0142:結果

 さて、我が国、傭兵団、領地は。内密とはいえ、セズヤからかなりの優遇を受けることになった。早急な、目に見える様な報償を要求しなかったからだ。


 どんなに活躍したとしても、下餞な傭兵団ごときに名誉は与えられないという意見は根強い。爵位とか役職とかまあ、公的な評価ってヤツは時と状況によって大きく価値が変化する。特に今回、攻め込まれて一方的に蹂躙されたセズヤは何一つ得ていないのだ。

 なので統治側、貴族の復興の活力は名誉しかない。それと傭兵団を同列で語られるのは、どうにも納得がいかないのだろう。まあ、ならオマエらでやればよかったじゃんっていう気持ちは置いておいて、プライドの高い人ばかりの世界ということであれば、判らないでもない。


 同じ理由以上に、領地割譲などあり得ない。ほんのちょっと前まで占領されていたものをやっと取り返したのだ。何もしていなかったとしても。それを……。少なくとも今すぐにまた、土地をどうのというのは感情的に厳しい。


 名誉も土地も使えないとなると。残るは金……ということになるわけだけど。


 ぶっちゃけ、物理的に金が無かった。セズヤの蓄えていた貨幣貴金属は、占領の際に「分配計算のため」とアルメニア本国にことごとく移送されたようだ。やるな、あの軍師。さすがはオーベさんの弟子だ。他国と戦争をするための大事な種銭となるわけで、おおよそでも早急に勘定しておかないと、不安だったのだろう。


 ということで八方塞がりとなったセズヤに我々が譲歩した。

 

 城塞都市モルダン一帯から落人の里周辺を女王直轄領とし、傭兵団傘下の商人をそこでの経済活動が可能な様にすること。将来的に報奨金等が支払われるまでは、税の優遇(価格的な優遇などは無し)。将来的にセズヤが支払い可能な状態まで経済回復に成功したら、再度、報奨金について交渉する。


 現代日本からすれば結構無茶な要求だとは思うが、元々落人の里周辺は、作物も実らない、過酷な痩せ細った土地。セズヤにはどうにもできない死んだ土地なのだ。それが、女王が秘密を守るだけで勝手に開発され、交易が行われる。そこに謎は残るが……まあ、その辺のトップによる独断は、王政の良いところだろう。


 まあ、つまり、現時点ではセズヤは何一つ、我々に報償を供与する必要が無くなったのだ。


 これは大半の貴族にも、大いに受け入れられた。絶対に裏があると、内々に探りを入れてきたのは現セズヤ首脳陣、あの里から我々と行動を共にした者たちだけだった。笑。


「うちの黒鍬衆(騎士団とは別に、戦場で主に工兵、施設兵として活動する兵団を提案したらあっという間に組織された。名前はなぜか、黒鍬と翻訳? された)と職人のおかげで流通経路が整備されました。オベニスの開発が一段落付いていて良かった」


 おかげで、水路出口から里への道はあっという間に整備することが出来た。里の周辺も切り開き新たに大きめの倉庫をいくつも建設。そこでセズヤのモルダンで買い付けた麦などの穀物、生鮮食品を集積貯蔵し、順次オベニスに輸送することになる。


 結果、続々と麦や食料等が輸送されてくるようになった。そもそも、向こうは国で、こちらは一都市だ。交易の基礎量が大きく違う。


「飢えずに済んで良かった」


 水路出口内部はうちの兵隊で固め、周辺にも厚めの警戒網を張り巡らせている。まあ、これも女王直轄領だからこそ出来る暗黙の了解ということで、輸送品の護衛の範囲を超えることは無いという盟約を交わした。


 で。こちらからは、復興需要で喉から手が出るほど必要な、魔石を供給している。これは思いのほか引く手あまたで需要が高かった。当然だが、通常価格より、ほんのちょっと高いくらいで取引している。足下を見てぼったくったりはしていない。逆に復興価格でちょい高に設定しないと、勘ぐられることになるかもと言われたからだ。


 黒ジジイ、王国筆頭魔術士オーバット卿の策略……王都側の仕掛けはジワジワとオベニスを追い詰めつつあったのだろうが……水路を利用した新規商業ルートの開通によって、食料等の物資はお構いなしにオベニスに届き始めている。一安心ってヤツだ。


 これで長期戦でモノが考えられる。とにかく足りない人の問題も……どうにかなるかもしれない。


 オーベさんはともかく、それ以外の……パティ、シエンティア、ロザリア、ミリアの例でも判るように、この世界は有能な女子の人材が余っている。というか、差別も偏見も無く女子を幹部に立ててるのはうちの領くらいだ。積極的に募集しているのも。


 別に望んでいるわけでは無いがうちの領、国はイリス様をトップに置いた女王制へと進む可能性が高いわけだから、変な問題が起こる可能性は極力減らしたいのだ。


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