0126:復国
今のセズヤには時間が何よりの味方だ。南レアランから中央レアランへ。そして王女は拠点をモルダンから、元王都のレアランへ移す。ここに、セズヤ王国の復国宣言がなされ、国として動き始めた。
なぜこちらが早急に動き始めたかといえば、さすがに、さすがに。そこまでの用事を置いといて、アルメニアの本隊が大渓谷手前に集結しつつあるからだ。
折角、反乱に成功し、国として復活しつつある最中に、再度、潰されてしまっては元も子もない。弾圧が酷かった分、反アルメニア、親セズヤ感情は大きく、義勇兵が集まり、膨れあがっている。まあ、つい最近まで数十の騎士ですらこと足りなかったことを考えれば、嬉しい悲鳴でもある。いきなり百単位となった騎士をどうやって養うかは難しい所だしね。
「で……抑えきれなかった、ということですか? 女王陛下」
「す、すまない……」
「貴方はそんなに簡単に謝ってはいけません」
「ああ、お前たちだけだ。それに今、ここには我しかおらぬ」
謁見の間、直前の待機の間。そこは比較的狭い部屋ではあるのだけれど、王族の待機する場所なので、非常に豪華だ。当然、近衛や警護の兵を配置する場所も整えられている。が。今は、我々と陛下のみでの会談となっていた。
第二王女であったアールネイト・シア・セズヤは既に、アールネイト女王陛下として即位されている。モルダンでの激辛スパルタ教育が身に染みたのか、建国後は特に果断な判断を下すことも多く、女王、女の王に対する表立った反抗は起こっていない。それどころではないというのは、誰でも判ることだからだとは思うが。
が。我々、謎の仮面の傭兵、ユーグラット傭兵団に関しては、かなり辛辣な、不要論まで巻き起こっているようだ。
元セズヤの貴族や重鎮と共に騎士や兵が集結しつつある現状、我々が里を出る際に何をしたかなども、正確には伝わらなくなってきている。少数精鋭と説明しようが、何しようが、聞く耳持たないヤツラが出始めたということらしい。
うん、信じられないよね。当然。あの何年にもわたって押さえ付けていた征服国の正規騎士団である「灰の騎士団」をたった四名で壊滅させた、すり潰したなんて。俺も。ゲリラ戦を繰り返す必要上、完全に隠密、独立部隊として動いてたからなぁ。
「アルメニア征服国との戦いが終わるまで、報酬の支払い等は行われないというのは絶対に何か企んでいる……とか、なぜ、あんな少数の傭兵を重視するのかとか、軍の大会議に傭兵団如きが出席するのか……などと、広言する者が出る始末で」
「まあ、そうですよねぇ。世間的に名前が売れているわけじゃないですし。うちの傭兵団。というか、多分、他の傭兵団からの工作員も紛れ込んでますね。絶対。やっかんでるだろうし」
「だが……我々がさして戦わずに各都市を開放出来たのも、灰の騎士団の残党をいつの間にか消し去ったのも、大渓谷の橋を全て数時間のうちに斬り落としたのも、ユーグラット傭兵団のおかげ、いや、そもそも、私がここで生きているのも貴方たちの力によるものだというのに……」
「いえいえ、国として考えれば、彼らの言う事の方が正しい。正体不明の謎の傭兵団が脇を固めている女王など、自国の騎士、近衛たちを蔑ろにしていると言われても仕方ありません。まあ、我々はだからこその仮面ですし、名前をきちんと名乗っていないわけですから。ですが……」
「ああ」
「現在集結しつつあるアルメニアの軍はそれなりに叩き潰す必要があります。特にアーガッド王と五天王のうちの何人かは出来る限り殺してしまいたい。でないとセズヤは再度攻め込まれズタボロにされることになりますから」
「ええ」
良い目をするようになった。若干ボーッとしたヌルイ表情が特徴だった王女は、今では確実に統治者、貴族の長としての表情を見せるようになった。威厳ってヤツなんだろう。きっと。
「ということで、では、我々はここでお別れしましょう」
「え!」
「いえいえ、陛下、そんな顔をされてはいけません」
「……」
頷く。そうだ。明言せずに、動作で示すのも王族としては大切な術だ。
「我々は責任、そして重圧に押されて逃げた……とでもお伝えください。まあ、素性を知る方々には確実な口止めを」
「は、はい」
「この足で大渓谷を渡り、アーガッド王の本陣にご挨拶に伺うことにします」
「……そ、それ、それは……」
既に陛下は、これだけで、我々が何をしようとしているか想像出来るようになっている。未来を想像出来る為政者は非常に有能だ。そこからヒントを得る事ができ、さらに動ければさらに良い。
「先ほど言った武将のうち誰かが欠けている、またはアルメニアが軍を引き下げ、交渉を……等という事態が発生した場合。報酬への反映、よろしくお願い致します」
「わ、判りました。それくらいのことは可能な様に国の体制を掌握しておきます」
「それは良かった。とりあえず、報酬に関してはしばらくしてから別の形で内密に受け取りに伺います。では。ご機嫌麗しゅう。陛下には本当に、失礼を致しました。お詫び致します」
「い、いえ、いえ。貴方たちのおかげで……私は現実と事実と、そして如何にして民を守り、富ませ、それを維持するのか? ということを考えさせられ、そして、自分の為すべき事に気付けた。あのまま、傀儡として思考を停止させたままいたなら、正直、この国は無くなっていたことでしょう。既に、私しか王族がいないのですから」
「あまり背負わぬことです。自分の代わりなど何処にでもいる。だからこそ、自分は死力を尽くせるのだ……というコトワザもありますし」
「代わりなど……何処にでも……」
「ええ。では。朗報をお待ちください」
陛下は大きく頷いた。まだ、幼さが残る顔立ちではあるものの。その目は確実にこの国の過去を乗り越え、未来に向かっている。これを消しちゃいけない。
そこは偉そうなコトを言って説教した……大人の役目だ。まあ、実務=戦闘はうちの偉い人に丸投げですけどね。
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