0120:油断

 水路遺跡からこの里麓のへ山道で約30分。多分距離にして2~3㎞程度だろう。モリヤ隊やイリス様であれば、本気を出せば数分で走破可能だ。

 谷の入り口、敵騎士団本陣の場所までは普通に歩いて三時間程度……ということなので、足下の悪い道だということを考えて、10㎞程度だろうか? まあ、先ほどから「繋がっている」ミアリアによれば10分チョイで本陣のすぐ脇、野営に使われてるらしい、谷の入り口の草原に到達したようだ。


(魔術的な警戒などは行っていないようです……魔道具の存在も感じません)


(分かった。ミアリアは戻ってきて)


(はっ)


 最初からとんでもなく舐められてる……んだろうけどね。


 でも、それにしても。警戒心がなさ過ぎだろ? こっちに魔術士がいるかも? とか考えないんだろうか? まあ、今回の様な小規模な紛争ではほぼイナイらしいけどね。ってどんだけ出不精なんだよ。魔術士。斥候として活動しているなんて、これっぽっちも思っていないんだよな。うーん。


 というか、魔術士は一体どういう場面で活躍するんだ? 大規模な野戦とか? というか、魔術士がいる時点で、密集陣形とか取らないと思うんだけど。


 ちなみに、ノルド族は魔術も駆使して狩りを行う種族のために、こうして魔術を使った情報収集なんかにも理解は早かったし、当たり前にやってくれているが、通常の魔術士にそんなことを頼んだら、馬鹿にするなと怒られるらしい。


 情報収集なんていうのは下っ端というか、下賎な者が行うという風習の様だ。なんだろうなぁ。知ってる限りだと黒ジジイだけか。あの影とか操って情報収集に勤しんでいたの。


 まあ、でも、そういうモノかもなぁ……。日本の戦国時代も忍者や草の者なんて、もの凄く蔑まされていたそうだし、ヨーロッパの騎士団でも斥候隊は軽んじられるとか、偉い人間はやらなかったなんていうのを読んだ覚えがある。

 そもそもその辺の時代には情報を伝える大切な伝令自体もバカにされがちというか。戦わない、直接戦闘ではないってだけで、そこに価値を見いだせない。レベル的にはこの世界も似通った様なモノだ。脳筋思考なんだろうな。


「では、アールネイト王女殿下。我々はこれから戦闘に入ります。よろしいですか?」


「は、はい」


 王女殿下にはこちらに向かってくる主力の八十名の騎士を正面から受け止める指揮をお願いしている。なんでも、現在この里で戦える者は約二十名だそうだ。


 先ほど逃げ込んできた、後を付けられたバカ=マクシミリアン伯爵が合流し次第、各地方を巡回し、なるべく無血で兵を募り、敵がいれば奇襲転戦しながら兵を集めていく、回収していく寸法だったという。


 うん、無茶。というか、王女が訪れれば各地の城塞都市が勇んで門を開け、兵を出すと信じていた、いたようだ。うーん。バカなのかな? 理解出来ているのかな? 侵攻され、逃亡し、ここに落延びて。既に二年弱の年月が経過しているというのに。


 無理か。こんな奥地に引きこもった時点で統治権を奪い返すのは至難の業だろうに。


 まあ、反撃しようと力を蓄え、連絡を取り。それを作戦の初っぱな、先手を打たれて殲滅される所だった……と。


 しかし、亡国の王女、落ち延びた先で家臣二十名。ギリギリだろ、何て言うか。そりゃ味方も腐るわな。


 んーそれにしても。俺も別にこういう戦略とか戦術とかに明るい方では無いのになぁ。でもこの世界の人たちよりはちょっとはマシだよなぁ。と思えてしまうほど、こいつら何も考えてねーな。っていう。


 まあ、そうか。イリス様の難しい話投げ出し状態……を思い出せば、有名で強い武将がみんなあんな感じで作戦を適当にこなしている可能性も大いにある。


 ふう。征服国の監獄から助け出された軍師の……なんとかがこの作戦を考えたんだろうけど、大変だったろうな。きっと。あ、いや、ウチの国がアレなだけで、他国は智将が揃ってるとか? それはズルイ。


 そういえば……この作戦、絵を描いたヤツが影とか、情報収集要員を放ってないハズが無いよな。ある意味作戦の最終段階だし、重要なポイントのハズだ。にも関わらず、ウチの人たちはソレらしい者を一度も感じていないという。


 ん? ……そりゃ解せんなぁ……。まあ、いいか。良くないけど。とりあえず、今は置いておこう。


 というわけで、追い詰められて蹂躙殲滅されるハズだったセズヤ軍(軍と言えるほどの勢力では無いが)の奇襲攻撃で、反乱の狼煙が上がることになったのだ。


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