0133:魔剣士

名前:アーバック


種族:ノルドハーフ

器用、敏捷、知恵、精神高め。


スキル:

剣術、火の魔術、他



 そうか……まあ、うん、なんとなく判った。この魔剣士がツラい人生を送ってきただろうことは良く判った。俺なんか想像も出来ないくらいツラい事あったと思う。


 が。だからどうしたと思うしか無い。戦争っていうのはそういうものだろう。


(はい)


(だな)


(ええ)


(はい)


 側にいるアリエリを含めた、四人から同意が伝わる。


(では行きます)


(無理せずに。イリス様が剣聖を討ち次第、そっちに向かう予定)


(領主様にお手を煩わせるわけにはまいりません)


 ミアリアの右の短剣が、首筋に伸びる。アーバック、魔剣士もそれを剣で弾いた。既に、短めの杖は手放し、剣を構えている。半身にして、前傾。数値的にもこいつは素早さを主体にした攻撃を繰り出してくるハズ……と伝えている途中で既に、身体ごと突っ込んでくる。細かく突き出した短剣の勢いを殺さずに、そのまま手を付き、空中で前転。その際にも短剣が外側に向けられている。回転時の隙をカバーしているのだ。


 アーバックの持つ短剣が赤く、光る。松明かのように剣の刃の部分が燃えている。


 火纏。確か、火の術の付与はそんな感じの名前だったハズだ。いつの間にか短剣が炎を纏っている。アレに擦るだけでかなり酷い火傷を負う。


 再度、前傾。同じ様に直線で攻めてくるかと思った瞬間、ミアリアの手前で強引に左に跳んだ。それと共に横薙ぎの短剣の刃。炎を纏った刃がミアリアが今、存在していた場所を斬り裂いた。


 アーバックの表情が驚愕に歪む。ミアリアが両手の短剣に風を纏わせる。これはノルドの術で矢弾に使用する付与系の術、かざはやを剣に纏わせたものだ。風を使うのはノルドの技。だが、これは見た事が無かったらしい。

 

 一瞬怯んだかに見えたアーバックだが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。再度、火纏が短剣に付与される。さすがに無詠唱、戦闘中……と考えると使える術は限られている様だ。というか、付与の術を戦闘中に使うなんて、普通はあり得ないと言われていた気がするし。


(はい、その通りです。我々だけかと思ってました)


 うちの人たちはみんな、当たり前の様にやるから、常識が良く判らなくなってしまう。まあ、さっきまで一瞬で屠られていたのが普通に強い人……騎士なわけだから、ここで行われている戦闘もかなり高レベルなモノなのだろう。


 アーバックの仕草が何か……ちょっと変わった。腰のポーチを触った? 後に何かを蒔いた様な……。と思った瞬間に、再度、攻撃が繰り出された。先ほどよりも、火纏の炎が大きい? 厄介なのはこの火が異様に粘着質で、触れた対象にもまとわりつくことだ。


 ああ、そういえば……第四騎士団の指揮を執ってた……名前忘れちゃったけど、ヤツが「燃えよ槍」とか言って使ったスキル。あれの元になっているのが火纏なのかな。あの火、蛇みたいにまとわりついて、しつこかったもんな。そう考えれば、アーバックの剣の炎の面倒くささも納得がいく。

 彼は賢いから術名を叫んだりしてくれないからなぁ。多分、火力をパワーアップさせると、まとわりつく力も強化されるんだろうな。


 少し。ほんの少しだが、ミアリアの回避のために使用する距離が長くなる。距離を取るということは、その分、時間がかかる。その時間に彼は、腰に下げていた違う短剣を、少しズレた方向へ投げた。いや、これはミアリアを狙ったモノでは無い……。地面、を狙って……突き刺さる短剣。

 その瞬間、突き刺さった短剣を中心に爆発、爆風が発生した! そこに、時限発火式の爆弾も置いてあったかの様な衝撃。もの凄い力にミアリアも為す術無く吹き飛ばされる。

 その吹き飛ばされた先は……やられた。アーバックの手前だ。当然、その狙いを理解してたミアリアは両手の短剣を構える。


グギゥィン!


 火を纏った短剣と、風を纏った短剣。純粋に金属と金属がぶつかったわけではない、衝撃というか、歪みというか、良く判らない大きな力が発生したようだ。それを……アーバックとミアリアが強引に、己の腕力で押しとどめる。

 力比べはミアリアが優勢の様だ。二剣というのも大きいのかもしれない。が。アーバックは開いている左手でまたも腰の辺りのアイテムを弄っている。


 戦闘時の仕掛けという意味では、経験差が圧倒的なのだ。ミアリア……モリヤ隊のメンバーはこの一年で大きく成長しているとはいえ、元は家で燻っていた小姑とか出戻りとか、普通のおばちゃんなのだ(名誉のためにしつこく言っておくと、全員外見はハリウッド女優、パリコレモデルよりも若くて綺麗。これ本当)。

 彼が何歳から過酷な試練を受けていたか判らないが、戦いの場で多くの死を覚悟して、それを乗り越えてきたハズだ。


 狡猾さ、人を殺す、自分が生き延びる狡猾さで適うわけが無い。戦場はそういう、あらゆるプライドを捨てて生き残る必要のある場所なのだから。


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