0111:魔力総量

「うむ、ではまずは、危険の少ないということで水か」


「いささか或る響き渡る 言葉を捧げん、日々を捧げん、豊穣と約束と我が魔力を捧げん。水を。我が掌に水を。水よ!」


「これを覚えよ」


 え? え? なんか……ファランさんは詠唱でなんか違う言葉……いや、前はなんか、外国語ともまた違った変な言葉を唱えているな~としか聞こえて無かったのに。なんでだ? なんで、呪文が普通に聞こえるようになった?


 この世界には魔術が溢れている。というか、日常一般的に使用されている。火を付けるのに、水を得るのに(とはいえ、大量の水とかになると魔力が足りないらしい)。だが、そういった日常で使われる魔術はほとんど、一言詠唱で行われる。判りやすいんだそうだ。ノルド族なんて、子供の頃から、「風をよ」と呟きながら想像すればそれがそのまま具現化するらしい。


 まあ、なので、本格的な詠唱が必要な魔術=大規模な魔術=戦闘行為や土木工事で使用される呪文に限られてくる。それこそ、普段使ってる火種の魔術も、詠唱して増幅させ飛ばすことで立派な攻撃魔術、火矢ファイアアローとなるのだ。


 物理法則は、ほとんど関係ないというか、無視だしな。なんで、呪文詠唱時に指定したからって、火が飛んでいくのか。風が魔物を切り裂くのか。そこにある原子とか分子とかそういうレベルのモノを「移動」させて「再構成」させるだけじゃない。明らかにこの世界の事象に「干渉」しているのだ。


「詠唱は古代言語、最近ではアルモギーネ語と呼ばれている言語で唱えなければならない。まあ、覚えてしまえば、口から出す必要もないのだがな。丸覚えで構わないぞ」


 というか……うん、多分、俺のほんやくこん○にゃく(言語理解)が万能何だったら、それがどんな言葉か? というのが判れば、問題無く翻訳してくれるハズだ。さっきのがそうだろう。

 そもそもなんで、前に聞いたときは良く判らない言葉だったんだろうか? これも魔力制御のスキルの一部……ってことなんだろうか? まあ、それくさいよな。


 魔力制御のスキルを覚えたことで、魔力とか、魔術にまつわる様々な事象を理解出来るようになった……っていうのが正解なのかな。いきなり、セタシュアから魔力が溢れ出ていたのが見えたりしてたしな。


「ファランさん、基準となる魔術というか、呪文ってあるんですか? 魔力総量を計るために使われるような」


「先ほどの水を生む呪文……普通はコップ一杯程度だな、それか、火種の呪文、指先に10秒ほど火を灯すのも、多くの人が使っているだけに、基準になりやすいな」


 アレか、使用人とかで火種の呪文×8回とか履歴書に書いちゃう感じか。技能だもんな。うちの使用人の方々は……あれ? そこまででもないか。回復の術が使える人……くらい? 火属性の人は見たこと無いし、風はうん、モリヤ隊全員がいけるけど。


「まあ、術士の魔力総量は多いからな……それこそ、属性毎に違う。火であれば、火矢か。風なら風裂。ああ、ノルド族のきりさきだな。水は……使用者が穏やかな者が多いせいかあまりその手の自慢は聞いたことがないな。土も似たようなモノだが、土柱をどれくらい作れるかで、戦場での砦の建設等の現場での報酬が変わることがあるとは聞いたことがあるな」


 ……自慢か。というか、そういうことにしか……使わないのか。


 なんか低レベルな気もするけれど、冒険者とかそういう、自分の実力を誇示するようなやり方は当たり前の様にするんだろうしな。この領、館にいると、そういう野蛮な世界だってことを忘れてしまう。


 異世界転生モノの定番みたいに、冒険者ギルドで絡まれるみたいな、そういうのが当たり前の世界。


「うちの場合、風の術士が多いですから、もし風の術が使えればもの凄く判りやすいですかね?」


「ああ、まあそうだがな。というか、モリヤは風属性なのか?」


「いえ、これから試そうかと思うんですけど」


「希望の属性が扱えなくても、落ち込むことはない。お前は既にそのとんでもない指輪、魔道具があるからな。魔力制御が既にあるから、いずれかの属性は扱えるとは思うが、どんなに希望しても魔力制御すら授からないということはよくあることだ」


 ああ~アレだ、魔力制御があっても、それ以上の魔術、属性適応みたいなのが無いと通常の術は使えないんだろうね。それで一喜一憂どころか、人生を絶望するとかそうでないとか、色々あるんだろうなぁ。


 うん、あるよね。魔術が個別の特殊技能的な扱いだもんな。使える使えないで……合格発表とか、就職内定とか……。そういうレベルでの一喜一憂はあるんだろうな。当然。レアな属性とかもあるだろうし。


「ああ、ならば、風の呪文、風裂が先でもいいか。基準を知るにはそっちの方が色々分かっているしな。モリヤ隊が訓練場に使っている裏庭がいいか。あそこなら人は絶対に来ない」


「いささか或る響き渡る 言葉を捧げん、日々を捧げん、豊穣と約束と我が魔力を捧げん。風を。我が指先に風を。我が道を妨げん彼奴らを裂き、その道を示せ。風よ!」


 風の初期攻撃術、風裂の呪文はこんな感じだった。アレだ、水とそんなに変わらない。微妙な違いと、敵を倒せ的な指示はあるモノの、イロイロ捧げて、風に何をして欲しいかお願いすると。うん。その呪文の言葉のシステムは大体判った。




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