0127:征服国

 征服国。それにしてもなんでそんな名前を付けた。アレ? 日本ってニホン「国」だけだったよな。アメリカ「合衆国」、ソビエトは「連邦」「共和国」「自治国」……ってまあ、その国の維持形態に合わせて、自由なのかな。名乗りたければ名乗ればいいっていう。まあうん。


 そんなアルメニア征服国の領土は現在、以前の国境線、大渓谷まで押し戻されてしまっている。大渓谷の谷底には魔物が蔓延る大魔界らしいので、どちらの領地……とも言えないらしいが「この崖までがうちの国!」っていうのはもの凄く判りやすい。


「モリヤ。諦めろ。目を瞑っていればすぐだ」


 くそう……これが酷現実ファンタジーってヤツか。現実逃避くらいさせてくれたっていいのに。根本的に高いところは苦手なんだよ……。苦手っていうか、高所恐怖症なんだからさ……。


「うむ。苦手なのは良く判った。では、目を瞑っておれ。もう、五月蠅い」


 襟元を嘴で摘ままれて背中に放り投げられた。うわ、うわうわうわ、まあ、オタクオヤジがアワアワする所なんて観たくも聞きたくもないだろうけど、やばいやばい、というか、あの大地の端、崖っぷちの向こうに見える巨大な谷。なんでここだけグランドキャニオンなんだよーってそうか……ここも大渓谷って呼ばれてるってことは、グランドキャニオンってことか! ○○大渓谷とか名前がないのナーとか思ってたわ! って今気付くな俺よ。


「よし、ボルス、行くぞ!」


 俺を押さえ付けるようにオーベさんが乗り込んできた。あーもう、女子(年齢不詳)とタンデムで乗り物なんてそうめったに無いのに、そんなこと言ってる場合じゃ、もう、この鳥羽根でモフモフの中に顔を埋めて……鳥クサイけど、文句は言ってられない! 

 ふわっと……本当に簡単に空中に浮かび上がるあの……アレだ、遊園地の乗り物……大きい船型ブランコのバイキングが降りる瞬間の連続というか、ああ、もう、ヤバイ、怖い怖い、止まらない。


 えーと、説明すると。


 俺たちは大渓谷のセズヤ王国側に到着した。ここはオーベさんが見つけたアルメニア側にあまり知られていない、峡谷の狭い場所、らしい。確かに三百mは無かった。で、ここを渡るワケだが、谷へ降りてまた登るルート……というのも当然、存在するが、そういうポイントはセズヤ側が大警戒している。


 さらに、一度吊り橋を構築された(峡谷の一番狭い場所らしい)三箇所もセズヤが張り込んでいる。まあ、当然だが、反対側にはアルメニアの偵察、斥候の騎士が張り込んでいることだろう。現在この大渓谷を挟んで二つの軍が対峙しているのだから。


 吊り橋を落とした本人が自信満々で対岸へ渡れると言うので着いてきてみれば。モギの指輪の転移の様に、ハイノルドの秘術で短距離転移が出来ちゃうのかも……と思っていたら。


 単純にオーベさんの召喚獣の背に乗って、運んでもらうというかなりアナログな方法だった。


グリフォンネリアビルトのボルスだ。かわいいだろ?」


 モリヤ隊の三人は頷いている。


「旨そうだ……」


 イリス様? そ、それは……。ほら、ボルスくんが怯えてる! ほ、本能でこの女の人はヤバイ……と知っているのだろうか?


「喰わせんぞ?」


「そうか。グリフォンネリアビルトは鳥と馬の肉の良い所取りの味だからなぁ。昔、良く捕まえて喰った」


 いやいや、イリス様、この子、本当に怯えてるから。大丈夫かな……というか、俺も今のこの子の様に足がガクガクしてきた……。


「イヤーー-ーーーーーーーーー!」


 叫んでいるうちにあっという間。対岸へ到着した。


「ふう……」


 下に台地が見えていれば、別に自分の意志で降りられる。このボルスくんはそれほど大きいわけではない。というか、イリス様も言っていたが、頭が鳥、背中に羽根の生えたライオン? だろうか? 馬ではない。大きさは馬くらいの躯なのだが、足がライオンの様な骨格をしているためか、乗り降りは非常に楽ちんなのだ。 


「大きい声を出すな。男だろうが……と……うん? なんか変だな?」


「敵ですか?」


「いや……そうではなく……何か……ああ、まあいい。イリス様たちを運ばねばだからな」


 このボルスくん、操れるのはさすがに召喚主であるオーベさんだけ。イリス様もモリヤ隊のメンバーも馬に乗るのが上手いので、一人で操れないかと思うのだが、召喚獣は基本、召喚主しか乗せられないんだそうだ。ただ、本当の意味で信頼関係を築けると、もう一人くらいは乗せてあげても良いよ……と獣側から言われるらしい。現状がその状態という事だ。


 なので、オーベさんだけが非常に面倒くさいのだが、一人ずつ、こちら側へ運んでもらっているというわけだ。


 ふう……久々に叫んだ。こぇぇ。現在は谷や谷底が視界に入る位置にいないからいいんだけどね。

 次々とピストン輸送でこちら側に人が移動してくる。さすがに馬を連れて飛ぶのは無理なので、ここからは歩きとなる。うん、俺がイリス様に背負われれば、この人たちは尋常じゃ無いスピードで移動出来るからね……。


「あれ? そういえば、ミアリア……こちら側でも情報収集を行ったんだよね?」


「はい」


「ここ……どうやって渡ったの?」


「少々強引に……身体能力を上げて、さらに、風の魔術で背中を押しまして。落ちそうになったら下からさらに風を受けて……渡った後、着地時が少々危ないのであまりやりたくないですが。確か、自分が跳んだのもこの辺りだったハズです。大渓谷の距離が無いところは限られてますから」


「へ、へぇ……」




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