0134:ノルドの子
名前:アーバック
種族:ノルドハーフ 性別:男
器用、敏捷、知恵、精神高め。
スキル:
剣術理解
魔力制御
火
その他
ちょっと詳細が表示された? あれ? これ、何度も鑑定すると簡易鑑定でも情報が更新されるのか? うーん。魔力無くなりそうだから、止めておこう。というか、そもそもの検証が足りないな。出先、しかも戦争介入なんて現場では試行錯誤できないからなぁ。いつ何が起こるかわからないわけで。
アーバックが再度、火纏を使用したのか、さらに大きくなった炎を纏った短剣を突き出してくる。薙ぎではなく突き。ここで剣術の型の大きな変更。さらにミアリアの反応が遅れる。この積み重ねは不味い。完全に相手のペースに飲まれている。
それでも、地力で勝るミアリアの剣が上下から挟み込むようにアーバックに迫る。その剣に合わせて中心に、風の塊が生み出された。それに斬り付けてしまうミアリア。
ドゴ……。
鈍い音と共に剣が押し戻される。
多分、今のは本当に簡単な術で。ノルド族であれば誰でも使えるような風の術の初歩。風を操ってそこに置く、風を吹かすなんていう基礎。そんな簡単な、術とも言えない様な技で剣を大きく弾かれたミアリアが、自分も弾かれた形で少し下がったアーバックとの距離を縮めようと走る。
アーバックは……ここぞとばかり、ミアリアが若干攻めに転じたこの瞬間を待っていたと言わんばかりに、片手に剣を持ったまま、柏手を打つかの様に、両手を打ち合わせた。
ズガガガガガッガガガ!
大地が揺れる! 連鎖。爆炎、爆発が同時に引き起こされている。今、ミアリアが突っ込んでいた場所には、いつからか、アーバックの罠がいくつもいくつも仕掛けられていたのだ。
当然、自分もダメージは受ける。が。勝てば良いのだの精神か。気合入ってる。最終的に動ければ良いのだろう。
アーバックの装備している鎧は、火炎耐性が高く、爆発にもできる限り対策されている様だ、との報告が上がってくる。見た目的にも特殊で、衝撃を弱める素材が使用されているっぽいのがなんとなく判る。
超限定的だが、その分だけ強力な爆裂。火炎は一瞬だが、大地を抉る爆裂は周囲では無く、天に、上に向かうように仕組まれていたらしい。範囲に仕掛けた術の指向性か……。こんなに細かいことができるんだな。
「可哀想な同胞。ノルドの子……頑張ったのでしょう? せめて。苦しまぬように」
アーバックの顔に……今度こそ本当に驚愕が浮かんだ。そりゃそうだろう。彼にしてみれば今回の罠は布石が複数。誘って引いて、誘って引いてを繰り返して、最後の爆裂は多分、魔道具との組み合わせで魔力を追いかけがちな術を使う者では気付けない。
あのタイミングで、あの短時間で発動されたら、術による障壁は絶対に間に合わないのだ。自信があったのだろう、驚愕の表情を浮かべた。
ミアリアは……風纏の術で全身を覆っていた。付与系の術は見たことはあったろうが、ここまで大きく、身体全体を覆う……のを見たのは初めてなのだろう。
ちなみに、モリヤ隊でもこの全身に「風纏」、かざはやの術というのは使用出来る者が限られている。さらに、維持できるのは最大でも3分程度。魔力切れも起きるし、さらに、これを維持して攻撃を仕掛けることで、異常なほど魔力制御に負荷がかかる。これを使った後はしばらく休ませないとヤバイ。ある意味、究極防御だ。
これまでに比べれば、ゆっくりと、風と共にミアリアが近づいて行く。
アーバックは自分を囮に仕掛けた罠のせいでボロボロだ。騎士鎧に似た全身鎧も、篭手がはじけ飛んだり、亀裂が入ったりしている。特に腕の部分が酷い。短剣は手にしているが、この傷では普通に振れるかどうかも怪しい。筋肉だけでなく、腱や筋まで抉れている気がする。
じり、じりと後ずさるアーバック。この期に及んでも泣き言も言わず、逃げ出さず、今も起死回生の逆転の一手を狙って、チャンスを伺っている。
「……出会い方よね。見逃すワケにはいかないの」
そのセリフと共に。ミアリアの身体が消えた。風が先に動き、空間を歪め、その歪みに沿って自分の身体を見えなくする。
通常なら戦闘中や、敵と対峙している場面で使えるようなモノでは無い、隠密系の術であるくゆらせと、しょうしつ。この二つを微妙に混ぜ合わせている。さらに、かざはやによる風の誘導まで使用したこの技は……名前も無いこの技は、ノルド隊、さらに言えば、ミアリアの究極の攻撃でもあった。
後ろへ引いていた足が……止まった。微妙な揺れに首が……墜ちる。血は噴き出さない。勢いで斬ったのでは無く、術も使って静かに切断したのだ。身体が倒れ……やっと、忘れていたかのように血が流れ出す。
両手に短剣を持ったまま……ミアリアは膝を突いた。
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