0112:呪文
「いささか或る響き渡る 言葉を捧げん、日々を捧げん、豊穣と約束と我が魔力を捧げん。風を。我が指先に風を。我が道を妨げん彼奴らを裂き、その道を示せ。風よ!」
ブツブツと呟く様に詠唱してみる。や、やばい。何かが指先に集まってきている実感がある。これが力か! 我が真の力なのかっ! っていうか、この年齢で厨二病発病か!
いやいや、だってさ、無理よ、子供の頃から憧れてた、魔法の力ですよ? TVゲームやTRPGで何度使ったか判らない、ウインドカッターですよ? なんだ、そりゃもう、厨二っぽく振る舞いたくなるのは当たり前だろうというか。辛抱貯まらん。
ここで余計なことを考えているとダメだというのは何度も言われた。とにかくこれから発動する呪文の事、術の事を考えろと。
よし、指先から風の力……えーと。丸いカッターの刃が回転して浮いている。UFOの様に。あーそういう必殺技あったな。アニメで。それが自分の指先の方向へ真っ直ぐに飛んでいく。
と、そこまで想像した瞬間に、フッとそれまで指先に集まってきてた何かが、真っ直ぐに飛んでいった。目標違わず、30mくらい先に置いてあった薪が吹き飛んだ。
アレ? 斬り落とすつもり……だったんだけどな。当たったのは良かったけど……と、近寄ってみると、おお~2㎜くらいの溝。綺麗に切れ目が入っている。薪の中央部……までは届かず、1/3程度食い込んで消滅してしまったようだ。
あれ? ファランさんから何も言われないな。まあいいか。ちょっと悲しい感じだったしな。薪くらい切り落とせないとか。
領主の館の裏庭。モリヤ隊の魔術訓練場だ。薪の切り出しや、材木の切れ端、建材に使われる石などが適当に積み上げられている。ここには「ついうっかり」入って来る人がいない。奥は森だしね。さらに一方は斬り絶った崖。壁で囲まれている。
館の裏口は、俺が訓練していた部屋(元物置。通称ゲロ部屋)付近からのドアのみ。そこにはファランさんが立っている。
再度、薪を立てて置く。元の位置に戻り、詠唱を開始する。イメージは……うーん。足りなかったのはスピードだろうな。丸いカッターの刃が高速回転……丸鋸よりも速く回転しながら、飛んでいく。飛んでいくスピードは……瞬間音速を超えようか。あ、でも音速超えると、ソニック・ブームが起こるんだよなぁ。とはいえ、これは戦闘機じゃ無くて、丸いカミソリ……しかももの凄く薄い。0.01㎜でいいか。ギリギリまで薄くすれば大した衝撃破も発生しないだろ。多分。よし。
シッカッ!
堅いモノがぶつかる様な甲高い音が響いた。アレ? 今度は吹き飛んでもいない。外れちゃったかな?
近づいてみると、見事名中! 薪の上部、5㎝くらいが完全に切り離されていた。威力が上がったのかダルマ落としの様に突き抜けてしまったようだ。おお~。これはなかなか。高威力。最初に放ったモノに比べて超高速だったからだと思うけど……消費された魔力はそれほど差は無いと思う。
「モリヤ……お前、いま、何をしている?」
「え? 何って風裂を何回使えるか検証してますが……」
「それ以前に……なぜ、最初から呪文が成功している?」
「?」
「呪文を成功させるには、通常は少なくとも数日、長ければ数十日かかるはずだ」
そ、そうなの?
「はずと言われても……出来てしまいましたが……風裂」
「さらに、風裂……きりさきは木の幹に傷を付けることは可能だが、それ以上でもそれ以下でも無い術だぞ? 人であれば、目や首を狙って切り裂かなければ、致命傷にはなりにくい。腕に突き刺さったとしても貫通する事は無いし、切り口が綺麗なので回復の術ですぐに治ってしまう。それが何故……薪を斬り落とすことになる?」
え? だって、攻撃魔術なんてちゃんと見えなかったし……こないだまで。そういえば、俺、魔術制御が生えてから、元の風裂をちゃんと見たことないもん。そんなことを言われてもなーそうなっちゃったんだからしょうが無いじゃない……。
ちなみに、魔力制御があると、風の刃の形が目で見える。というか、魔力が関係する何かが目で見えているように感じる様になるというか。見本でファランさんに見せてもらったのは、なんとなくだが、緑色のナイフの刃だけが飛んでいく感じだった。風=緑っていうのは俺の既存概念、思いこみなんだろう。
「さらに……風で出来た刃……丸い形のヤツだな。なぜ、あの形なのかも分からんが、アレが目で追えぬ。なぜ、そんな事ができる?」
え? そんなことを言われても……。うーん? ハテナ? 良く判らないな。なんで? えーと。速く動かそうと思ったから? かな?
「魔力を必要以上に込めている……ようにも見えなかったが……」
「うーん……正直良く判らないです。ただ、最初のも次のも、消費した魔力自体は変わらない気が」
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