0131:三人

(仕掛ける)


 イリス様が一気にトップスピードに乗る。槍の先に斧の刃が付いた長物……微妙に違うけど戟というか、方天画戟の槍が大きめ強めというか、まあ、とにかくくそ重いそんな武器を振りかぶったまま、救援活動している黒の騎士たちの背中から斜めに突っ込んだ。


「ぐああ!」


 こちらも奇襲だ。十数名が吹き飛ばされる。というか、腕とか飛んだ。綺麗に。


「なに! やはりセズヤか!」


 さっきの団長さん? が剣を抜く。さすが早い。先ほどの範囲魔術と今の突撃が、有機的な一連の攻撃だと即気付いたようだ。


 鈍い音を立てて、イリス様の戟を彼の無骨なロング・ソードが受け止めたようだ。が。受け止めた力を逃がすことが出来ず、地面に仰向けに倒れ、食い込む。ゲフッと咳き込んだと共に、口から血が溢れる。一発で爆死とはいかなかったが、かなり致命的なダメージは与えたようだ。さすがイリス様。


(まだ……いないようだ)


 イリス様からの思念。多分、アーガッド王と五天王がいないという事なのだろう。確かに。何かプレッシャーを感じるような相手は感じられない。


(いないならいないで良かったデス。とにかく早めに仕掛けたかいがありました。鬼の居ぬ間に蹂躙しましょう)


(了解)


(かしこまりました)


(オーベさんの周囲に騎士が群がらないように注意して)


(まだ、あの岩陰のハズです。気付かれないかと)


 まあ、オーベさんは戦争最多経験者だからな……この中で。ある意味歴戦の傭兵って感じなんだから、誰よりも流れを読むのは得意か。


「キサマら! 何者だ!」


「女? セズヤの女狐の脇にいたという……仮面の傭兵団か?」


「囲め! 敵は少数ぞ!」


 速い! さすが、国の精鋭。分析も早ぇ。あっという間に正体が判明した。情報収集も優秀ね。前に潰した某第四騎士団とは大違いだ。仲間を救出しながら、さらに外側から、攻撃対象を囲み始めている。


 が。まあでも。攻撃を仕掛けているのはイリス様だけじゃないんだよなぁ。


「ぐわっ!」


 銀の騎士が集まっていた崖際。そこにシエリエが襲いかかった。魔術士は……とにかく、この手の急襲に弱い。騎士とは言っても、まあ、体裁を整えただけだ。振り抜かれる短剣の乱舞に為す術が無い。次々と首筋を切り上げられて、血を吹き出しながら倒れて行く。


 その場にいた魔術士は十二名。うん、元々アルメニアに術士は、そんなに数が揃っていないと言ってたから、こんなものだろう。


(何か……来ます。かなり強い……)


 周囲、後方地域の警戒に当たっていたアリエリが見ていた方向……西か。アレは……うん、うちの人たちと同じ感じで、爆走してきている……んだろうな。うん。報告とほぼ変わらないスピードで三人の戦士が黒の騎士団の手前に出現した。


「おいおいおいおい……折角鍛えてやったのに……台無しじゃねぇか」


 身長は……2m近いか。偉丈夫だ。真っ赤な髪色。手入れをしていない……堅めのドレッドヘアに鋭い眼光。釣り上がった口元に犬歯……いや、牙か? 細めのだが大きい、両手で扱う青竜刀を背中に背負っている。防具は肩当てと肘当て。篭手のみか。


 その後ろ、躯はそれほど大きく無い。正統派のフルプレート系の騎士姿……だが、持っているのは短杖。さらに腰には幾つかの短剣がぶら下がっている。黒騎士……なのだが、周囲にいる通常の黒騎士とは違い、妙な雰囲気を纏っている。ああ、魔力か。これは。普通では無い感じで魔力を使いそうだというのが伝わってくる。


 さらに銀の騎士団の方、シエリエの方へ向かった巨体。最初のヤツよりも遥かに大きく分厚い躯は魔物なんじゃないか? と疑ってしまうくらい。だが、別に蛮族っぽい顔では無い。どちらかといえば温和で冷静な印象を受ける。大きな目、大きな鼻、大きな口。というか、最初のヤツの方が確実に蛮族顔だ。背中には両手槌。巨大なハンマーだ。今気がついたが……マントを羽織っている。


 たなびく真紅のマントには……多分、アルメニア征服国の国旗でもある、狼の紋章。その紋章はアーガッド王自身を表すモノでもある。そう。そんなマントを装備して許されるのは、この国で唯一の将軍しかいない。彼が奴隷将軍ゴバンだろう。


 ということは、大きい方が剣聖ホウジョウ。小さい方が魔剣士アーバックか。


「もうちょっと遅けりゃ、なんてこたぁ無かったのになぁ。オマエら……せっかちだな」


 喋るのはホウジョウ任せのようだ。アーバックは口を開かない。


「アルメニア騎士団全軍に次ぐ。下がれ! あとしばらくで、王の御成である! あまりに無様な姿は、かのお人を悲しませる!」


 ホウジョウのがなり声とは違う、低く響く声で、ゴバンが怒鳴った。大きな口が大きな声、音を生み出した。さすが将軍。その声、言葉には人を従わせる何かが載せられていた様だ。先ほどとは打って変わって、あっという間に怪我人の待避、さらに騎士たちの撤退が開始される。


 当然、イリス様たちは追撃をしようと牽制するのだが……尽くその剣線、攻撃の方向から味方を守るように、三人が構えていた。


(なかなか)


 イリス様の嬉しそうな意識が……心から嬉しそうな感情が……いやいや、できれば……王が到着する前に……なんとか決着を付けちゃいたいというか。


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