0119:追跡

 ああ、そういえば、征服国からセズヤ統治官として派遣されてきているのが、征服国内でも指折り使えないと有名なヤツラばかりらしい。素早く隣国を奪って二段構えで圧倒して征服する作戦の上に、最終的に使えない身内の処分まで兼ねている……と。


 更に元セズヤの裏切り者たちも、非常に人品骨柄卑しいヤツばかりで、旧セズヤの民をガンガン絞り上げ、気に入らなかったら殺すを繰り返し続けている。


 賢いな……この作戦を考えたヤツは。俺なんか比べものにならないくらい。今はまだ、俺の存在自体が知られていないから良いが……うーん。何か防御策を考えておかないとか。


 そもそも黒ジジイだって俺なんかよりも遥かに賢い。謀略という意味で。だって、そんな他人を陥れて自分の利とするなんて、ネット社会だと即炎上で鎮火不可能だった。他人を上手く良い気分にして自分の利とするのが、俺の社会人としての基礎だ。


 俺は自分で言うのもなんだが、攻める際には何とかなったが、守りに入ると非常に弱い。この世界の常識や情報不足から次の手を読むのに時間がかかる。


「王女、ご判断を」


「モリヤ殿、刃をお納めてください。ベルニオ。謝罪を」


「なんですと!」


「謝罪せよ! 愚か者が!」


「ぐっ……も、申し訳ございませんでした……」


「判りました、謝罪を受け容れさせていただきます。はい、では戦争のお時間の様です。出られますか?」


「な、何を?」


 ゴツイヒゲがポカーンとした顔を上げる。 


「今現在、こちらへ向かっている方々……どなたかは知りませんが、この里へ向かっている方。いらっしゃいますよね? 予定入ってますか?」


「確か今日は……午後にマクシミリアン伯爵が到着予定だった気が……」


「ええ、ええ、そのマクシミリアン閣下、バッチリ後をつけられた様ですね……斥候……強行偵察用の部隊がピッタリ追いかけてきているようで。追っ手は4……。逃げられませんね、これ」


「な、なぜ?」


「なぜ判るか? ですか? 傭兵が飯の種を教えると思います? 極秘案件に決まってるじゃないですか。で、どうします? 助けなくて良いんですか? このままだと死にますが。まあ、何もしなければヤツラは順次ここにも攻め込んできますね、多分」


「ま、マクシミリアン伯爵閣下は商いと兵糧のまとめ役。絶対に失ってはいけない方だっ!」


 イリス様を見る。頷かれた。ですか。


(ここへ逃げ込もうとしている逃亡者を救出対象に変更。追っ手は……多分、後から本隊が来てるハズだから、戦闘不能、怪我して身動きできなくして転がしておいて)


 了解の合図が伝わってくる。


「この里へ続く谷の入り口に軍勢ですか……」


 王女が報告を受けて目を瞑る。まあ、俺が最初に情報を伝えてから既に二時間経過している。動けなくした斥候も回収され、警戒行動を厚くしながらゆっくりとこちらへ向かっている様だ。


 数はおよそ百名からなる一個騎士団のみ。とはいえ、この谷間に馬での軍事行動が向いていないのは判ったようで、馬から降りて騎士のみが進んでいるという。


 馬と共に本陣を守る騎士が二十名程度。御付きの従者などもそこにいる。兵糧も一緒らしい。うーん。まあ、ここまで詳細な情報はうちの人たちが、現場にいて、その都度俺が尋ねないとわからないしな。


 その際装備などを変更することもなく、軽装とはいえ、騎士鎧に盾に片手剣だそうだ。この深い谷間に。森でもあるのに。ギャグか。谷を進んでいるのは約八十名ちょい。こちらの戦力はバレバレらしく、殲滅する気満々とのこと。


 魔術士の存在は判明しなかった。もしもいたとしても、護衛と共に本陣近くから動くことはないのではないかとの見解だ。なんでも、魔術士の攻撃呪文は平野での会戦で効果を発揮するものであって、この手の捕り物ではあまり役に立たないのだという。なんだそれ。なんで警戒すべきが攻撃呪文だけなんだろう?


 視界の悪い場所や、単独行動による各種威力偵察など、やれることは無限にある。それこそ、モリヤ隊での彼女たちの運用は、魔術士として……ではない。情報収集をメインにした尖兵、突撃兵としての役割もこなしている。というか、こなせるし。魔術があれば。


 まあ、こちら……というか、俺たちは魔術に対して警戒は怠っていない。魔術士は能力が高くなればなるほど、魔術を感知する力にも長けてくる。それこそ、単騎突入とかふざけたことをしてくるのならイリス様も気がつくし、オーベさんには既に谷中心に半径5㎞程度の常時調査は行ってもらっている。


 王都へ向かったときには「繋がれる」距離は半径約3㎞程度だったのだが、今は半径10~15㎞程度は問題無く繋がるようになっている。これが感覚共有が2になったおかげなのかどうかは……正直判っていない。とはいえ、この世界に於ける直接行動範囲圏内(車やバイクがないが、「はやかけ」等の呪文で強化すればそれくらいだろう)であれば、ほぼ意志の疎通が可能なのはありがたい。


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