0118:王女

 遠くから見るとそこそこ立派に見えたのだが……近づくとかなり……な感じだ。集落……と言っていいのか? ってレベルの建物たち。パッと見で、自給自足出来てないのは一目瞭然だ。五軒ほどの中で、一番大きな小屋に案内される。


「いきなりの提案に驚かせてしまったかと」


「いえ、御覧のような有様なのです。気取ったところで何もできません。ならば華美な鞘は要らず。良く斬れる剣があればいいのです」


 多分、唯一であろう広間にはセズヤ側が6人、こちらが4人(同行した残り2人のモリヤ隊には周囲の探索に出てもらっている)。


 正面真ん中に第二王女、アールネイト・シア・セズヤ。お飾りでなく先ほどのお互いの自己紹介、挨拶から、主な会話は彼女が仕切っている。年齢は……14歳。顔は……うーん、ちょっとのっぺりした美人? なのかな。着ている服もこの地に合わせているのか、村娘……と言われれば信じてしまうくらい地味なデザインのモノを着ている。まあでも高貴な雰囲気はお持ちだ。実際地球のどこかの国の王族にいそうな気がする。貧乏で子供の夢をちょっと壊しちゃうかな? っていう感じの王女様だ。


 髪の毛も縦ロールとかゴージャスとか何それ? ってレベルの、茶髪ストレートだ。


 歳の割には凄まじく利発なのだと思う。何よりも現在の自分の立ち位置の難しさを理解しているっぽい。


「では、我々ユーグラット傭兵団はアールネイト様に直接雇っていただきます。契約書などは……」


「あの、本当にこれでよろしいのでしょうか?」


「ええ、構いません。ではサインをしてしまいましょうか」


 その契約書は元王家とはいえ、このような状況で結べる様な内容では無かった。支払いは全て国土回復後。捕虜となった場合の交渉リストにも未記載でいいと書いてある。

 

 唯一のこちらからの希望は遊軍でいること。武力ではあるが誰の命令にも従わない。これは報酬としての金品何かより、よほど重要だ。


「たった4人で何が出来る! 何よりも先ほどから姫様に向かって何たる非礼。そこに直れ! 教育してくれる!」


「いや、契約書にもありますように最低6名ということで、人数は流動的になる可能性もあるといいますか」


 いかにもな、武将系のジジイがぶち切れていた。この部屋で一人、フルプレートの鎧を装備していたヤツだ。ちょっとした動作で周囲に干渉し、音を立てていて五月蠅かった。


 厳つい顔、身体。古強者ではあるのだろう。が、環境や、状況の急激な変化に着いていけないステレオタイプがこの先、生き残るのは難しいだろう。多少なりとも威圧感は出ているので、まあ、そこそこの武将、大将なのかもしれない。が。イリス様の本気のアレを知ってる身としては、いささか穏やかすぎる。


「そもそも、貴様は何だ? 偉そうに。そっちの女二人は名も知られている。役には立つだろう。だがたった4人! しかも唯一の男がこんななんの役にも立ちそうも無いヤツで……」


 首筋に後ろから細い刃が当たっている。


「お館様に対して、これ以上、汚い言葉をほざくならすぐにでも話せなくしてやろう」


 いつの間にか後ろに回っていたミアリアがヤバイ目で手を傾ける。薄く赤い血が、刃に伝ってテーブルに落ちる。


「ミアリア。そこで止めろ。所詮ザコの遠吠えだが……」


「……」


「申し訳ありません、王女。この会見に出席しているということは護衛の長程度の役付きではありますか? まあでも、こちらで勝手に処分しても問題ございませんよね。契約を交わそうとしている傭兵団との交渉を無きものにしようとする敵対勢力ですから。この男はもしやすると征服国の手の者やもしれませぬし」


「ばっ! な!」


 ゴツイヒゲは声にもならない。まあ、コイツが将軍だろうと王族の血の入った縁戚であろうと今回の戦争で死んでもらうことになるから関係ないか。俺に対して何か言うのは問題ない。だが、明かな女性蔑視主義者は、女王の治めることになるこの国に必要無いだろう。当然だが、我がユーグラットには本当に必要無い。ということで、早々に切り捨てるのに限る。


 ある程度、強気で行くという方針はオベニスから出る時点で決まっていた。女ばかりの傭兵団など、とにかく舐められる。特にこの様なバカには容赦せず身体で理解させるのが早いそうだ。


 厄介なのは、体裁を整えられるバカだ。反論せず、挙げ足を取られないため、嵌めるのが難しい。このタイプは身体に教えても根に持つだけなので、やり合っても何一つ得しない。


 無視するしかないとのことだが、まあ、論理的に納得できないなら、冷静に対処して追い出せば良いのだ。無能で存在するだけで害を撒き散らすなら、いない方がマシだ。大卒インテリ系のフリーター、バイトに良くいた。その辺も馴れてる。例えば、王女の右奥にいるひょろ長い顔をしたアイツ。あの目は俺たちだけで無く、王女すら認めてない。




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