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森の影。この谷は元々深い森の中だが、林道というか、獣道というか、里への通路として使用されている細い道はある。その道に合わせて若干視界が開けている分だけ、その両脇の闇は深くなる。藪の中から下半身に向かって槍を突き出すだけで、森の中ではガチャガチャと五月蠅い重装な騎士たちは騒然となった。
まあ、騎士の人たちは……正面に立っている二十名くらいのセズヤ騎士団(笑)の人たちに意識が向いているところで、いきなりの不意打ちだ。戦争の悪夢ってヤツは何処にでも転がってる。
「我こそはセズヤ第四騎士団副長、ベルミオ・シア・クリフォールである! 我が剣のサビになりたい者はいざ尋常に勝負せん!」
ああ、あのゴツイヒゲ、そんな名前だったのか。名乗るなよ。若干であっても準備出来ちゃうじゃないか。
まあ、集中的に狙われる、矢面に立った時点でちょっと、あいつの点数を上げてやった。マイナス5000点から、マイナス4999点くらいにランクアップ。
薄暗い森の中、隠密行動を取ってきた騎士たちの足はそこで止まった。遭遇戦なんて一切予想もしていなかった様だ。
敵の隊長格は馬と共に谷の入り口で休んでいるらしい。包囲殲滅、包囲捕縛、包囲を逃れた者の対処など、小さな村を囲んで、そこに隠れ住む住人をいたぶる命令は各種提示検討されていたが、雀の涙ほどの戦力で、正面からぶつかってくるとは思わなかったのだろう。ましてや村に着く前の奇襲なんて。ですよね。
ゴズッ!
そこに鈍器が擦れ合うような鈍い音が響く。くくく。傭兵ですからね~しかも仮面の。卑怯だよー卑怯ー。
そもそも、総勢20名しかいないセズヤ残党に対して80で奇襲をかける様な敵に容赦はいらないじゃないですか。うん。
「なんだ?」
一瞬だ。一瞬、目の前のセズヤ残党に注目した一瞬で、自分よりも右にいた約十名の騎士が呻き声を上げて跪いた。何が起きてるか、理解出来ていない様だ。攻撃だよ、攻撃されているんだよ~。瞬時に気付け。
ゴズッ!
また。今度はその反対側にいた十五名ほどが地に倒れた。力に溺れている者は自分がやられることを想像出来ないんだよね。血塗れで足元に蹲っていた肉塊。アレは明日は我が身だろうに。
「あ、足?」
倒れた者の右足。膝から下が千切れて……いた。血が溢れ出ている。なんだ? こ、攻撃なのか? という顔。
ゴズゥ!
またも鈍い音と共に、今度は後ろにいた十名くらいが倒れる。さすが、アルメニア征服国の暴力機関第二位、灰の騎士団。呻き声は聞こえるモノの、取り乱したりする者は一人もいない。
「敵襲! 全方位! 警かい……」
隊長らしきヤツも最後まで命令を叫べなかった。辺り一帯が血風で息ができなくなる。人の身体が引き千切れていく凄まじい力に赤き霧が舞う。
二段突き。槍の攻撃スキルの一つで、一瞬で二度の攻撃を加えるんだそうだが、今、イリス様がやっているのは二段突きをさらに凄まじい速さで繰り返すという……まあ、エレガントな単語で言えば、単純な暴力だ。
あがああああああっ!
ゴズ……というのは様々な足が千切れる音が混ざって奏でられている。よく聞けば、いくつもの音が重なっているのに気付けるハズだ。さすがに呻き声も大きくなってきていた。
指示を出していたヤツも既に足がなく、動けない。多分、本陣には回復の術が使える魔術士もいるんだと思うが……うん、まあ、これからあっちはあっちでもっと酷いことになるからね。
イリス様は格が違うこともあって、イロイロな意味で手加減も上手い。まあ、このレベルの騎士であれば一斉に相手にしても、手加減して骨を折るくらいで収められる。今回は確実に行動不能にしたい、数を減らしたいので、膝から下を吹き飛ばしてもらっているが。
最初に向かってきた斥候の兵はね。ちゃんと報告してもらわないとだからね。生かしたけれど。こっちはいらないからね。
そもそも、こんな森の中を重装備の金属鎧を装備したまま歩いていること自体が愚かなのだ。軍師はそこまで言っていなかったのか? いや……面倒だから言う事を聞かなかったが正解だろうなぁ。どう考えても。
八十の騎士と従士たちが、尽く血風に変換されてゆく。これはもう、止めようが無い。蹂躙……という言葉の本当の意味を初めて知った気がする。
だが……本陣に向かったアリエリ、シエリエだと、イロイロとえげつなくなってしまう。難しいんだよね。全くの素人ならともかく、ある程度の強さを持っているヤツ相手にするのは。うん。だからといって他に手が無いのだから仕方ない。
あ。今更だが今回同行しているメンバーはイリス様、オーベさん、モリヤ隊からミアリア、アリエリ、シエリエの3人だ。現在俺の隣りにミアリア。セズヤ騎士団と共にイリス様。アリエリとシエリエは2人で本陣に向かっている。オーベさんは……自由行動。
まあ、ここでの大勢は決まった。ウチのナンバーワンにしてみれば、敵が少なすぎだ。後は本陣か。
いや。というか、お偉いバカが馬車が入れない谷奥に進むのを面倒くさがって、休憩している野営地が正解か。
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