0128:跳躍
聞いただけで下っ腹アタリがキューンと縮み上がった。え? それは……えーと。つまり。
「もしかしてさ、アーガッド王ってさ、短距離転移のスキルとか、魔道具を所持していると予想してたんだけどさ……。トンデモナイ身体能力でここを跳び越えた……って可能性もある……わけ?」
「ああ……そうじゃな。転移の使える魔道具……お館様の指輪の様な性能を持つレアアイテムが迷宮などで見つかったという話は聞いたことがないのう」
「身体能力を風系の魔術で強化すれば大ジャンプは可能です。転移等に比べれば珍しくないですし。多分ですが、イリス様であれば簡単に跳び越えるかと」
「そう……だな。イリス様であれば、普通に跳んできそうだ。今はグリフォンに乗るのに夢中だったから、乗って来るだろうけど」
「はい」
普通に……ミスハルが言った通り、身体能力強化の術は使ったにしても、幅跳びしたということなんだろうな。
「オーベさんはどう思います? アーガッド王がここをどうやって跳び越えたかの謎解き」
「うむ……身体能力を上げてというのが一番有り得るかと思うがな。召喚術の使い手はそれなりにいるが、ボルスや、人が乗れる様な大きさの魔物を喚べる者は自分以外に知らぬしな」
そうか。王が、召喚術……術の使い手だという情報は一切ない。そういえば、この国、魔術士で名を上げている人物がいないな。
「魔術士はいますが……銀の騎士団所属の騎士は……およそ三十名ほどだそうです。一国の魔術士部隊として考えるとやはり、少ないでしょう。まあ、その分、付与魔術に長けた術士は、尽く、緋の騎士団に異動させられる様です」
緋の騎士団……魔術弓と呼ばれる、弓を魔術的に強化して撃ち出す部隊か。まあ、運用方法は基本、弓兵と一緒みたいだけど。ああ、いや、騎士でもあるので、基本馬上なわけだから……そうか。騎兵か。アレだ、ロシア騎兵を打ち破った日本の騎兵……秋山好古か。小説も読んだし、ドラマも見たぞ、確か。酒をガブガブ飲む……イメージしか残ってないけど。
通常の弓よりも射程も長いし、破壊力もアップする上に、火矢、拡散矢、爆発矢……話を聞けば聞くほど、散弾とか、榴弾とか、ナパームっぽいのとか、徹甲弾っぽいのとか。これは……結構厄介だな。さすがに囲まれてそれをバンバン撃ち込まれれば、イリス様でも痛い目をみそうだ。潰さないと。
「今回も……第四騎士団の時と同じです。ここでアルメニアに大ダメージを与えなければ、折角解放したセズヤが台無しになります。近々戦場を体験済みの精鋭揃い。更に率いるのはかなり強い将です。前回よりは当然、反抗もするでしょう。今のアールネイト陛下であれば、そう簡単に屈服することもないでしょうが……」
自力というか、超強力な武将、実力者が数人いれば……状況なんて簡単にひっくり返されてしまう。それこそ、うちの人たちが、今回のアルメニアの策をひっくり返した様に。
そもそも、この世界のパワーバランスはかなり歪だ。
スキルや魔術など、攻撃に向いているモノを持っていればそれだけで、幼い頃から目立つ場合が多い。そういうヤツは、冒険者になったり、騎士団の団員募集試験を受けたり、とにかく引く手あまただ。で。そういう中からさらに、秀でた者が現れる。まあ、わかりやすく言えばイリス様だろう。
で、イリス様とまではいかなくても、それに準じた者は結構それなりにいる。まあ、それを……武将クラス……とでもしておこうか。俺が判りやすいから。で、この武将クラスの戦士とか術士は1人で多数を打ち破る事が可能だ。
うん。おかしいところは無いよね? うん。それこそ、地球でだって魔術は無いモノの、強者と呼ばれる様な武将や戦士……項羽、呂布、関羽に本多忠勝、宮本武蔵、1人で千人くらいは平気で倒せた……と言われても別に怪しまない。というか、それくらい強くあって欲しい……なんていう願望入りで。
ただ。この世界の強者は……相手にするのが普通の人であれば百とか二百ではなく、千でも二千でもどうにかしてしまう気がする。それこそ、準武将クラスである騎士とか冒険者でなければ、足止めすら出来ない。戦闘員の数値が100だとすると、一般人の数値は1。絶望的な差が存在するのだ。
なので……それこそ、武将クラスの人間が、ロクでなしの場合。大抵が盗賊の長となり、周辺の村や街を襲い、最終的には国を潰すレベルの略奪集団を率いた例すらある。
略奪などの悲惨な犯罪……とはいっても、触れないというタブーは生きているので、レイプなどの性犯罪、性奴隷などのダークな一面は余り存在しないけれど。残酷な殺し殺され方をしたという記録はあるのだ。無数に。
さて、武将クラスが異常に強いこともあって、武力集団は少数精鋭となる。多分、多勢に無勢とならないギリギリの数……が、今の騎士団の人数なのだろう。
向こうの世界の中世くらいの……人口の中の軍隊の比率がどれくらいなのかは知らない。
が。「三国志」だと一人の武将が数万の兵を率いる……というのは読んだことがある。まあ、あの国の記録は基本、水増しだから、それを差し引いたとしても。一つの部隊が五千~1万の兵で構成される……なんていうのは普通にあることなんだと思う。
一万の部隊が数十集まって……それこそ、関ケ原の戦いは三十万VS二十八万とかだっけかな?
俺の覚えている、軍隊の人数的なデータは他に……ああ、自衛隊が二十五万人だったかな? 万人よ? 万人。アメリカ軍とか世界の大国は大抵百万人超えじゃなかったか? 確か。
だが、この世界の軍の単位は騎士団。1つの騎士団で百から二百。それがいくつ存在するか? これが国の主な戦力と数えられるのだ。人口的に魔物という天敵がいるとはいえ、そこまで人がいないわけじゃないと思う。にも拘らず、一部隊数百名。なので、それが幾つか集まって……多くても千。
一国が所有する兵力は、大体、千から数千名なんだよね。話を聞いているとどんなに大国でも一万程度だろうか。数万の軍勢は整えられなそうなのだ。
たったそれだけで治安維持が可能なのかと言えば、治安維持は一般人で構成される守備隊が行っている。そちらは都市の規模に合わせて、普通に数百名が従事している。
ということで、アルメニア征服国の動かせる全戦力が動員されているであろう軍勢が遠くに見えている。大渓谷の西側に広がる荒れ地。魔術による感知を警戒して、数㎞離れた台地の林部分から隠れて観察しているのだが、大体の所は判る。なぜなら、黒いのと、緋いのとが同じくらいいるからだ。どちらも四百ちょいづつだろうか。
この地で野営……何かを待っている様だ。って、軍が待つモノなんてそれほど種類が多くない。時間、季節、兵糧……そして、将だ。
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