0115:セズヤとの接触

「できれば早急にらしい」


 セズヤの落人の里へ先触れとして文書を持たせたモリヤ隊のメンバーが、役目を果たして無事帰還した。まあ、当然だが、極秘接触になる。こちらも国に知られたくないが、あちらは現在、絶賛反乱準備中だ。公にはしたくないだろう。


「国として大きな約束が出来るような現状ではないため、何か希望を述べるには及ばないが、三つ首竜討伐の勇者の力をお借りできるのであればそれに勝るモノは無い……そうだ」


 モリヤ隊の調査からも、ヤバイ臭いがプンプンしてきている。現在、落人の里には元セズヤ王国の重臣たちが行商人に扮して頻繁に訪れているらしい。

 かの地を治めているアルメニア征服国は、元セズヤの民たちにかなり酷い扱いをしているという。それこそ、どこで火が付いてもおかしく無いレベルだそうだ。そのため、唯一残されている王族、第二王女であったアールネイト・シア・セズヤの旗の元、各地に潜んでいたセズヤ残党が連携を取ろうと必死なのだという……。


「どう考えても罠ですよね」


「セズヤがか?」


「いえいえ……征服国の、です。元セズヤ残党、一気に潰す気マンマンだと思いますが」


「どういうことだ?」


「苛烈ですが……侵略した国の民に苛烈を強いるって、あまり得策じゃないですよね」


「ああ」


「そうだな。今後、税を納めさせる働かせる事を考えれば、征服したからといって締め付け過ぎるのは反乱を招く」


「なのにそれをした。ということは意図があるハズです。征服国の侵攻は非常にスピードが速かった。当然、準備不足な局面は多かったと思います。それでも急がないといけなかった」

 

 一人じゃないのだ。パーティでもない。軍隊だ。数千、数万の戦う者たちの集合体だ。


「最初に征服した神聖国でしたっけ? そこは蹂躙し、燃やし尽くしたんですよね? 兵糧も燃やしたのかもしれません。必要以上に。なのでそれほど裕福では無くとも、セズヤを墜とす必要があった。その結果。多くの人材が難を逃れたのでしょう。最終的に主な王族は全て捕らえられ斬首されているので、向こうの作戦は成立してます」


「軍師……ミルベニとか言う者の策という事か」


「そうですね〜。んーというか、単純に効率優先……だったのかもしれませんね。第二王女はわざと逃がされたんだと思います」


 イリス様、ファランさんも考えこんでいる。この二人はとことん、考え方が善性なのだ。あと、狡くない。命の値段が安い世界にも関わらず、見知らぬ誰かの足を引っ張ろうとしない。生きていることが、生存競争に勝っている、誰かを蹴落としているのに。


 こういう考え方をする国、いや、多分軍師のいる国との戦争は……なかなか厳しいかもしれない。


「第二王女は餌にされたのです」


「えさ?」


「ええ。いつでも首を取れた、斬れた、王女をわざと逃がして、残党に喰い付かせ一箇所に集めて……殲滅する。セズヤは二回敗れる。完膚無きまでに。そこまでされれば、さすがに民の心も折れます」


「軸になる王族も貴族、豪族も、もういない……」


「ええ。いませんね。そこで初めて、弾圧を緩めます」


「心が折れた所で、か」


「はい。非常に過激ですが、短期間で属国化完了です。この後、反乱が起こるにしても、しばらくは余力がないでしょう」


「しばらくとは?」


「アルメニア征服国……三代くらいでしょうか」


 さて、問題は。そんな征服国はなぜ、それほど速く隣国を完全属国化したかったのか。糧秣が必要だったのは最初の頃の略奪で解消しているハズだ。


「話に聞くに東の蛮族の領域は得るモノが少なすぎます。ということは、西のモールマリア王国か、我が国。攻め込みやすいのはどちらですか?」


「メールミア……だろうな」


「ああ、騎士団が1つ消失しているしな……詳細はわからなくても、純粋に戦力減なのは探りを入れればすぐに判る」


 ならば、それはもう、絶対に……隣国よりも豊かな国……近隣諸国、我がメールミア王国へ攻め込むことを前提にしている可能性が高い。


「我々はメールミア王国から独立したつもりでいるわけですから、それでも良いのですが~セズヤとメールミアを征服し、勢力を大きくしたアルメニア征服国と戦うコトになるのは非常に厳しいというか、面倒くさい事になると思います」


 上手いこと王族を中心に弱体化して、その隙に周囲の辺境伯領を押さえる……なんていうSLG的な駒運びは、リアル戦争では不可能だろう。というか、戦争未体験者である俺が、そんな伝説の名軍師ばりな采配が出来るとは思えない。


「状況にもよると思いますが……そこまで追い詰められているというなら、前にお話した第三の案。セズヤの王女に女王になってもらい、領土を回復。我々は仮面をしてそのお手伝いをする。でしょうかね」


「その利点は?」


「仮面の傭兵団なので、顔や名前は売れないですが。新セズヤ王には恩が売れます。とりあえず、向こうと接触してみないと判りませんが~イリス様とモリヤ隊数名で反乱軍に加わるのが……ベストでしょうかね……」


「それでいこう」


 あ。イリス様が……思考するのが面倒になって投げ出した。そして、戦闘大好きっ子の顔をしている。感覚でOK出した……。ヒドイ……。そういう所だぞ? 


 というか、数日時間を置けば、うちのメンバーの鑑定をしたり出来たと思うんだけど……。その辺も後回しにして、地下運河の向こうへ向かうことになった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る