0124:モルダン

 隠れ里から一番近い大きい街。城砦都市モルダンは非常にアンバランスな状況に陥っていた。


 実は、この辺りの情報、この地方の情報は、最初に水路の出口が繋がった時点で、モリヤ隊に調べてもらっている。現在、特筆すべき戦士、武将、魔術士はこの地方……いや、現在、元セズヤ王国には存在しないようだ。


 なんだっけかな。五虎将みたいなやつ。えっとアルメニア五天王か。彼らは近くにいない。天王っつたら四天王じゃないのか? という俺の疑問はともかく、まあ、事前情報によれば、それくらい有名人でないとイリス様は止められないのは確定的だそうだ。


 つまり、周囲に脅威は存在しない。舐められてますよ? セズヤの皆さん。


 まあ、強力な武将は攻略時に使用して、敵地を制圧したら、今度は西の最前線へ……という構想なのだろう。特に、我がメールミア王国はセズヤ王国と友好関係にあったこともあって、今回の侵攻には大きく憤っている。とは言っても遺憾の意を表明した程度みたいだけど。騎士団一つ丸々消えるという戦力不足は如何ともし難かったか。笑。


 ちゅーか、その辺の国力が下がった事実を掴まれて、次の攻略対象としてメールミア王国が狙われている……ということなのかもしれない。既に順次、侵攻作戦を発動している可能性も高い。


 我らの目的地、モルダンの戦力は守備隊が百名程度。この世界の戦力は騎士団が10とすると、同数の守備隊は3程度の扱いとなる。戦力として素人に毛の生えたレベルで、仕事も治安維持以上の危険な任務はほぼ騎士団に回されるのだ。


 その騎士団の主力は数日前に南の谷に向かった。残っているのは伝令部隊の数名と、病人の数名。守備隊の中から有望な者を厳選して、モルダン騎士団として取り立てる計画だったが、この地は未だアルメニアを敵国としている。


 もしも、高ランク冒険者が迫害されている市民を守る為に反抗し始めたら、為す術も無くこの都市は奪還されてしまうのだ。まあ、奪還後、維持できるとも思えないが。


 再度偵察に出てもらったが、そんな事前情報と変わらない日常の様だ。唯一の新情報は、捕虜用の馬車に詰め込まれている貴族の中に、この都市の都市長もいるらしいということくらいか。


 手柄……欲しかったのかな。うん。


 そんな状況のため、セズヤの残党との連絡も容易かった。元々、王女が里に隠れる際にこの都市の有力者に助力を得ている。


 次の日にはアルメニアの者やその協力者が、守備隊によって討ち取られ、門が開けられた。どんなバカが上にいても、精強な騎士団が付いていれば、万に一つも無いと判断したのだろう。征服国さんもギリギリのお家事情なのか、予備戦力とか余剰分とか、とにかく、余っている戦力は存在しなかった。


 アルメニア征服国の戦力は、話を聞く限りどう考えてもナンバー1がアーガッド王。細めの両手剣を振るい五十人を薙払った……という。まあ、多少盛っていたとしても五天王が仲間になるまでの武勇伝は彼が独り占めだ。王となる人物は、基本、その手の万能型が多い……のは、そうでなければ国を作ろう等と考えられないからなのかもしれない。


 さらに、この王がスゴイのは自分以外にも優秀な仲間が必要だと、仲間集めを優先した所だろう。これは……俺の様な現代地球で生活していた者からすると、いや、現代日本で生活していた者からすると様々な物語で当たり前になっているが、こっちの世界ではとにかく目の前の事象が全てだ。場が出来上がって結果として人が集うのが普通。誰にも教わらずに、自分一人では手が足りないと理解するっていうのは、結構難しい。


 まあ、五天王のうち、商人と軍師を除いた三人。この三人はまあ、個人的な武勇ならアーガッド王よりも確実に上、圧倒的だが、人格的に少々問題があるっぽい。


 特に剣聖の人なんて、気まぐれ……って。あ。うちにもいたや。もの凄く強いけど、自分の好きなことを優先しちゃう、命令には従ってくれない人。まあ、一人は領主で君主だしね。仕方ないか。というか、大事なお願いは確実に聞いてくれるだけ良いか。


 で、その王とその三人の下に、黒の騎士団、灰の騎士団、緋の騎士団、銀の騎士団という四つの騎士団が存在する。誰がどの騎士団を指揮するか? は臨機応変らしく、騎士団長が別に存在する。


 なんていうか、王はともかく、三人の強力な武人は勝手に戦うのが普通らしい。騎士団は、一般の兵との戦闘は勿論のこと、戦後の始末、包囲殲滅などの、敵を逃さない、戦後処理をしやすくするために存在する様だ。


 当然、制圧後の治安維持という意味でも使われている。もしも軍に所属しない大きな戦力(大抵が高ランクの冒険者)がいたとしても、騎士が2~3人いれば押さえられるという計算らしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る