらはぎ中央を揉みしだき、さらに、前部分、骨との間も丁寧に、痛くならないように揉んでいく。


 この時、なんとなく血液の流れ、鼓動のタイミングを計ると反応が変わってくる。丁寧に慎重にやるべき部分と、そうでない所をキチンと揉み分けないと、キモち良さが半減してしまうのだ。これに成功すると……涎を垂らすほど気持ちよがってもらえる。特に、今のように仰向けの場合、確実にじゅるるとなる。





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