0123:確認

「そもそも、今日我々がここに着いてなかったら、どうなってました? 貴方は現実を冷静に判断出来る能力をお持ちのはずだ」


「あ、え、伯爵が追われて……」


「追っ手に対処できましたか?」


「できなかったかと」


「では、この里の詳細な情報を持ち帰られて、深夜辺りに八十ほどの騎士たちによる包囲殲滅。貴方も捕らえられ、どこかの都市で公開処刑。そんな所でしょうか? それが有り得た未来です」


「……」


 あら、やだ、これぐらいはちゃんと予想してくれないと、いちいち説明するのん、面倒くさい。


 このまま任せると、モルダンに行く行かないだけで数時間の会議という、責任のなすりつけあいが発生しそうだ。


 オージェックの処分を含めて、侍女頭っぽい人に今すぐこの地を捨てる事、このままここにいると魔物や狼に襲われて、食い殺されると脅して外にでた。


 否応なく王女を連れ出し、馬に乗せ。林道を抜け、未だ煙燻る野営地に到着する。


げぇぇ……


 まあ、そうなるよね。うん。王女様、大絶賛、現実と対面中である。蝶よ花よと育てられて、現実と乖離したままここまで来てしまった不幸を思い知ってくれれば良いと思います。残念なことにこれから先……貴方の背負う重荷は、こんなもんじゃないのだから。


 為政者、しかも一国のトップの重責を思い知れ。でなければ、国民の血税で贅沢が出来る価値もない。


 まあでもここに来るまでに、80名ちょいの騎士が膝から下を失って血塗れ泥まみれで死んだり蠢いてるのを横目で見ながら来たからなぁ。


 林道を急ぎ、野営地では至る所に焼け焦げた従士、切り裂かれた騎士などが野趣そのままに放置されているのをどうしても目にしてしまう。


 既に吐き尽くし、胃の中に何も入っていない、出せるモノが無い状態にもかかわらず、胃が嘔吐き、何かを吐き出そうとする。多分、数日は何も受け付けないだろう。


 両手首足首を切り落とされて、回復の術で止血され縛られたお偉い捕虜の尋問も行わないとだなぁ。


 まあ、実際、「繋がっている」状態だと、惨殺現場も、鏖殺現場も、足を失う所も、首が刎ね飛ぶ所も、袈裟斬りで内臓がドバッと行くところも、全て目の前で行われている。VRなんて目じゃない。仮想じゃ無いしな。うん。


 転生転移モノのラノベで、日本人の転移者が、盗賊に襲われて最初の殺人を行った際に、イロイロと葛藤する……なんて場面があるわけだけど、なんていうか、対人戦童貞なんて第四王国騎士団との戦いで全て吹っ飛んでしまった。繋がっていると、前線のみんなと意識が同化してしまう。アレ、何人、この手で潰したんだろう?


 大いに燃やしたとはいえ、主に兵糧だ。野営地には当然、多くの馬車が残っていたし、逃げた馬も大多数が捕縛できている。早速、一番造りの良い馬車を王女の、反乱軍の旗艦とすることにした。まあ、本陣馬車ってヤツだ。


 兵糧を燃やしたのは、相手のやる気を削ぐためと、もうひとつ。こちら側……セズヤ側にもう少し覚悟してもらう為の策だ。この期に及んでやる事なす事全てに優柔不断でやりきれない。王女じゃなくても引っ張る者がいれば問題無いかもだが、この人たちにそんな余裕は無いようだ。では、王女=将来の女王に全て背負ってもらうことになる。


 というか、一番造りの良い馬車……は、四頭曳きの連結箱馬車……二台の馬車を強引に連結させた感じのかなりムチャなモノだった。そりゃ……ここで野営ってことになるよな。ここから奥はどう考えても入れない。というか、よくここまできたな。


「この手の改造ってよくあるのかな?」


「ノルドではありませんが……」


「馬車を大きくするというか、長くしたものは王家なんかじゃよく見るな。街なんかで曲がれない道があって替えの馬車が呼ばれてたりする。我々にとっては非常に迷惑な存在だな」


 いやいや……既に貴方もそちら側の人間なんですよ? イリス様。


 王女の準備が整うまで、しばしの休憩というコトになっている。騎士団(笑)の方々は、イリス様たった一人の暴力で口が縫い合わされた。さらに二人のノルド族が野営地を押さえたことを知っているのでなおさら何も言えなくなった様だ。


 文字通り、足を失った敵騎士たちは……人手も足りないというコトで、折角即死は免れたにも関わらず、あの場に放置された。順次、魔物か狼かの腹の中だろう。戦力は奪わなければならない。同じ理由で、生かして返せばもめごとになりそうな貴族や高級将校「以外」の者たちにも死んでもらった。


 斥候として敢えて殺さなかった者たちも、一緒に始末しておいた。時間をかけて攻め込む事ができるのなら、生かしておいて……って作戦もありだったけどね。速攻で城砦都市を奪うことになっちゃったからなぁ。


 捕虜とか言ってないで、殺しちゃった方がいいのかな? お貴族様も。

 

 彼我の勢力差が大きすぎて、征服国陣営で役に立つ者は削らなければならない。良い人だろうが優秀な人だろうが。


 さらに。その決断及び、命令を表向きは王女自らが行っているという形で命令書が作成された。実際に現場にも立ち会ってもらっている。これから先、屍山血河を越えて戦わなければならないという決意を抱いてもらわねばならない。我々と契約したということはそういうことだ。


 というか、奪われた国をここまで追い詰められた所から「奪い返す」ということは、そういうことだ。敵だけで無く味方にも相応の犠牲を覚悟してもらわねばならない。


「後悔……されていますか?」


 馬車の割り振り的に、王女と乗り合わせることになった。顔色は非常に悪い。


「いえ……」


「そうですね。王女殿下はこれから百、千、万という死体を積み上げてその上を歩いてゆくのです。覚えていてください」


「……」


「貴方の仕事はなんですか? 何をしてお金を稼ぎ、ご飯を食べているのですか?」


「……」


「そういう事です」


 王女はそれ以降、何一つ喋らず、こちらを見ることも無かった。気まずっ!


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