0144:信じますか

「オーベさんは……この世界のこと、どう思いますか?」


 つい、聞いてしまった。


「どう……とは?」


「なんかおかしいとは思いませんか?」


「……」


 まあ、彼女くらいの本当の実力者なら……当然、イロイロと思うところがあるだろう。


「自分は界渡りだからかもしれませんが……いろいろな部分で歪な気がします。特に人が触れ合えないシステム、そして強さの偏り」


「偏り?」


「なぜ、同じ種族でここまで個人の強さに差があるのでしょうか? 一般の人を1とすると、戦える人は10~20。さらに有名な戦士や魔術士は100くらいあるんじゃないでしょうか? 普通、種族が同じであれば鍛えている人と鍛えてない人の差なんてそうそうありません。あったとしても……五人はともかく、装備が同じで五十人相手は無理でしょう。自分の生まれた世界の常識です」


「……」


「ですが、この世界では当たり前の様に、そうなっている。これは多分、そうならざるを得なかったんじゃないか……と考えます。人よりも強い魔物に対抗するために、進化せざるを得なかった」


「うむ」


「で。そこまで追い詰められたのは人口が少ないからです。人は魔物よりも数の多さが種族的な特徴だと思うんですが、この世界の出生率は低すぎます。オベニスは女性の多い都市です。ですが、子供を2人以上産んだことのある人は少ない。出生率は1近辺でしょうか? これは生涯通して、子供を出産する数が1人以下ということです。未亡人だけでなく、夫婦の方、それなりにいると思うんですが……ほぼ、皆さん子供は1人。人口維持に必要な数値が2.1と言われていますから、極端に少ない。そこに触れ合えないということが大きく関係してます」


「ああ、確かにその通り。この世界はおかしいのかもしれない」


「様々な文化や文明の進化も歪な気がします」


「そうか……それはこの世界の住人である私には判らないが……確かに、この世界は「誰か」に調整されているのではないかと思う」


「やはり」


「でなければ説明できないことが結構あるのだ……」


「神……ですか?」


「ああ、あるいはそれに近い何か……」


「女性が必要以上に虐げられているのも……それに関係ある気がしませんか?」


「ふむ……そうだな……あまりに心当たりが多すぎて……だが逆に特定出来るようなハッキリとした理由も見あたらぬな」


「ええ、まあ、そうですね。自分も判りません」


「で? それと仲間……と何か関係があるのかな?」


「先生、我々は戦おうかと思っています。弱き者を守るために。女が……女だというだけで色々と諦めないでいられる国を」


「弱き者を守る……というのは判る。が。女が……というのは、男と女が同権の国……ということか?」


 さすがファランさんの師匠。スゲー理解力だ。同権。そう、その通りだ。


「ええ。そうです。男女同権。自分のいた世界では当たり前の考え方でもありました」


「それは難しいな……」


「そうですね。でも、このままだと、いつまでもいつまでも……女性は子供を産めば良い、それ以外では黙っていろ、大事なところでは必要無い。と存在を否定されたままでしょう」


「我が国では全てやる気と能力のみで判断しようと考えています」


「うむ……うむ。それは判った。仲間というのは、その国の一員となれということか?」


「一員では無く、我々と一緒に仕掛けていただきたいと思っています」


「先生には……本気の知識をお貸し願いたい」


「そちら側か……」


「その代わりと言ってはなんですが。当然、私のスキルも詳しく説明致します。仲間ですから」


「ほほう……それは興味ぶか」


「いや、オーベ師。この通りだ。仲間になって欲しい。モリヤのスキルは、以前セズヤの森で言った通り、その人の能力を上昇させるというものだ」


 そしてイリス様の見事な土下座……というか、お願いの最上級ってこの世界でも土下座なのか! っていうか、そうなの? アレ? 


「イリス……王がそれは……」


「オーベ師にはそれをするだけの価値がある。この土下座というポーズはモリヤが私と初めて会った時にしていたモノだ。こちらの誠意や感謝の気持ちを最大限に表現したいときに使うと聞いた」


ぷっ


「ああ、領主様、いや、我が君よ……判ったから頭を上げておくれ。我が拙い剣を貴方に捧げよう。我が剣は王を守り、遍く弱き者の庇護とならん。簡易だがこの誓いは王が生ある限り、私が生ある限り、破られることはない。よろしく頼む。我が同胞よ」


「はい」


「ではまず、能力の上昇というのは……」


 マッサージの前に確認しておきたい事がある。


「うーん。それよりも先に、まずはオベニスの地下迷宮で手に入れたこの指輪。グランバニア帝国時代のモノで界渡り専用品です。機能は三つ。鑑定、収納、転移。手に入れた当初は俺の魔力が少なすぎてイマイチ使い物にならなかったのですが、最近は魔力が増えてどうにかなりつつあります。まだ試してませんが、転移も最低一回は使えるようになってます」


「ほほう大帝国時代。今から3000年以上は昔だな。……鑑定……は良く判らぬ。が。収納と転移は召喚術だな。どちらも私も使える」


「え? 本当ですか?」


「ああ、収納は……非常に使い勝手が悪い。最大でも3つしかモノが入れられん。転移は自分の視界内の目標となる場所へ跳べる術だ。こちらは使い勝手がいい。私の切り札なのでな。その存在自体も明かしたことは無いが」

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