0135:豪腕

「こいつは……俺がもらった!」


 叫びながら振り下ろした青竜刀。この振り下ろしは……思い切り振りかぶった状態からの日本刀での斜め斬り下ろしに近い。踏み込みの初速が異様に速く、長い。さらに踏み込んだ右足を斬らないように剣尖が斜めに降りている。

 剣聖の青竜刀は凄まじい破壊力とともに、連続技が繰り出される。当然、イリス様に叩き込まれようとはしている。が。当たらない。

 まあ、おかげで何をしているかが良く判る。って、普通に自分で見てたら俺の目じゃ多分追えないんだろうけどね。当然の様にイリス様なら可能だ。

 振り下ろしを絶妙な見切りで避ける。初見で、さらに剣の長さが判らなかったので、ちょっと余裕を持って避けたようだ。


 剣聖ホウジョウが再度構えを取る。先ほどの把り直しで、イリス様の方は準備万端だ。ホウジョウの手がミアリアに向く可能性もある……と考えて、若干、引いて構えたままだ。


名前:ホウジョウ・××××


種族:ヒーム

腕力がなんとなく高め。


スキル:

剣術、他にもあり。


 何のひねりもない。確かに剣聖だ。俺が能力付与せずにこの能力なのだ。多分、複雑なことはしていない。努力の人だ。剣術のスキルの数値が……どれだけなのか判らないが、ここまで見ていただけでも良く判る。イリス様よりは能力値は低い……と思う。だが。ほぼ互角に立ち会っている。


 どれだけ研鑚を積んだのだろうか? 小細工が無い分だけ、その実力のみでの勝負となっているハズだ。


 というか、理解って……みんな同じだから無くてもいいのに……と思ったら、なんとなくその表示が消えた。ぇぇ……まあ、そうか。俺のイメージでスキルの名称も変わるのか……。



名前:ホウジョウ・××××

ヒーム 男 腕力がなんとなく高め。

剣術、他にもあり。


 あ。なんかスキルが下に並んでるの長くなるとウザいな……と思っただけで、スキルの並べ方も変わった。うむ。三行。見やすい。というか、俺が脳内変換してるだけっぽいな……この鑑定ってギフト。もっと、本来はアバウトって言うか、適当な感じなんだろうか。


「しかし、世の中ひれぇなぁ……セズヤの雇った傭兵団には女がいるってのは聞いたが、女ばかりとは思わなかったぜ? 特に武芸者で女はそれほど多くねぇ。有名所だと「荒れ狂う鬼」くらいか。まあ、アレもちょっと眉唾物だしな。だが……」


ギギギギッギ!


 イリス様が。青竜刀の刃を戟の柄で受ける。金属と金属がぶつかり合い、火花を散らす。当然だが、刃部分の鋼は薄い。質量的に大きく違う両者の武器。にも関わらず打ち合えてるのはホウジョウの技量が高いせいだ。


 ちなみに、この方天画戟もどき、セズヤ王国王都レアランの武器屋に客寄せの飾りとして置いてあったモノだ。武器屋はアルメニア騎士たちの略奪によって廃墟となっていたが、これは重くて動かせなかったのか、そのまま壁に埋め込まれていた。全部金属、しかも硬くて柔軟という長所のあるクバンガ重黒鉄で出来ているという。


 バランスもがたがたで、普通なら振り回すなんてとんでもない……と、最低限の調整をして、刃を立ててくれた鍛冶屋が言っていた。


 弱点は……とにかく重い。クバンガ重黒鉄は他の金属に比べて、飛び抜けて重い。鍛冶屋は弟子と三人で持ち運んでたな……確か。ってことは、百㎏以上はあるハズだ。総金属性の槍系の武器なんて、ただでさえ、おかしいくらい重くなる。イリス様はあの細腕で、なんでアレを振り回せているのか。


 手の上下を入れ替えるようにスゴイ勢いで戟が舞う。これは……凄い。我が君という身内びいきを差し引いても、戟の先端の生み出す風、質量、その圧力が分厚い膜の様に、振り回しの軌道に合わせて、常時展開される。当たれば……いや、擦れば持って行かれる。素人から見てもそれが判る。

 

「凄いな! 女!」


 まさに武を極めようとする者なのだろう。男とか女とか関係なく……いま、女と言っているのはこちらが名乗っていないからだ……とにかく強い者に憧れ、牽かれ、戦うことを望むのだ。


 口が悪いのと、性別が違うことを除けば……多分、イリス様……と同じ属性なのだと思う。珍しくイリス様が全力で戦おうとしている。ああ、そういえば聞いたな。若い頃はイリス様も朝から晩まで剣や槍、様々な武器で素振りや型を繰り返していたと。


 舞う戟の流れに逆らわず、それに抗う形で剣聖の刀が食い込み始める。逃げ続けるのは無理があるとの判断だろう。うん、逆にこれを続けられたらいつかは当たる。擦る。それだけでもってかれるのは確定だ。


 流れに逆らって、一撃を狙うのは正しい選択……なのだが、相手が悪い。剣聖が思ったよりも隙間が無いのだろう。途切れない。じりじりと押されて後に下がり始める。


ザッ


 若干振りかぶりが大きくなった瞬間を狙って剣聖が大きく退いた。


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