0145:ブルーオーシャン

 やはり。アルメニア王たちの目の前に現れ、消えたのは、転移の術だったのか。有視界短距離転移ってとこか。


「召喚術……ですか。奥が深い。流石です。この指輪の収納……魔力に応じて入れられるモノが増えてて。いまは馬車数台分とか入れられるようになってるんですけど。種類も1000超えても平気だそうです」


「なんだと? そんなバカな」


 俺の能力、魔力だと、まだまだだ。まあ、行商人になったら非常に便利だろうとは思う。


「あと、転移は、この指輪を使うとまずはオベニスの地下迷宮へ跳んで、そこからこの地上に移動できるというものらしいです。まだ使ってませんから詳細はわかりませんが」


「はぁ? 本格的に長距離転移ということか?」


「この指輪の元の持ち主は、どこからでも戻れる……と書いてましたね。迷宮の転移の罠でお馴染みの転移だけど、持ち運びできるのはこの指輪だけみたいな。何度も言いますが、まだ自分の魔力総量が少なくて、試せてないので」


「ああ、迷宮の罠と同じ術……ということか。転移陣……自体、それは見せてもらえるのか?」


「ええ、当然。いいですよ? 後で、迷宮の転移陣も見に行きましょう」


 召喚術で使えるようになる、収納、転移はとにかく使い勝手が悪いらしい。オーベさんの様に数百年鍛錬を重ねてやっと「使えるように」なったのだという。 


「了解した。凄いな。いや、まだ……あるのか」


「鑑定……なんですが。できれば、今、オーベさんを見てもいいですか?」


「問題無い。私を鑑定するのか」


「はい。パラメータ、各能力の数値やスキル名が見えます」


 相変わらず時間がかかる。30分以上。熟練でこの時間は短縮されないのだろうか?

 

オーベシェ・ミード ハイノルド 女

腕力104(34) 駆体141(09) 器用154(74) 敏捷151(66) 知恵261(74) 精神284(02)

魔力制御6(11)→火3(05)風4(87)水3(04)土1(20)闇2(41)召5(22) 騎乗理解3(78)


 うわ……この人、本気でスゴイ……。マッサージ前でこれ……か。マッサージしたらどうなるんだ? 今のファランさんよりも高い数値があるって。魔力制御6か。世界最高峰ってこの辺なのか。なんだろうなぁ。


 ちなみに、ちょい前のファランさんがこんな。マッサージ後だ。


ファラン・ネス ヒーム 女

腕力87(64)  躯体123(41)  器用187(21) 敏捷154(36) 知恵274(55)  精神254(79)

魔力制御5(69)→火5(42)風4(20)雷5(21)闇3(45)召3(74)、騎乗理解3(78)

麻痺の呪い、戒めの呪い


 パラメータを書き出した。


「これが、私の能力か……」


「さすが先生……」


「数値が全てでは無いですけどね。目安にはなると思います。他の人との比較とかはまあ、後にして。オーベさんにはこの後、能力上げの儀式に参加していただきます。それで、その数値がどう変動するのかを検証したいのです」


「うむ。分かった。好きにしてくれ」


 マッサージか~結構久々だな~。まあ、オーベさんも美人だからな。中身が超高齢なだけで。肉感的には超絶細めだが……ノルドにはもう馴れた。のじゃロリじゃなくて、のじゃ美女なんてジャンルあったっけ? というかあれ? そういえば……疑問だったんだけど。


「あの……そういえば、オーベさんは常に幻術を使って容姿を変えている……様なことを言っていた気がするのですが。仮面を付ける付けないの話をしたときに」


「ああ、ああ、そうだの。今も幻術はかかっておるよ。それなら久々に外すか」


 ……ポカン……と、開いた口が塞がらなかった。それは……俺だけでなく、イリス様とファランさん、弟子のファランさんですら、だ。


 一瞬でその外見が豹変した。


「そ、それが師の……本当の……」


「ああ、ファランも見たことは……無かったか。というか、そう言われてみればここ二百年程度は掛け続けていた気もするな」


 そこに表れたのは……筆舌尽くしがたい美女……いや、王族の持つカリスマ性とかそういう様な神秘のスキルの力的な何かが宿っている眉目美しいお姫さまが立っていた。光輝いている? 金髪碧眼、ちょい長い耳。ノルド族が本能で敬ってしまうのも判る気がする。


「……ああ、ああ、それはそうですね。幻術を掛け続けることになりますね、これは」


「そ、そうだな。さすがオーベ師。純粋にその美しさを狙って貴族の手が伸びますな」


 そういうのに鈍いイリス様ですら驚愕している。


 元々、幻術を使っていても、なんとなく美人だな……でもなぜか印象には残らないなって感じだったのだ。そうか、これが漏れ出してしまっていたのか……。


「美しいな、オーベ師は」


 あれ? いつの間にかイリス様までオーベ師呼び? どうした?


「長く生きていると、容姿など面倒以外の何物でもない。災いを呼ぶのは嫌というほど体験済みだからな。常に幻術を使っている訳はわかろう?」


「はい」


 そうなるよな……というか、これで歩いていれば、確実に即ハイノルドっていうことが分かるな。ノルド族じゃなくても分かる。タダもんじゃない。


「話を戻すぞ? そうか。モリヤが処置を施したから、能力の高い者たちがここに集っているのだな?」


「まあ、最初は偶然なんですけどね」


「なんと」


「イリス様もファランさんも、モリヤ隊のみんなも、出会ったときから能力は非常に高かったですよ? まあ、ここまででは無かったというだけで」


「それにしても。アルメニアの通り名付きの武人「魔剣士」オーバックを打ち倒せる者が十名以上いるのだぞ? 他国に知られていないからいいようなモノの……」


「あ。武人ですか? 武将? ですか?」


「うん?」


「通り名付きの有名人の総称です」


「うーん。その時次第ではないか? 通り名の付いている戦士、魔術士……強いヤツが何人くらいいるのか? なんて感じで話をするのう」


「そうだな……強いのとか、強者なんて呼んでいたような?」


 まあ、じゃあ「通り名付き」とか「強者」でいいのかな。大抵の強者は通り名で呼ばれているようだし。


「我々、何が足りませんかね? ぱっと見でどう思います?」


「やはり人……じゃな。教師も足らん。役所も人手不足だと嘆いておったわ」


「もっと大々的に告知しますか。公的なモノは「男女不問才能募集」。裏で「領主が女なので才能のある女性が求められている。さらに女を不当に蔑む輩はどんなに能力が高くても不必要」という噂を流す。これまでよりも大きく、流布させる。オーベさん、優秀な女性が最も数多く燻っているのはどの国でしょう?」


「全てじゃな。少なくとも私は、女の泣いていない、我慢していない国を知らん」


 ブルーオーシャンか〜そりゃいけるかもしれない。人口の半分から選び放題だ。





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