0116:北国

 水路を抜けるとそこは雪国だった……わけではないが、オベニスよりも確実に涼しかった。さすがうちに比べて北にある土地。森の中、そこに生えている木々も針葉樹的な作りのモノが多い。


 深い森の中、数百年は歳をとっているような大木が日差しを遮っている。麓には石造りの階段。俺たちが地下から出てきた辺りは途中で大きく崩れていた。元々はアーチ状の屋根と、壁……うーん。地下鉄出口と神殿が組み合わさったような外見の施設だったのだろうか? 今では完全に廃墟遺跡と化している。


「入口は大樹の根に隠されているのか。これは……あると言われて探さなければ、絶対に見つからんな」

 

 セズヤ行き。厄介な人が追加されていた。白髪ロン毛、緑瞳、色白……なんていうか、よく出来たマネキンのような容姿で言うのは、オーベさんだ。戦争……その残り香と聞いた瞬間に、彼女が同行することは決定したらしい。


 イリス様とファランさん、俺で大体の方針を決定したところで、モリヤ隊隊長であるミアリアと相談した。


 現状、王都の様子や周辺領の調査に派遣されている者を除くと、今回セズヤに向かえるのは3名程度になりそうだった。ミスハルも、王都方面で重要な調査に動いていてここにはいない。


 イリス様には動いてもらうしかないとして、俺。計五名。


 ファランさんは動かせない。王都の時と同じく、何かあった時のためにオベニスを任せることになる。


 とりあえず、それでいいかと話していると勢い良く扉が開き、入ってきた白いのが開口一番。


「戦争と聞いた。参加する」


 話を聞いて愕然とする。履歴書の情報を忘れてたわ。すっかり研究畑、学校教育、識者的な感覚でいたけど、この人、イリス様よりヤバイ、病み系のバトルマニアだ。


 イリス様たちは、まだ、迷宮で魔物に対して気炎を上げている分だけマシだ。オーベさんは対象が人なのだ。


 責任を問われない状況で、自分の研究の成果を確認したいだけだ。実践的な使えるデータ収集を兼ねて。


 まあ、「召喚妃」「残酷な月の魔女」の通称は大陸的に有名で、知名度では「荒れ狂う鬼」よりも遥かに上らしい。そりゃね。生きてる時間が違うみたいですしね。ええ。


 今は猫の手でも借りたいセズヤ的にはとんでもなくありがたい助太刀だろう。


 あと、戦争にはこういう遠慮無くぶっ飛ばす系の人が必要なのも確かだ。


 で。落人の里はここから30分程度歩いた所にあるという。


「さて、領主様、ここには今、我らしかいない。そろそろ種明かしといこうか? モリヤの、この界渡りのスキルの正体はなんじゃ? イヤに強者が集っているとは思っておったが、その理由がこいつか?」


 と、白いのがいきなりぶっ込んできた。まあ、ですよね。ファランさんの師匠にして、大陸に名を馳せた強者。色々と気付いていないハズがない。それを何も言わずにいたのは、機会を伺っていたからか。


「特に領主様の強さは異様じゃな。会った瞬間に、正面からぶつかれば確実に負けると思ったのは、いつぶりだったか。搦め手か、準備をキチンとした罠を主体にした戦い方じゃ無いと勝てんじゃろうな」


「……オーベさんは、それを知ってどうしたいのですか?」


「どうもせんよ、だが、強さには興味がある。その訳にもな。目の前に謎の力がぶら下がっておるのに、飛びつかないバカはおらんじゃろう?」


「飛びつくなら、イロイロと誓約をお願いしなければなりません」


「ああ、ああ、かまわんかまわん。高々100年程度の約定であろう? 我もな、言うて無かったが、ハイノルドでな。時間なら無限にある」


 ハイノルドと聞いた瞬間に、モリヤ隊の三人が驚愕の表情を浮かべ、片膝を付き頭を垂れた。


「ああ、よいよい、そうなるのが面倒なので言わぬようにしているのじゃ。これまで通りにせよ。命令じゃ」


 オーベさんはあっさり暴露したが、ハイノルドは、ノルド族の王の血筋だという。というか、母? のような? とにかく偉大な存在で、命令は絶対と教えこまれるそうだ。


 長命で千年以上生きる。ただ既に伝説の存在で、その血脈は絶えたと言われている。本来、ノルドはハイノルドを「本能」で理解するモノだったらしいのだが、ここ数百年、ハイノルド自体を見かけなくなっているので、オーベさんがオーラを抑えれば、全く分からないらしい。というか気付かないらしい。


 ノルド隊の面々は突然の事に戸惑っていたが、なんとなく、今の話が嘘では無いということは分かるらしかった。伝説のハイノルドを前に、声も出ない。無駄な会話も無くなった。いやいや、色々とずぶとい彼女たちですらこうなのか。本能……DNAに刻み込まれているということなのかもしれない。


「判りました。ですが、未だに私も自分の能力を把握し切れてません。大体のところでいいでしょうか?」


 イリス様の目を見る。任せた……という顔で頷かれた。また丸投げか! 連続丸投げか!




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