0125:蓄積された思い

 うちの国、あ、いや、メールミア王国の騎士団の単位、ひとつの騎士団は、騎士が百、随伴の従騎士、従兵、厩務員などが二百の三百が単位だが、アルメニアは騎士が二百。随伴が四百の六百人が単位となっている。


 で、現在、元セズヤ王国に駐屯しているのは灰の騎士団と緋の騎士団の一部らしい。隠れ里へ侵攻しようとしていた百名の騎士は、灰の騎士団所属と名乗っていたものの、ちゃんとした、正規の征服国の騎士団ではなく、モルダン周辺の都市にあぶれていた「騎士くずれ」や元セズヤの者で臨時召集され、編成された襲撃部隊で、所詮烏合の衆だったようだ。


黒の騎士団:王直属の騎士団。親衛隊としても扱われており、少数精鋭、迅速辣腕。この騎士団も二百名が所属するのだが、一軍は上位五十名のみだそうだ。まあ、数は多いが、うちのノルドの人たちみたいなものか。


灰の騎士団:非正規行動も多い、別名ならず者騎士団。刑務所を襲撃した際に一緒に抜け出して騎士となった者たちがそのまま中核になっている。騎士にはあるまじき、略奪、残虐行為は当たり前らしい。


緋の騎士団:緋色は赤というか、銅の輝きを指している。銅とはいっても、錬金加工された特殊な銅で、金の次に魔力を通すため、鏃に使用されている。つまり、魔術弓を装備した騎士団。


銀の騎士団:アルメニアでは魔術士が騎士として扱われているのが特徴。当然、他の騎士団に比べて人数は少なく、運用もほぼ個人単位でバラバラ。王直下の命令で動くことも多いが、それ以外は各騎士団からの要請があった際に要所要所に派遣されることになる。


 とまあ、建国からそれほど年数が経過していないだけあって、兵力自体もそこまで大きいモノでは無い。軍としてはメールミア王国よりも確実に小さい。メールミアには王国騎士団だけではなく、各地方に領騎士団があり、さらに、辺境伯軍など特殊な状況で、独自で行動している部隊も多い。


 アルメニアには領騎士団や辺境伯軍などの余剰が存在しないのだろう。それが痛い。それがあれば、今回、セズヤの統治にもう少し自国勢力を割くことができたハズだ。まあ、その分、隙が生じているわけです。こちらの付け入る。


 とはいえ、灰の騎士団は二百……はほぼ現存。ということになる。イリス様が削った八十名ちょいの雑魚騎士団を率いていたのはその灰の騎士団の部隊長だったらしいが、藻屑となって消えてしまった。


 つまり、残り二百弱の騎士が元王都であるレアランに駐屯していた。の。だが。


 モルダンが叛旗を翻したという報告を受け、その反乱の鎮圧のため王都を出立した瞬間に、元王都守備隊の反乱に遭い、王都に戻れなくなってしまった。連絡経路、命令も途絶え、その後は補給も受けられず、近隣の村を略奪しようにも既に大半が逃げた後で、行き場を失って周辺の市民から落武者狩りのように狩られる存在になってしまっている。騎士の装備は高値で売れるからね。


 ってまあ、そういう噂を流しつつ、とりあえず、まずはモリヤ隊に兵糧や糧秣を燃やさせて、奇襲夜襲を仕掛けさせたり、そこそこ強いヤツはイリス様が間引きしたりして、弱体化させたんだけど。


 ということで、アルメニアの軍師? のそれなりにちゃんとした策、作戦は、俺たちの出現によって、本当に大きく、とんでもなく大きく崩れてしまった。


 元セズヤというそれなりの大きさを持つ国に、二百名構成とはいえ、一個騎士団ちょいしか駐屯させられないというのは……うーん。ちょっと無理がある気がするんだけどなぁ。


 モルダンを押さえ、レアランも蜂起したと聞いた元セズヤの民たちの反応は早かった。次々と主要都市の支配層が討たれて、本来のセズヤの支配層生き残りに統治が移行していく。よほど、よほど腹に据えかねていた様だ。それだけ被害は尋常ではなかったのだろう。


 アルメニア征服国に従って都市を支配していたのは元セズヤの貴族も多く、ヤツラは「裏切り者」である。裏切り者を守るはずのアルメニアの騎士団は既に壊滅状態となっており、本国からの支援もしばらくは来ない……という噂があっという間に広まっていた。というか、広めたのは俺ら、主にモリヤ隊の三人だけど。


 あっという間に南レアラン地方は反乱軍、いや、セズヤ軍の支配下に収まり、北レアラン、中央レアラン、東レアランも確実にその方向で動いている。灰の騎士団の残りは補給の当てもなく、彷徨い続け、少しづつ数を失い既に半分以下になっている様だ。


 あ。なぜそんなに補給のあてが無いのか。遅いのか。食糧などの物理的にも、指揮官含めた人的にも。


 物理的な障害があるのだ。

 

 アルメニアとセズヤの間には渓谷が存在する。今回のセズヤのあっという間の征服劇は、この大渓谷をアーガッド王が謎のルート、謎の力で短期間で走破したことが大きな要因とされている。橋を架けて騎士団を一気に投入したことによって、各都市勢力の個別撃破が可能になったと言われているのだ。


 なので、橋。まあ、縄を渡してそれを固定させた吊り橋なんだけど、それを思い切り斬り落とさせてもらった。詳細はオーベさんに確認しないとなのだが、彼女が自分の召喚獣に命じて、破壊させたようだ。オーベさんの自由行動の目的は橋破壊。移動も含めて、一人でどうとでもなるというので完全お任せでお願いした。


 最初の谷渡りをアーガッド王はどうやったのかは判らないが、スキルや魔道具の使用で可能になったのだとしたら、逆にこの渓谷まで、王、またはそれが出来る将や実力者、自らがもう一度訪れなければならない。


 今の状況を考えれば、それはかなり手間がかかる=時間が取れるということになる。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る