0146:マッサー前
「そうか! あれじゃ、ボルスで跳んだ時じゃ! 何か違和感があったのは……おぬしのスキルだったのじゃな?」
俺の一番最初の能力を説明した。するとアルメニアへ渡る際に違和感を感じなかったことを思い出した、気付いたらしい。というか、服の上から、しかも大峡谷を跳び越えるほんのちょっとの間だけなのに。凄いなー。さすがだ。
「ええ、そうです。手を……よろしいですか?」
外見はとんでもない美貌というか、神秘的な美貌だが……今は既に幻術を施してもらっている。俺の中の俺が尋常じゃなくなるからだ。
中身は……計り知れない人生の先輩、高齢のおばあちゃ……げふんげふんだとしても、礼儀は欠かしてはならない。というか、だからこそ、淑女として扱わなければいけないと、何かの本で読んだ気がする。そして向こうでのおばちゃん無双していた人生経験がそう囁いてくる。
手を握った。
眉間に皺を寄せたオーベさんの表情が……変わった。
「こ、これは……これは……なんじゃ?」
「先生。それがモリヤのスキルです」
「め、女神の加護……は?」
「触ったからといって、加護が薄まる……ということは一切ありません。逆に高まっているくらいで」
「ほ、本当なのか?」
イリス様も頷く。
「私は断末の呪いを三つ受けていました。ですが、今……それを感じ取れますか?」
オーベさんが呪い解析の術を使う。
「いや……ああ……た、確かに。これは……麻痺の呪い、戒めの呪い、鈍重の呪い……か。だが、何故こんなに弱まっている? 断末の呪いというのは、ある程度強力だからこそ、消し去ることが出来ない。呪いは消せない。これは常識だ」
「そうですね。先生。私も、イリスと共に、麻痺の呪い、戒めの呪いを受けています」
「ファランも……か。た、確かに……これは……なんだ?」
「先生。私の魔力が以前よりも強力になったとは思いませんか?」
「いや、それは……確かにそうだが、人は成長するものだしな。それにしても……か」
「はい。これもモリヤのせいです」
オーベさんのこっちを見る瞳が熱くなった。気がする。
「つまり、私もさらに強くなれるということか?」
「……多分。あ、でも、もしかしたら既にオーベさんは生き物、種族の能力として上限に達してしまっていて、これ以上は無理……ということもあるかもしれません」
「それでも、知りたい、知りたいのう。凄いな! どうなるのか!」
うわ……ワクワク顔だ。なんていうか、今までのオーベさんは深いというか、年相応というか、一見するとただの美人モデルで、幻術バージョン、なんだけど、物静かで、考え深い感じだった。
のに。一転して、まるで子供のような顔に。こうして見るとスゲーかわいい気もしてくる。いいなぁ。姿が若いというだけで、結構得するよな。見た目って大事なんだよなぁ。騙されちゃうなぁ。まあ、俺がチョロいんだと思うけど。
「では、よろしいですね?」
オーベさんには寝る前の格好に着替えてもらっている。イリス様やファランさん、ノルドのみんなのようなゴワゴワした感じの……麻みたいな生地の長袖長ズボンではなくて……もう少し柔らかい……綿の様な生地だ。下はまあ、ゆったりした長ズボン。上は……うーんと。長袖のネグリジェ? ちょっとヒラヒラしている? 多分だけど、これ、なんか高そう。価値ありそう。レアアイテムっぽそう。と思いつつ。
ちなみに、シャワーも浴びて来てもらった。本当はお風呂がね、いいんだけどね。この世界お風呂文化無いみたいだし。まあ……なんか、魔術が使えるようになってきたので、お湯が比較的簡単に生み出せるってことで、もう少し時間に余裕が出来たら自分用に作ろうとは思うけど。
イリス様とファランさんは応接間で待っている。現在オベニスに待機しているモリヤ隊のメンバーと情報交換するとかなんとか言っていた。あと、師の乱れる姿は……多分、師が見せたくないだろうと。特に弟子にはっていう配慮らしい。何かあればすぐに駆けつけるとは言っていた。
まあ、どっちにしろ女性と二人きりっていうのは馴れない。馴れるわけが無い。特に美人と二人きり……って、実はもう、ノルド10連発のおかげで、その辺は馴れた。綺麗なのは確かに価値があると思うけど……うーん。もう、ルックス的な部分ではどうでもというか。ただ、これからすることで、オーベさんがどういう反応をするか? っていう部分でドキドキ……っていうのはどうにも消し去れない。
施術台(顔の部分に穴の開けたベッド)はモリヤ隊にマッサージする際に作ってもらった。で、別邸の、あの掃除のしやすい何も置いてない部屋が……それ専用ルームになっている。うん。お漏らしさん多数だったからね。
鎧窓を完全に閉じているので、魔導具の灯り。そして香も焚いている。自然になんていうか……オシャレなアロマルームとか匂い的に特に。
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