0141:帰還

「帰りました」


「上手くやった様だな。モリヤの言っていた中で一番上等な成功なのではないか? 非常に遠回りだが、最新情報で、セズヤは自力で復国したと伝わってきたぞ」


「ソレは良かった。仮面の傭兵については?」


「全くだな。居なかった事になっているのではないか?」


「女に手柄を取られたとでも思っているのでしょう。なので全面的に隠蔽したかと思われます」


「ああ、そうだろうな」


「とはいえ、イリス様とみんなの戦い方が上手かったという事でしょう。セズヤではほぼ、森の中、視界の開けていない場所で戦ってもらいましたから」


 セズヤからアルメニア征服国の騎士団=戦力を削る戦いはゲリラ戦が中心だった。森の中に引きずり込んで各個撃破。その際に姿を見られたら確実に消すを実行したのだ。


 ヤツらが我々数人にここまで翻弄されたのは指揮系統が壊滅状態だったからだ。


 早いうちにオーベさんが潰した駐屯地がセズヤでの司令部だったらしい。おかげでかなり楽を出来た。


 と、いうことで。オベニスに戻ってきた。正直……疲れた。疲れ果てた。


 地球……しかも日本の運動不足世代にこの世界の旅はとにかく疲れる。水路を船、筏での移動だったから、そこは楽だったけど~それ以外は、馬車。アレ、揺れが酷くてもの凄く尻が痛い。さらに、馬。これまた股が痛い。

 それが嫌なら歩きしかない。というか、早歩き。うちの人たちは思い切り走ると馬よりも速いので、歩きでの移動がメイン。野宿もつらかった。のだが。それをさらにツラくしていたのは……自分か。


 セズヤ出張中にも睡眠前に行える「風裂」の複数起動の練習を行っていた。アレ、重いんだよね。思考が疲れるというか。まあ、だからこそ、訓練になると思ってやってたんだけど。


 ……すいません。自分以外全員女性という、ある意味ご褒美の様な地獄の出張ですし、なかなか個室など確保出来ないわけです。そんな中、会議で怒鳴り合いとか、戦争とか、心滾るイベント盛りだくさんなわけじゃないですか。自分自身の手を汚していないだけで、精神的には全部自分でやってる気になっているわけで。そりゃもう……目は冴えて計り知れないほどギンギンになるわけで。眠れず。


 そうなるともう、とにかく疲れるしかない! という結論に達すると。結構切実な理由であります。


 そんな邪な思いではあったものの、ほぼ毎日魔力の訓練をした結果。同時起動……ちょっとずつズラして術を起動することで、最大6つまで、術の制御が出来るようになった。


 さらに。2つ起動で良ければ、違う的を狙う事も可能になっている。これはスゴイ。自分で自分を褒めてあげたい。最初こんなこと絶対に出来ないと思ってたのに。というか、とにかく沢山起動しているうちに、いつの間にか出来るようになっていただけなんだけどね。


 とはいえ、出張中、魔力切れとか何が起こるか判らなかったので、指輪に関しては簡易鑑定以外、一切触らなかった。収納もあまり使っていないし。転移なんて、想像することも避けていた。もしも、発動してしまって、前のように気を失ったら即ヤバイ状況に陥ってしまうからだ。


 オベニスに帰り着いて、真っ先に受けたのはセタシュアの熱烈なお出迎えだった。いや……えーと。いきなり泣かれても。まあ、帰宅当初、最初はね、我慢していたのか、ちゃんと節度あるメイドとして接してたんだけど。


 部屋で二人きり(色っぽい話では無く、自分の執務の時には御用聞きのため、彼女は隣室に控えていることが多い)になった途端にそんなんなって。うーん。そんな風に思われて嬉しいと思うけど、ちょっと俺に依存しすぎな気がしないでもない……というか。いいのかな? 距離感を測りかねる。この世界では別におかしい関係ではないと言われてもな~。仕事でもプライベートでも子供と接することが無かったもんなぁ。


 さて。今回の結果として。


 セズヤ王家はファランさんの知る限り、近隣諸国家の中で初めて、女の王、女王を戴く国となり、領土を取り戻すことに成功した。瀕死ギリギリからのスタートだったにも関わらず、元の国土の全てを取り戻した。まあ、大渓谷があるからだが。

 なので大峡谷を超えて、報復や侵攻するだけの余力は無く、逆に侵攻するなんてことにはなっていない。さらに、現時点でもアルメニア征服国となんらかの条約を結ぶことは出来ていない様だ。


 この世界の常識として、条約を結ぶなら自軍の有利な状況で……ということになる。やられっぱなしのセズヤはせめて一太刀浴びせなければ、プライド的に交渉の席にすら着きようが無いだろうしなぁ。とはいえ……難しいよなぁ。「剣聖」と「魔剣士」はいなくなったとはいえ、純粋な騎士の戦力としては征服国の方が上だろうし。軍師もいるしなぁ。


 とりあえず、財政的に厳しいながらも、国を再生させるという方向で若き女王の元で一致団結しているらしい。まあ、女王を始め王族に叛意のある貴族は軒並み、排除されてしまっている……というか、まあ、やったのは我々なんだけどね。モリヤ隊のみなさん、大活躍でした。と。 


 アルメニアは軍の再編、兵糧の再備蓄と、戦力的、経済的に的確に追い詰められてしまった。メールミア王国と似たような流れだが、被害の大きさは征服国の方が上だ。そのため、セズヤに攻め込むことどころか、更に手を伸ばそうとしていた南、我が国方面への侵攻もしばらく適いそうになかった。




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