0143:オーベ師

 あ。思い出した。


 というか、それ以前に。ええ、それ以前に。オーベさんの件をきちんとしないといけなかった。あの人は敵に回しちゃいけないのが確定したわけで。


 まあ、元々ヤバイとは思ってたけど、実力的に証明されてしまった。イリス様は一極集中タイプだから、万能術士タイプのオーベさんは是非とも取り込みたい。というか、建国する……と考えると人材は多ければ多いほど良い。ちゃんと話をして……ってハイノルドってだけでなぁ。もの凄い年上だろうもんな。


 何よりも多分……転移術を……使えるのがね。笑。


 ファランさんですら、指輪の機能を説明したときに、どれもこの世には存在しない術、スキルって言ってたのに。


 まあ、確かに、転移の魔方陣や呪文はおとぎ話で登場したことがある……とも言ってたけど。そのおとぎ話レベルの人がいますよー。貴方の師匠ですよー。俺の指輪よりも使い勝手は良さそうだしなぁ。


 さっそく、イリス様とファランさんに相談する。


「多分……オーベ師はほぼ全て予測して判っていると思う」


「そうですか」


「その上で……だと思うのだが、確かに、確認しておいた方がいいかもしれんな。気まぐれな所もある方なので」


「うむ」


「あの方の……選択基準は、好奇心だ。研究、観察、実践。さらに言えば攻撃呪文であれば、実際の戦闘、攻撃で使わなければ意味がデータは取れないと判断するタイプだ。良く戦争や紛争にも参加されていた」


「確かに「召喚妃」……は幼い頃から聞いたことがあるな」


「さらに……長いこと世を見てきたからかもしれん……厭世的な、あまり世俗の者と関わりを持たない様にしている風にも思える。オベニス以前のように、あまりしつこくしたり、構うと居なくなってしまうだろうな」


「そんなにでしたか」


「ああ。教師として働く場合、最初は「召喚妃」という名を隠しておられるのがその証拠だ。そもそも、師匠を我が物にしようと動かない貴族、王族、国家が存在すると思うか?」


「思いませんね~正直ここまでスゴイ人だとは「思えてなかった」みたいです」


「ああ、まあ、あまり言われるのも嫌う方だからな」


「蓄積された知識。卓越した能力。そもそも、美術品のように美しい外見。ドレスを着せて飾っておきたいなんて言う不届きなヤツもいそうです。さらに……ハイノルドだと知れれば」


 お歳はおいくつなんでしょうね。


「ああ、そうだな。それにしても師匠がハイノルドだったとは……。その秘密を明かしたという事は、弟子である私よりもモリヤの方が信用を得たと言う事だと思うんだが」


「いやいやいや、イリス様だと思いますけど?」


「そうでは……ないな。その辺を含めて何か感じておられるのかもしれん」

 

 イリス様が何故か自信たっぷりに否定する。


「では、自分の秘密も含めて、公開し、約束してもらえるのであれば、マッサージもする……でよろしいですか?」


「ああ。師が望むならそうしてくれ。私生活がだらしなかったり、いい加減な事を言ったりもするが、あれでいて、弟子に対してはもの凄く真摯な方なのだ。私も良くしてもらった覚えしか無い。自分よりも他人を優先する素晴らしい御方だ。あの人のいる街のスラムは、時間はかかるがいつの間にかスラムで無くなるのだ。気付いているのは弟子だけだと思うが」


「……そうですか。ええ、そうでしょうね。それはそう思います。情が深い方ですよね」


「ああ。師は……長く生きて来られているので、若干我々と時間の感覚が違う。それが大きな差異を生み出して、最終的には人や……特に国とはなるべく関わらぬようにしてきたそうだ。以前酔っ払った時におっしゃっていた」


「はい。判りました。その辺、含めて、味方に、仲間になっていただきましょう」


「ああ、そうだな」


 なんだろう……話を聞けば聞くほど……アレだ、大軍師……諸葛亮孔明を幕僚に迎える的な。まあでもそれくらいのレベルの人か。軍事作戦的な所はともかく、世界全般への知識なんかに関しては非常に頼りになるハズだ。少なくともこちらに好意は持ってもらっている気がするしな。うん。


 オーベさんは現在、オベニスに建造中の魔術学院の授業内容を詰めてもらっている。が、そこまで期限が迫っているわけではないので、余裕はある様だ。


「ご足労申し訳ございません」


「いやいや、家宰殿のお呼びとあれば」


ぷっ

 

 にやり。まあ、今さら。ええ、今さら。


「で? 何用じゃ? モリヤ。そしてファラン」


「以前言ったように。先生が知りたいことをお教えしようかと」


「ぬ。良いのか? 領主殿」


「ええ」


「今回の遠征で先生はとにかく味方にしないとと思ったらしいですよ? モリヤが」


「ええ。ぜひ、味方ではなく、仲間になっていただきたい」


「ほう、仲間か」

 

 それまで笑顔だったのが、途端に真剣な表情に切り替わる。


「私がハイノルドなのは言ったな」


「はい、お聞きしました」


「ファランも知らなかったハズだ」


「はい」


 真剣な表情から、さらに、深遠な表情とでもいうのか。


「ハイノルドは……寿命がおかしい種族でな。詳細は良く判っておらん。ノルドの王とも、上位種とも言われておるが。私は……既に900年近い歳を経ている。同胞、知り合いは既に全て絶えた。放浪の際に痕跡を探してみたが、見つからなんだ」


 オーベさんが神出鬼没とか、放浪しているとか言われていたのはそういう理由があったのか。


「それだけ生きれば当然、様々な事があった……。若い頃には領主様のような強き者に惹かれ、国の運営に関わったこともある。だが、お前たちヒームは精々70年。ノルドも150年。他の種も似たようなものだな。知る者たちが死に、その子たちも死に。何度か繰り返すうちに、全てに虚しくなってな。いつしか弟子を育てるのと、教師くらいしか、世に関わらなくなった」


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